二部 第六章の参

「さて、これから君たちには強制的に私達の計画に賛同してもらわなければいけない。ここにきてはぐらかすのもなんだ。 正直に言わせてもらう」

 

 ナターシャはヒカルを指さし言った

 

「お前はここで死ぬ」 と

 

 そうヒカルに告げたナターシャに殴りかかろうとすると、カリーナに止められた

 

「俺はお前を母親としては認めてないからな」

 

 ショウが言うと、カリーナはなんとも言えない顔をして俯いた

 

「少しはしょりすぎたか。 死ぬといっても悲しむ者はいない。 なんてったってこの世界、宇宙とサクラ ヒカルは一つになるのだから!  みんな助かって喜ぶだろう」

 

「どう、いうこと?」

 

 ヒカルはナターシャに聞いた

 

「簡単なことさ。 君は『星の巫女』に選ばれたんだ」

 

「星の、巫女?」

 

「ああ、星の巫女は全ての宇宙、星を守り支える者だ。 責任感が強い君にはピッタリだと思うがね」

 

 ナターシャはヒカルに尋ねるように聞く

 

「それで、この世界は、私が生きている世界は助かるの?」

 

「少なくとも、君一人が犠牲になればあと数万年は安寧が保たれるだろう。 ちなみに拒否した場合は君達の星を私がこの手で滅亡させに行く。 選択肢はないものと思ってくれ」

 

 自分達の住む星を人質、いや星質にとられたらこちらになすすべはない

 こちらの完全敗北だ

 

「わかりました。 私一人の犠牲で多くの人が助かるのなら──」

 

「待てヒカル!  まだ他にも方法はあるはずだ!  だから一緒に考えよう!」

 

「残念だが、それは叶わない。なぜならこの宇宙の崩壊は始まりつつあるのだから」

 

 そう言ったナターシャはショウ達に画像を提示した

 

「これは、俺が通っている高校、なのか?」

 

 ショウガ通っていた高校は、もう元の面影はなくガレキの山になっていた

 

「ああ⋯⋯ ユイ、リン、みんな⋯⋯」

 

 ヒカルの高校では、ガレキの山に友人が下敷きになっておりこのままでは誰一人として助からないだろう

 

「さあ、選べ!  このまま皆を見捨てるか!  それとも自らを受け入れて死ぬか!  もう答えは決まっておるだろう!」

 

「⋯⋯星の巫女として全てを捧げます」

 

 ヒカルは静かに言った

 そうするしか、方法は無いのだ

 みんなを助けるためには、ヒカルが犠牲になるしか

 

「ヒカル⋯⋯」

 

 ショウが小さく呟いた

 

「せっかく会えたのにもうお別れなんだって。 これも咲春家に産まれたからには仕方ないのかもしれないね。 そうだ、兄貴。 これを渡しておくね」

 

 ヒカルはショウに今まで集めた星片を渡した

 

「これは?」

 

「これは星片といって、五つ集めるとどんな願いも一つだけ叶えてくれるんだって」

 

「それならそれで俺はヒカルを──」

 

 何かを言おうとするショウの口をヒカルが人差し指で押さえる

 

「ショウ兄ちゃんのために使って。 私のことは心配しなくても大丈夫だから。 最後の一つはショウ兄ちゃんが持ってるんでしょ?」

 

 ショウは自分のペンダントを手にする

 ヒカルはそれに手を触れる

 

 

「父さん!  これが俺の妹?」

 

「ああ、そうだよ。 ショウはお兄ちゃんになるんだ」

 

「やったー!」

 

「母さん?  母さん!」

 

「お母さん?」

 

 

 ヒカルが産まれた瞬間に見えた、ショウの笑顔

 そして、一瞬だけ朧気に見えた母親の顔

 どれもが鮮明に思い出された

 そして、ペンダントは赤い宝石になる

 これで全ての星片が集まった

 

「ありがと、ショウ兄ちゃん。 元気でね」

 

「ヒカル、行くなヒカル!」

 

 ヒカルはショウの言葉を背中にナターシャの元へ向かう

 

「ようやく終わったか。 まぁ三年ぶりくらいだからな、仕方ないか」

 

 そう言ったナターシャはヒカルの背中に躊躇なく槍をさす

 ヒカルは口から血を吹き出した

 

「世界の改変が始まる。 サクラ ショウ、これは一度見れば奇跡ものだ ってもう聞いちゃいないか」

 

 最期にヒカルはショウの方を向いて、ニコリと微笑んだ

 ショウはヒカルが刺されたのを見て、頭のネジが数本飛んでいた

 

「世界の始まり、宇宙の終わり、幾重にも広がる無限の宇宙、その宇宙の時を止め、今一度動かさん!  星の巫女の力により、産み出されるは新世界!  今創造せん!」

 

 そう言い放ったナターシャは、ヒカルに刺した槍を一気に引き抜く

 ヒカルはその場に崩れ落ち、精神体だけが天に昇っていくのが見えた

 天へと昇るヒカルの姿はまさしく巫女と呼ぶべきものだった

 ショウはヒカルが見えなくなるまで空を見上げていた

 

「次はサクラ ショウと言いたいところだが、今ので私の計画は全て成功した。 つまり、お前がこれからどうしようと私には関係ない事だ」

 

 ナターシャは神殿から出ていった

 神殿には五つの星片とショウ、そしてカリーナが残っていた

 

「もう、終わったんだろ?  ならお前も帰れよ」

 

 ショウは、力なくカリーナに言った

 しかし、カリーナは黙ってじっと立っている

 何も言わないカリーナに腹が立ち、ショウはカリーナを思い切り突き飛ばした

 カリーナは地面に崩れ落ちる

 死んではいない

 

「なんとか言ったらどうなんだ!」

 

 ショウはカリーナの頭を持ちをグッと持ち上げて言う

 

「⋯⋯シリウス」

 

 カリーナはそう言った

 

「ショウ、あなたは星の御加護の最上位のシリウスなの」

 

 カリーナは唐突に言った

 

「シリウス?  なんだよそれ!」

 

 カリーナから手を離しショウが聞くが答えない

 そのまま、違う話題に入る

 

「あなたには、二つの選択肢が残されている。 極端な話、『生きる』か『死ぬ』かの二択よ。 どっちを選んでも、私はショウを恨んだりしない。 だってショウは、自慢の息子だもの。 自分の子供のことを信じない親が、何処にいるもんですか!  どんな選択をするのかはショウに任せるわ。 それに、ヒカルは願いを叶えるのにピッタリなものを置いていってくれたじゃないの」

 

 カリーナは、ショウの手を両手で包み込む

 

「あなたが私を嫌いでも、私はショウをずっと愛してるわ」

 

 そう言って、カリーナも神殿から去っていった

 神殿に一人残されたショウ

 自分の運命は自分で決める

 そう思ったショウは星片にこう願う

 

「俺は、サクラ ショウはヒカルのために──」

 

 

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