二部 第二章の壱

、信じられない⋯⋯ まさかこの子が!?」

 

 セレスは、ヒカルに向けてそう言った

 この話は数分前に遡る

 

 異世界に行く扉を開けると、確かにそこは空き家だった

 異世界かどうかはともかく、確かに人はいなかった

 そこに居たのは人ではなく、赤色のドラゴンがいたのだ

 ドラゴンの住処にヒカル達は足を踏み入れたのだ

 後はわかるだろう

 

 しかし、問題はその後だ

 決着はすぐについた

 ヒカルの勝利で

 

 扉を開けると目の前にドラゴンが見えたら、誰だって驚くだろう

 ヒカルだって女の子だ

 驚かないわけが無い

 あまりのことに驚いたヒカルの手が、ドラゴンの顎にクリーンヒット

 そのまま、龍の王ドラゴンは一人の女子高生の手によって倒されたのだった

 

「ちょっと!  ドラゴンがいるなんて聞いてないわよ!  どうなってるの?  確かにあの時、人がいない空き家に繋がってるって言ったのはいいけど、ドラゴンはその範囲外だっていうの?  そもそも⋯⋯」

 

 ヒカルは小一時間ほどずっと喚いていた

 その間、セレスは耳を塞いで聞かないふりをしていた

 騒ぐだけ騒ぎ立てると、ヒカルはこう言った

 

「あー、喋ったらお腹すいた!  食べるもの持ってこれば良かった!  ねぇ、セレス?  何か食べるもの持ってないの?」

 

 こいつ⋯⋯!  自由人か!?

 セレスは横目で、仰向けになって倒れているドラゴンを見る

 

「え! これセレスが倒したの?  やるじゃん!  で、これって食べれたりする?」

 

「お前それ食う気か!?」

 

 セレスは驚いた

 女の子が食べる量ではなかったからだ

 だが、これ以上喚かれても仕方ない

 

「食べられないことは無いと思うけど、ドラゴンの肉は硬いからよく火を通して──」

 

「ファイア」 ドラゴンはあっという間に燃え上がる

 

 

「よ、よく火が通るように小さく切っておくのも忘れずに──」 

 

「ウインド カッター」 ドラゴンの体はバラバラになった

 

「そうそう、ドラゴンの骨は薬になるからよくすり潰して瓶とかに入れて──」

 

「すーりすーり♪」 ヒカルはどこから出したのか、ドラゴンの骨をすり潰し出した

 

「⋯⋯ なんでだよ!? ここ異世界なんだよ!  君がいた世界とは何もかもが違うんだ。 なのにどうしてそうも簡単に魔法が使えるんだ?  しかも、比較的高度な創造魔法まで!  てか、何その格好。」

 

 ヒカルはいつの間にか綺麗な服に着替えていた

 

「どう?  複合魔法で作ってみたんだけど?」

 

 セレスは頭を抱えた

 超高度な複合魔法まで⋯⋯

 セレスは耐えきれずにヒカルに言った

 

「あんまり、ポンポン魔法を使わないでほしいな。 怪しまれたら困るだろ」

 

「だって、分かっちゃうんだもん。 仕方ないじゃん。 どの魔法で何ができるかが頭の中に入ってるっていうか」

 

「天才か!?」

 

 セレスは再び驚いた

 こうして最初に戻るわけだ

 しかし、いくらサクラショウの妹だからといってこれほどまでの力があるのだろうか

 セレスは目の前の状況を見て混乱する

 

「と、とにかくだ。 ここを出てギルドへ行こう。 ギルドは冒険者がよく集まるところだ。 何か知っている人がいるかもしれない」

 

 セレスがヒカルを急かす

 ヒカルはのんびり言った

 

「ちょっと待ってよ。 もう少しで食べ終えるから。 ドラゴンの肉って意外と美味しいのね。 クセになりそう」

 

 ヒカルの五倍ぐらいはあったドラゴンをヒカルは一人で平らげた

 こいつの胃袋はどうなってんだ?

 

 食べ終えたヒカルは眠くなってきたのか大きくアクビをする

 

「ふぁああ、なんかおなかいっぱいになったから眠たくなってきちゃった。 てことで、おやすみー」

 

「お、おい!  こんなところで寝るな!」

 

 セレスが慌ててヒカルを起こそうとするがもうヒカルは眠っていた

 全くここが異世界だっていうの忘れてないだろうな

 セレスは仕方なく、ここで一晩過ごすことにした

 

 そして次の日

 ヒカルを起こして空き家を出る

 無理やり起こしたからか、ヒカルは機嫌が悪い

 あまりヒカルを刺激しないように、セレス達はギルドへ向かう

 

 ギルド内は、やはりうるさかった

 寝起きのヒカルがそんなところに来れば、おのずと分かるだろう

 

「うるさいっ!」

 

 ヒカルは一喝した

 ギルドの中にいた人はセレス諸共一緒に動けなくなった

 ギルド内は、一気にシーンと静かになった

 

「何してるの!  早く来なさい!」

 

 ヒカルがセレスに言う

 

「君がかけた拘束の魔法で動けないんだが」

 

 てか、この子どれくらい魔法が使えるのだろうか

 セレスは、そんなことを考えつつヒカルに引っ張られていた

 受付には、胸元を大胆に切り開いた服を着た女の人が立っていた

 ヒカルはそのは人の前に、ドンッと手をつく

 その音で、みんなの力がドっと抜ける

 動けるようになったのだ

 

「あんた、名前は?」

 

「る、ルピーと申します。 本日はご利用いただきありがとうございます」

 

 震えながらもルピーはそう言った

 見事な仕事精神だ

 

「ほ、本日はどのようなご要件で?」

 

「私を見て、なにか気づかない?」

 

「何か、と言いますと?」

 

「特別な力とかそういうの感じない?」

 

「前にも同じようなことを言われた気が⋯⋯いえ、なんでもないです。 うーん、特にこれといって感じませんが、念の為に調べてみますか」

 

 ルピーは奥から手形がついた機械を持ってきた

 

「登録も同時進行となりますがよろしいでしょうか?」

 

「うん、お願い」

 

 ヒカルはまだ機嫌が悪いのかそっけない態度を取る

 ヒカルが機械に手を置く

 数秒後、全ての指をなぞり終え登録が終わる

 

「えっと、サクラ ヒカルさんですか。 なるほど、そうですか」

 

 ルピーが一人で納得したように言う

 何かわかったというのか

 

「サクラ ヒカル はぁ!? HPMP共に最大で魔法適正が最高ランクのSSS!? あの子と大違いだわ!」

 

 ルピーがそう言ってギルド内が少しザワつく

 ヒカルがギロッと睨むと静かになった

 

「失礼、少し取り乱しました。 サクラショ── いえ、サクラ ヒカル様、あなたは今から冒険者です! ですが魔法ランクが高いからと言ってあんまりハメを外しすぎないようにお願いしますよ」

 

 ヒカルは釘を刺される

 その圧に気圧されたのかヒカルは

 

「ぜ、善処します」

 

 と一言だけ答えた

 

「よろしい。 では、サクラヒカル様!  あなたの活躍を心から応援しております!  汝に星々の祝福あれ!」

 

 ヒカルとセレスはギルドを出た

 

「私っておかしいのかしら」

 

 ヒカルは心配そうに言う

 セレスは思わず吹き出しそうになった

 

「い、今頃気づいたのかい?  まあ、ここは異世界だ。 君とは何もかもが違っている」

 

「何がどうなってこんなことになったのかなぁ」

 

「君がサクラ ショウの妹だからと、としか今の段階では言えない」

 

「その一言で片付けられても⋯⋯」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る