第九章の参 ~真実~

 死因は事故死

 三年前に亡くなっているのにも関わらずショウ達と過ごせたのはカリーナのおかげだった

 事故で死んでしまった時、若葉翠が真っ先に出会ったのがカリーナだった

 翠はカリーナに懇願した

 翠の初恋の人『咲春星』と少しでも長くいたいと

 カリーナは翠のあまりの熱心さに根負けし、少しだけ神の力を使い翠を現実世界へ再び送った

 しかし、カリーナの持つ神の力はまだまだ未熟でそう長くは持たなかった

 

 やがて時は流れ、翠はカリーナに連れられ死後の世界へ戻ることになった

 翠は少し悲しくなったが最後にショウといさせてくれたカリーナに感謝の気持ちを伝えた

 カリーナは照れているのがバレないように俯いた

 すると突然、時空が歪みカリーナと翠は離れ離れになってしまった

 

 見知らぬ場所で翠が一人迷っていると、どこからか不思議な歌が聞こえた

 その歌は心地よく、それでいて懐かしさも感じられた

 翠は不思議な歌に引き寄せられるように歩いていた

 その歌はどうやら店の中から聞こえているようだった

 翠はそっと扉を開け中を覗く

 そこには牛頭の男の人が剣を鼻歌を歌いながら楽しそうに磨いていた

 この人が歌っていたのか

 もっとよく聞こうと翠はそろりそろりと進んでいく

 

 カランッ

 

 翠の足元にあった剣が乾いた音を立てて落ちた

 翠は隠れることも出来ずに牛頭の人に見つかった

 名前を聞かれ、正直に答えるとその牛頭の人は怒るどころか翠をギュッと抱きしめた

 少し獣臭かったが温かく、不思議と嫌な気持ちにはならなかった

 その牛頭の人はプレアデスと名乗った

 

 実はこのプレアデス、若葉翠の父親なのだ

 プレアデスは翠が生まれる数日前に病気で他界していた

 そのため翠の顔を見ることができていなかった

 翠が気になったあの歌も母親のお腹の中にいる時によく聞かせていた歌だった

 プレアデスはそれを無意識に歌っていたおかげでこうして翠に会うことができた

 

 翠が現世で亡くなったと知ったプレアデスは若葉翠としてここにいてはマズイと考え別の記憶と名前、そして肉体を翠に授けることにした

 それがよく知っている魔法使いのナターシャ=フォリバーだ

 翠はそこまでしなくてもとプレアデスを止めようとするが子を思う親の気持ちはそう簡単には止められない

 プレアデスも元々は神だった

 だが、神が定めた禁忌を犯してしまい神界を追放された

 神としての力が完全に無くなる前に、翠をナターシャ=フォリバーという全く別の人物に変えて第二の人生を楽しく生活させてあげよう

 プレアデスはそう強く思いながら翠をナターシャに変えた

 しかし、プレアデスの神としての力は途中で切れてしまいナターシャは変わった瞬間、どこかへ転移してしまったのだ

 そのため成功したのか失敗したのかすらも分からず、プレアデスは酷く悲しみ落ち込んだ

 

 ナターシャの力が暴走してしまうのは星の御加護とは似て非なる物

 ナターシャに魔法使いとしての能力をあげたのはプレアデスだが、神としての力がまだ足りなかったため副作用的なものが残ってしまった

 プレアデスは魔法が使えれば苦労することはないだろうと考え、一通りの魔法をナターシャに植え付けたのだ

 

「つまり、結論から言うとねそこで静かに眠っているナターシャ=フォリバーは若葉翠と同じ人物。 で、その若葉翠は三年前に事故で亡くなっている。 ここまではOK?」

 

「な、何とか」

 

 本当は頭が混乱していて話に全然ついていけてない

 

「私が神の力を使ってショウやクラスメイトと一緒に過ごさせていたの。 みんなの記憶から無くなっているのは、もう死んでしまっているから。 だから、若葉翠はいつまでも現世にいる訳には行かない。 そのために死後の世界へ連れて行ったのだけど。 まさかナターシャ=フォリバーが若葉翠だとは考えもしなかったわ。 あのプレアデス、それほどまでの力を残していたというの⋯⋯」

 

 カリーナはショウに告げた

 

「とにかく!  若葉翠をこれ以上ここに長居させる訳には行かないわ!  さ、あの子を起こすわよ」

 

 カリーナは手をパンっと叩いた

 叩いた音に反応したのかナターシャがモゾモゾと動きだした

 

「さあ、ショウには全部話したわ。 最後に少しだけ時間をあげる。言いたいことがあるなら言いなさい」

 

 ナターシャは本気で寝ていたかのように目をこすっている

 

「んーー?  あ、ショウさん」

 

 ナターシャ、いや翠がショウに気づく

 

「カリーナ、少しの間二人にしてくれないか。 頼む」

 

 ショウがそういうとカリーナは音もなく消えた

 

 

「し、ショウさん」

 

「ショウでいいよ。 同級生なんだから」

 

「そ、そうですか⋯⋯」

 

 しばらくショウたちの間に沈黙が流れる

 

「──カリーナから全部聞いたよ。 事故で亡くなったこと、ナターシャとしてここへ生まれたこと。 俺は君のことを何も知らなかった」

 

 翠は大きく深呼吸して言う

 ナターシャがゆっくりと翠の姿を取り戻す

 いつもの翠さんだ

 

「こんな再会なんて嫌だったよね。 でも、どうしてもショウに伝えたかった、伝えないといけなかった! 私、若葉翠は咲春星さんが好きです!!! もう死んでいるのだから叶わない恋だというのはわかっていながらも言わずにはいられなかった。 本当に大好きです!  大好きでした!」

 

 翠の目から大粒の涙が次から次へと流れる

 もう喋るのも難しいだろうに翠は再び口を開く

 

「サヨナラなんて言いたくないけど、これが私の運命だって受け入れるしかないみたい。 短い間だったけど、ショウと居られて本当に楽しかった!  絶対忘れたりなんかできない、大切な思い出になりました!! だから、本当に──」

 

『ありがとう』と言おうとした翠の体をショウは力いっぱい抱きしめた

 

「感謝しているのは俺の方だ。 色々と迷惑かけて悪かった。 こんなに辛い思いをしているなんて知らなかった。 もっとちゃんと君を見ていたら、きっと違う運命を辿っていたかもしれない。 君にとっての大切な人が俺であるように、俺の大切な人も君だ。 かっこいいことなんて言える立場じゃないけど、またいつか会えたなら、その時はずっと君のそばにいる」

 

 涙を流しながら聞いていた翠は静かに笑い、ショウの頬にキスをして言った

 

『あなたにもう一度あえて良かった』 と

 

 そう言った翠は最後まで笑顔のまま天へと昇って行った

 ショウは翠の姿が見えなくなるまで手を振っていた

『もう一度会えてよかった』 か・・・・・・

 

 

「別れは済んだかしら」

 

 カリーナが戻ってきて言う

 

「ああ、清々しいほどにいい気分だ」

 

「そう、そんな気分の時に悪いんだけど」

 

「へ?」

 

 カリーナがそう告げた後、ショウの体は激しい痛みに襲われた

 

「カリーナ!! 俺に何をしたっ!」

 

 そういうのが精一杯でショウ痛みに耐えきれずそのまま気を失った

 

「大丈夫、ヒカルはちゃんと生き返らせて家に返しておくから安心して って聞こえてないか」

 

 カリーナは気絶しているショウを見下ろしながら言った

 

「ショウ、あなたにはまだ働いてもらわないといけないの。 だからここであなたを返す訳には行かない。 ゴメンだけどしばらく大人しくしていてちょうだい」

 

 カリーナはショウの体に手ををスゥーッとかざした

 ショウは少しづつ消えていきやがて完全にいなくなった

 

「さてと、ここからが本番よね。 今まで以上に気合いを入れないと!」

 

 カリーナは両手で顔をパンパンッと叩いた後どこかへ連絡した

 

「もしもし、私です。 カリーナです。 こちらは全てのパーツが整いました。 いつでも号令をおかけください。」

 

  第九章 [完]

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る