第九章の弐 ~星の御加護~

 アステルの持つ力は四天王の四人とは比べ物にならないくらいに大きかった

 ナターシャも戦いに参加してくれているがあまり効果はないようでショウとアステルの一騎打ちになっていた

 今の魔力で膨大な力を持つアステルに当てる確率は万に一つもないだろう

 いや、魔力がMAXあっても勝てるかは微妙といったところか

 

「何だか張合いがないわね。 ここまで来たって言うから少しくらい強くなっているのかと思えばその程度。 呆れてものも言えないわ」

 

 アステルは溜息をつきながら言った

 

「俺はヒカルを返して欲しい!! ただそれだけなんだ!  確かにカリーナ・・・・からはお前を止めろとも言われたがそんなのは今の俺にはどうでもいいんだ!  ヒカルが無事なら!」

 

「カリーナだって?」

 

 アステルがカリーナという言葉に引っかかった

 何か共通点でもあるのだろうか

 

「懐かしい響きだわ。 カリーナ、ねえ。 ふーん⋯⋯」

 

 アステルがブツブツ言っている間にもショウは攻撃をしているのだが全くダメージが入っていない

 

「ねぇあんた、私のおなじ『星の御加護』の持ち主なんでしょ?  それなら本当の姿ってやつを見せてあげる」

 

 アステルはそう言うと決して大きくはない胸元に手を突っ込んだ

 何をするかと思えばブチッと何かを引きちぎる音がした

 アステルは引きちぎったものを捨てる

 それはショウも持っている、あのペンダントだった

 なぜこのペンダントをアステルが?

 考える暇はなかった

 アステルが黒いモヤに包まれたからだ

 ショウは咄嗟に目を身構えた

 またアルファルドと同じ怪物になってしまうのではないかと思ったからだ

 黒いモヤはアステルの体を一瞬にして包み込み一気に晴れる

 黒いモヤの中から現れたのは怪物、ではなくその力を完全に自分のものにしたかのような黒い影になっていた

 

「これが『星の御加護』の真の力よ。 あなたにこれができるかしら?」

 

 そんなの無理だ

 俺に出来っこない

 ひよっているショウを放っておきアステルはナターシャに話しかける

 

「そこのお嬢ちゃん、君は一体誰に創られたのかな?」

 

 創られた?

 こいつは何を言ってるんだ?

 人間はみな母親から生まれたに決まってるだろ

 それともこの異世界では違う方法で子孫を増やせるのか?

 

「赤き瞳は何を見る。 汝の内なるその姿。 その身に宿りしものを我に示せ。 開け!  心眼っ!」

 

 アステルが叫ぶとショウたちの目の前に炎で具現化された一つ目が出現した

 

「さーて、中身は何が入っているのかなぁ?  あれ?  あれれ?  なんで入ってないの?」

 

 

 アステルがどうしてだか焦っている

 

「そうか、そういう事ね。 そこまで抵抗するんだね。 まぁいい、長年培ってきたおかげで、私の魔力はあの時よりもはるかに広く大きく変わったんだ!  あれ・・がなくても今の私になら成し遂げられるはずよ!」

 

 そう言ったアステルは高台に立ち、両手を天に掲げた

 

「そこで指をくわえて見ているがいいわ!! 世界が、宇宙が変わる瞬間を!」

 

 アステルは声高らかに宣言した

 

「一に命ずは我が魔力、二に命ずは我が魂、三に命ずは我が肉体!! 森羅万象、幾億の命、幾億の運命、幾億に広がるは無限の宇宙──」

 

 アステルは詠唱しつつも苦しそうにしている

 ショウ達は動くことも出来ずただアステルを眺めていることしか出来なかった

 

「──全てを統べる鍵にして扉を開く者、そこに在るは光にして闇なり、大地を照らすは太陽、闇夜を照らすは月夜、大地を耕し土を生み出すは紅蓮の炎、命を育むは聖玲なる水、天に轟くは雷──っ!  これでもまだ足りないというのぉ!」

 

 アステルは肩で息をしながら言う

 

「ハハッ、もう少し調べたかったのだけど・・・・・・ これも我が運命だと言うのか」

 

 いつの間にかアステルの後ろにヒカルがいた

 だが、いつものヒカルとは違った

 感情は全く出しておらず目も虚ろだった

 

「ヒカル!  俺だ!  俺が分かるかぁ!」

 

 ショウは思い切りヒカルに呼びかけるが返事はない

 ここまでは聞こえないが、ヒカルはアステルに何かを話しているように見えた

 

「やめろ!  私の人生までかけた禁忌魔法を改変しないで!  これが私の生きる道なんだから!」

 

 アステルはヒカルを突き飛ばした

 ヒカルは抵抗せずそのまま地面に落ちた

 嫌な音がしてヒカルは動かなくなった

 

「ひ、ヒカル?」

 

 ショウはふらつく足でヒカルの元に駆け寄った

 ヒカルの手や足は変な方向に曲がっており、口からは血を流していた

 誰がどう見てもヒカルは死んでいた

 

「ハハッ!  私に楯突くからだ!  自業自得、いい気味だ!」

 

 アステルは下に落ちたヒカルを見下げて笑った

 

「──っ!  アステルゥ!  お前だけは絶対に許さねぇ!」

 

 ショウが首から下げていたペンダントが白く光り輝く

 そんなことはどうでもよかった

 ヒカルを殺したアステルが憎くて憎くて仕方なかった

 ペンダントがさらに強く輝き、熱を感じられるほど熱くなった

 またあの感じだ

 体中に魔力が行き渡るのを感じる

 この力であいつを!

 

 |(憎しみは捨てなさい)

 

 頭の中に直接声が響いてくる

 

 |(憎しみは負の感情です。 その感情を今のあなたが使うのはあまりにも危険すぎます)

 

 なら、どうしろってんだ!

 

 |(それはあなたが一番分かっていると思いますよ?  あなたは誰のためにここへ来たのですか?  なんのためにここまでやってきたのですか?  それが分かれば自ずと答えは出てくるはずですよ)

 

 誰のため、何のためだって?

 そんなのは決まってるじゃないか!

 ショウは今も詠唱を続けているアステルの元に飛び込み

 

「ヒカルを助けるんだぁぁぁ!!!」

 

 と叫びアステルの右頬に強烈なストレートを叩き込んだ

 

「ヴッ!」

 

 アステルは油断していたのか、簡単に吹っ飛ばされた

 

「あ、あぁ⋯⋯ 私の野望がぁ。 やはり、あれがないとダメだったのね」

 

 アステルは静かに呟いた

 ショウは力を使ったあと、どっと疲れが押し寄せてきてきたがすぐさまヒカルの元へ向かう

 ヒカルは何故か手足が元通り戻っており、いつもの可愛い妹だった

 その姿を見てホッとしたのかグラッとバランスが崩れる

 

「おっとっと⋯⋯」

 

「大丈夫ですか、ショウさん」

 

 倒れそうになったショウをナターシャが支えてくれた

 

「お、サンキューな。 あとおつかれ」

 

 ショウはナターシャに礼を言いハイタッチをする

 ナターシャはニッコリ微笑んだ

 

「サクラ ショウ、お前だけは殺しておくべきだった。 お前のせいで私の計画はめちゃくちゃだ!  もう立て直しもできやしない!  せめてもの抵抗と思え」

 

 そう言ってアステルはショウを指さした

 その瞬間ショウが黒いモヤに包まれた

 やばいっ!  そんな時だった

 

「もういいでしょう、アステル。 もう終わったのよ」

 

 空から声がした

 ショウを包んでいた黒いモヤが晴れる

 燃えるような赤い瞳と髪、そして真っ赤なドレス

 見間違うはずがない

 

「久しぶりだな、カリーナ」

 

 ショウは強がりながら言った

 ナターシャは怯えるような表情でカリーナを見ていた

 カリーナはショウやナターシャには見向きもせずにアステルを見る

 

「あなたの役目はここでおしまい。 よく頑張りました。 それと、あの時はごめんなさいね」

 

 カリーナはアステルに言った

 それを聞いたアステルはカリーナに抱き抱えられながら、何と言ったかは小さすぎて聞き取れなかったが

 

「お母さん⋯⋯」

 

 と言ってた気がした

 優しいカリーナが本当のお母さんに見えたのだろう

 そして、そのまま光の粒となって消えた

 

「カリーナ、どういうことだ! 俺は何も知らない、何も分からないんだ!!」

 

 ショウはものすごい勢いでカリーナを問いつめる

 とにかく今は本当のことが知りたかった

 

「そうね、まずはアステルの話をしないといけないわね」

 

 そういうとカリーナは話し出した

 

「隠していてもどうせバレるだろうから先に言っておくわ。 さっきショウが戦ったアステル、実はあなたの姉なの」

 

 は?  アステルが俺の姉? 

 何を証拠に言ってるんだ?

 

「戦っている時に感じなかった?  何でアステルがあのペンダントを持ってるんだって。 どうして自分と同じ力が使えるのかって。 それはあなたと家族関係にあるからなのよ。 女神の私が言っても信じない?」

 

 そういえばこいつ女神だった

 アステルは俺の姉だったのか⋯⋯

 

「それと、ショウにはこっちの方が大事だと思うの」

 

 カリーナは顔を伏せながら言った

 

「ナターシャ=フォリバーには聞かせたくない話だから少しの間眠ってもらうことにしたわ」

 

 確かにナターシャは体を丸めて子供のようにスヤスヤと眠っている

 ナターシャを眠らせてまで話すこととは一体?

 

「単刀直入に言うわ。 ナターシャ=フォリバー いや、若葉翠は三年前に亡くなっているの」

 

 え⋯⋯

 ショウは過去最大の衝撃を受けた

 

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