二部 第六章の弐

 一方、ヒカルはまだ立方体の中で暴れていた

 

「くそっ!  くそっ!  ここまで来てこんなことがあるか!」

 

 ヒカルを捕らえている立方体を叩いているがビクともしない

 突如、ヒカルのペンダントが光り出した

 あまりの眩しさにヒカルは思わず手を触れる

 すると、立方体はガラガラと崩れ落ちた

 

「カリーナ!  貴様、あの魔法に何をした!」

 

 カリーナはじっと黙っている

 

「あの子のことを思うなら、何故こんなことをしたんだ!」 

 

「もう、いいと思ったからよ」

 

「何がだ!  言ってみろ!」

 

「遅すぎたのよ。 何もかも」

 

 扉が大きく開かれヒカルが入ってきた

 

「兄貴を、ショウ兄ちゃんを返せっ!」

 

 ヒカルが首からぶら下げているペンダントが、光っている

 それに反応するかのように、ショウの身につけているペンダントも光る

 

「ヤバい!  止めないと!」

 

「あなたもこちら側だったんですね」

 

「ヒカルさん、よく聞いて。 これはこの世界のため、そしてあなた達のために必要なことなの!  だからお願い、これ以上──」

 

「邪魔だ、失せろ」

 

 ルピーはヒカルによって壁に思い切り叩きつけられ、気絶した

 

「セレス、あなたもこちら側だと分かって、私に干渉してきたのね」

 

「ち、違うんだ!  話を聞いてくれ、ヒカ」

 

「裏切り者には、死あるのみ」

 

 セレスの体が破裂した

 セレスの血がカリーナやヒカルに飛び散る

 

「これほどまでの力を持つとは、やはり星の世代の噂は本当だったようだな」

 

 ナターシャがそう言った

 

「星の、世代?」

 

「いい機会だ。 君の正体もその子に伝えてあげるといい。 全て吐き出せ」

 

 ナターシャがカリーナに命令する

 命令されたカリーナはポツリポツリと話し始めた

 

「まず、最初に言っておかなくちゃいけないの。 いつ言おうか迷ってたのだけど、こうしてナターシャ様が機会を与えてくださったのだもの。 使わない手はないわ」

 

 そう言ってカリーナは一度口を閉じる

 何度も口をパクパクさせる

 

「どうした?  言えぬというのか?  なら私の口から」

 

「いえ!  大丈夫です。 私の口からキチンと話しますから」

 

 カリーナは一つ深呼吸してヒカルを真っ直ぐ見つめる

 そして、言う

 

「私、イータ=カリーナこと咲春星美は、あなた達の母親なの」

 

「は?」 ヒカルは思わぬ暴露に戸惑った

 

「とは言っても、前にも言った通りあなたは私と会うのは初めてよね。 だって私はあなたを、ヒカルを産んだ時に力尽きて死んだのよ」

 

 それからカリーナの口は止まらなかった

 

「私が光を産んで死んだ時、目の前が真っ白になったわ。 私は死んだんだと改めて実感した。 だけど私はただでは死なせてもらえなかった。 だって、咲春家は代々神に遣える者として存在しているのだから」

 

 ヒカルはふと、神殿に書かれていた絵を思い出した

 

「咲春家は神によって生かされているといっても過言ではないわ。あ、父さんは別よ。 あの人は咲春家の血を受け継いでいないから。 私達がこうしていられるのも神からの恩恵のおかげなの。 私が星の女神になったのもそれと関係するのかもね」

 

 次々と暴かれる真実に、ヒカルは動揺を隠しきれなかった

 

「最後にこれだけ言わせて。 星の女神となった私の血を受け継いでいるショウとヒカルは世界において特別な存在なの。 詳しいことは私にも分からないけどあなた達は私の子供、それは確かよ」

 

 長々と話し終えたカリーナは大きく息を吐く

 

「これで私の話は終わりです。 これでいいですか、ナターシャ様」

 

「うむ、それくらいの話で十分伝わるだろう」

 

 ヒカルは自分の力が怖くなった

 ここに来て何気なく使っていたこの力が咲春家代々から受け継がれたものだなんて

 

「それでは、ショウも起こすとするか。 長い間眠っていたから多少記憶の混濁があるかもしれないが、それも誤差の範囲内だ」

 

 ナターシャは指をパチンと鳴らす

 耳をつんざくような大きな音が鳴り、ヒカルは耳を塞ぐ

 そうして、ショウはゆっくりと起き上がる

 

「ん⋯⋯ あれ?  ここはどこだい?  僕は今まで何を」

 

 久しぶりに聞いたショウの声にヒカルはショウに抱きつく

 

「やっと会えた!  心配したんだよ?」

 

 ヒカルはショウに言う

 しかし、返ってきたのは想定外の返事だった

 

「⋯⋯?  すまない、君はいったい誰なんだ?  僕を知っているということは知り合いか何かなのか?」

 

 その言葉にヒカルは空いた口が塞がらなかった

 ショウは記憶喪失になっていたのだ

 

「兄貴!  私だよ、ヒカルだよ!  覚えてないの?」

 

「ヒカル⋯⋯ どこかで聞いたことはあるんだが思い出せない」

 

 ヒカルがガッカリしていると、ショウとヒカルのペンダントが眩しいほどに光り輝く

 

「ヒカル、そうか!  ヒカルか! 思い出したぞ!  俺はヒカルを助けにここまで ってヒカルがいる?」

 

 記憶が戻ったショウを見てヒカルは涙を流さずにいられなかった

 

「兄貴のおかげで、私は助かったんだよ!  だから今度は私が兄貴を助ける番だって必死に頑張ってきたんだよ!」

 

「そうかそうか、一人でよく頑張ったな。 ヒカル」

 

 ショウがヒカルの頭を撫でる

 その手が急に止まった

 

「ナターシャ?  どうして君がここにいるんだ?  君はあの時いなくなったはずじゃ」

 

「いなくなった訳ではない。 中身が無くなっただけだ。 あの子の中身は非常に複雑でな。 本命を探し出すのに一苦労した」

 

 ナターシャは自分の胸に勢いよく手を突っ込んだ

 

「えっと、どこに置いたかな?  やはりこの感覚はいつまでたっても慣れないものだ」

 

 そう言って、一つのものを取りだした

 それはあの赤い宝石だった

 前のナターシャがプレアデスから貰った杖にもついていたあの宝石だ

 

「おそらくこの赤い宝石と杖の赤い宝石によって魔力を制御していたのだろう。 全くつくづく恐ろしいことを考えるやつだ。 ああ、心配せずとも私の体は不死身でな。 血も通ってなければ体温もない。 平たく言うとロボットみたいなものだ。お前の知っているナターシャとは全くの別物だ」

 

 ナターシャは両手をパンッと合わせる

 

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