二部 第二章の弐

「それで、この街には星片がないのかしら。 これといって何も感じないのだけど」

 

「そうだね、ここにはないのかもしれない。 他の街へ行ってみよう」

 

 このヴィーゼという異世界は七つの街に分かれている

 今、ヒカルたちがいるこの街がケラエノ、そして東からアルキオネ・マイア・アステローペ・メローペ・タイゲタ・エレクトラというらしい

 アルキオネには恐ろしい魔物がいると、風の噂で聞いたが行くことはないだろう

 

「次は一番近いエレクトラに行ってみよう」

 

「そんな行きあたりばったりでいいの?」

 

「大丈夫だよ。 よく言うじゃんか、旅は道連れ 世は情けって」

 

 それって使い方合ってるの?

 

 ヒカル達は馬車を借り、エレクトラへ向かうことにした

 しかし、お金がないのに気づいた

 馬車を借りるには、もちろんお金が必要だ

 

「セレス、お金持ってたりしないの?」

 

「僕が持ってるわけないじゃないか!  冒険者だったらクエストで稼ぐのが基本らしいけど」

 

 それを先に言え!  とセレスを蹴っ飛ばしたくなる衝動を抑える

 

「そういえば、あのセレスが倒したドラゴンは?  美味しかったから結構高かったりするんじゃないの?」

 

 美味しければなんでも高いのか

 

「ちなみに言っておくけど、あれは君が倒したんだ。 僕はあのドラゴンに指一本触れちゃいない」

 

「私が?  またまたぁ、そんなに謙遜しなくても私は嫉妬しないよ?」

 

 こいつ⋯⋯ 女じゃなかったらぶん殴ってたところだった

 

「その話はまあいい。 でも、あのドラゴンは君が残らず食べたから高いのかどうかも、今となっては分からないじゃないか。 しかも、あの時は冒険者登録してなかったから、報酬が貰えていたかも怪しいんだぞ?」

 

「うっ⋯⋯ で、でもこのドラゴンの骨から作った薬なら高く売れるんじゃないの?  ほら、薬ってだいたい高いじゃん」

 

「そこまで僕は詳しい訳じゃないけど、ギルドへ持っていけばいくらかで買い取ってくれるはずだよ」

 

 またギルドか

 たらい回しにされて少しイラッとくるヒカルであった

 

 そんなこんなでヒカル達は再びギルドへ入る

 ヒカルの姿を見た他の冒険者達は静かに黙っている

 

「はい、どうされましたか?」

 

「えっと、この薬なんですけど⋯⋯ あれ? どこかで落としたかなぁ」

 

 ヒカルが慌てて自分の服をまさぐる

 

「その薬というのはこれのことかな?」

 

 ヒカルの後ろから声が聞こえた

 スーツを着こなした男の人だ

 

「あ、オリオンさん! お久しぶりです!」

 

 どうやらこの男の人はオリオンというらしい

 どこか不思議な雰囲気のある人だ

 オリオンの手にはあの瓶に入れた薬があった

 

「見たところ、確かにドラゴンの骨をすり潰した薬のように見えなくもないが。 実際に調べてみないと分からないなぁ」

 

 そう言ってオリオンはルピーの前に瓶を置く

 

「一応見てみますね。 鑑定」

 

 ルピーが薬に手をかざす

 薬がボーッと小さな光に包まれる

 

「確かに、これはドラゴンの骨から作られた薬です。また、不純物が混ざっていない純正となるのでそれなりの値段になります」

 

 それを聞いて、ヒカルは喜んだ

 

「ちなみに、この薬の元となったドラゴンの色は何色でしたか?」

 

 ヒカルは思い出すように首を傾げる

 

「確か、赤色だったような──」

 

「「あ、赤!?」」

 

 オリオンとルピーが同時に驚いた

 

「それは確かに赤色だったんだね?」

 

「もしそうなら⋯⋯」

 

 オリオンとルピーは深く考えている

 

「おっと、失礼しました。 ドラゴンから取れる素材はどれも貴重で他の魔物の素材よりかは高く売れます。 ですがそれが赤龍だと言うなら話は別です」

 

 とルピー

 

「赤龍はドラゴンの中でも一二を争う魔物で倒せるのはほんのひと握りの冒険者だけなんだ」

 

 とオリオンがそれぞれ言った

 あちゃー、全部食べずに少し残しておけばよかった、とヒカルは軽く後悔した

 

「この薬の元となったドラゴンが赤龍かどうかは詳しく調べないことには分かりません。 ま、普通の冒険者ならその魔物の肉や骨を持ってきてそれを証拠として扱うんですけどね」

 

「あー、長くなりそうなら大丈夫です。 とりあえず、馬車を借りれるくらいのお金をくれればそれでいいので」

 

 ヒカルは少し多めに千ウェン貰った

 馬車を借りるのに必要なお金は三百ウェンだから、結構盛ったな

 それはそれでいいとして、これでエレクトラに行けるというわけだ

 

「あの子、サクラ ショウの妹らしいです」

 

「そうか。 薄々勘づいてはいたが、ついに来たというのか」

 

「どうするんです?」

 

「どうもこうもないだろ。 俺たちは俺たちのやるべきことをやるだけだ」

 

「⋯⋯そう、ですね」

 

 

 ヒカルとセレスは馬車に乗り、次の目的地エレクトラへ向かう

 

「ねえ、セレス。 エレクトラってどんな街なの?」

 

「ケラエノとは違った暗い街だよ。 そこは呪われた街とも言われているらしい」

 

 セレスがヒカルを脅かそうとするが、反応はなかった

 

「あれー?」

 

 セレスは頭を傾げた

 そして二人はエレクトラに着いた

 

「ここが第二の街、エレクトラね!」

 

 ヒカルが声高らかに言うが、街の雰囲気は逆に最低だった

 道にはゴミや生き物の死骸が散乱している

 

「これも異変のせいなの?」

 

「あぁ、数日前から急に街がドヨンと暗くなったんだ。 理由は僕にも分からない」

 

 とりあえず歩き回ってみることにした

 歩いていると男の人と肩がぶつかった

 咄嗟に謝ろうとするヒカルだったが、その人を見て言葉が出なかった

 スキンヘッドで刺青が入っている男がヒカルを睨んでいたからだ

 あ、これヤバいやつ?

 

 第二章 [完]

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る