二部 第一章の弐

 

「僕はセレス。 そう名乗っておこう」

 

 セレスと名乗った少年はそう言って、ヒカルの頭に手をかざした

 ヒカルの頭がフワーッとしたかと思うと、今まで忘れていた兄の記憶を思い出していた

 

「ショウ⋯⋯、そうだ。 なんで忘れていたんだろう。 私には兄貴がいたんだ!」

 

 思い出した記憶に浸っていると

 

「一刻を争う事態なんだ! あんまり思い出に浸っている暇はない。 今、世界で様々な異変が起こっているのはもちろん知っているだろ?」

 

 知ってるも何も、知らない人はおそらくいないだろう

 ヒカルは頷く

 

「それと同じことが異世界でも起こってるんだ」

 

 セレスはそう言った

 は?  異世界? 

 私は、頭がおかしくなったのかと思った

 こいつは何を言ってるんだ?

 

「てか、こっちも異変だらけだって言うのに、異世界の事なんて気にしてられないよ」

 

 ヒカルはそう言い返す

 

「そこに兄がいるとしても?」 「え?」

 

 ヒカルはセレスの言葉に驚かざるを得なかった

 兄が異世界にいる、と言われたのだ

 無理もないだろう

 

「実を言うと、君も異世界に行ったことがあるんだ。 とは言っても記憶はないだろうがね。 異世界に連れ去られた君を助けたのが君の兄、サクラ ショウなんだ」

 

「兄貴が、私を助けるために?」

 

 ヒカルは少し、ほんの少しだけ感動した

 困っている人がいる

 それが兄貴なのは気に食わないが、助けないという選択肢は、私には無い

 ヒカルは異世界に行く決意をした

 

「その顔は決まった顔だね。 そんな君に渡しておくべきものがある」

 

 そう言ったセレスは、赤いキラキラした欠片をヒカルに手渡した

 光に照らされてどの角度から見ても輝いて見える

 

「キレイね、これは?」

 

 ヒカルはセレスに尋ねる

 

「これは星片せいへんと言って要は星のカケラだ。 とてもキレイだが、これ一つだけでは何も起こらないしできない。 これを五つ つまりあと四つ集めれば、どんな願いも一つだけ叶えることができるんだ」

 

 まるで魔法のような話だがセレスは真面目な顔で言っている

 信じられないが本当のことなのだろう

 

「そこで、もし兄を助けたいのならそう願えばいいし、世界の異変を止めたいのならそう願えばいい。 どう使うかは君次第だ。 とにかく、この星片をあと四つ集めないことには始まらないけどね」

 

 セレスはヒカルにそう言った

 そうは言われても、すぐに飲み込めるような話ではない

 だが、願いを叶えられるのなら、悪い話ではないのかもしれない

 

「残りの四つを誰が持ってるとか、どこにあるとかは分からないわけ?」

 

 セレスは呆れたように首を横に振る

 

「それが分かれば苦労しないよ。 ちなみに、僕は持っている人物やある場所に近づけばすぐに分かるんだけど、常人の人には感じられるか──って君はショウの妹だったか!」

 

 セレスは、まるで思い出したかのように声を張り上げて言った

 

「そうかそうか、君もショウの妹なら同じ力を持っているに違いない。 なら、君にも星片の力を感じることができるはずだ。 いやー、すっかり忘れていたよ。 だが、念の為に僕も着いていくことにするよ」

 

「そんな姿で?」

 

 セレスは、ほぼ裸の状態なのだからそんな格好で外に出られちゃあこっちが迷惑する

 

「大丈夫。 君以外の人には、ちゃんと服を着ているように見せるから」

 

 私にもそうしてほしいんだけど⋯⋯

 

「ま、どうでもいいことは置いといて」

 

 どうでも良くはないわよ!!

 

「言い忘れていたんだけど、星片は持ち主によって姿形を変えられるんだ。 人や動物には変わらないから安心して」

 

 どうして、そういう肝心なことを先に言わないわけ!?

 ヒカルは、セレスに少しイラついた

 てか、星片ってそんな厄介な代物なのね

 

「それから、君が首にぶら下げているペンダントは絶対に無くさないようにね」

 

「置いていっちゃあ、ダメなの?」

 

 ヒカルがそう言うとセレスは慌てて言った

 

「置いていくなんてあ言語道断!! そんなこと僕が絶対にさせないよ!」

 

 このペンダント、そんなに大事なのかな?

 そういえば、兄貴も持ってたような⋯⋯

 

「さあ、異世界に行こう!  と言いたいところだけど、異世界に行くにもそれなりの準備が必要なんだ。 ちょっと待っててくれるか」

 

 セレスはヒカルにそう言う

 セレスが、ここの言葉ではない言語で話し始めた

 

「よいしょっと」

 

 ポンッ

 

 明るい音が鳴り、一つの扉がヒカルの前に出現した

 

「この扉の中が、もう異世界に繋がっている。 一応最初は人の目につかない空き家を入口にしたから、向こうの人に見られる心配もないだろう」

 

 なんて準備がいいんだ

 逆に何か裏があるんじゃないかと思ってしまう

 

「扉を開けて中に入ると、目的を果たすまで帰ってこられないからね。 忘れ物があるなら今のうちに取ってくるといい」

 

 そう言われたヒカルは、自分の部屋に行く

 今、女子高生の間で大流行中の『グロちゃん』というグロ可愛い系のストラップをつけたカバンに、必要だと思うものを詰め込んでいく

 

 戻ってきたヒカルにセレスが言う

 

「随分と軽装だね。 近頃の女の子はストラップをジャラジャラつけているイメージだったんだけど」

 

 いつの時代の話よ、それ

 

「それはさておき、準備ができたのなら行くよ。 僕はこう見えて他にもやるべきことがあるんだから」

 

「なら、私が一人で行くわよ」

 

 ヒカルは少しキレ気味で言った

 

「女性を一人にはしておけないよ」

 

 セレスはカッコつけてウインクまでしたが、ヒカルに呆れられる

 

「あれ?  受けてない?」

 

 そう言うセレスの言葉を無視して、ヒカルは異世界に繋がる扉を開ける

 兄貴、待ってて

 私が必ず助けるから!!

 ヒカルは扉の中へと足を入れた

 

「ちょ、ちょっと!  置いてかないでよ!」

 

 セレスがあとから慌てて追いかけた

 

 第一章 [完]

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