二部 第三章の壱

ん気なもんだな。 こんなところに観光か?  ここには観光するものなんてないが。 てめぇら、どこの回しもんだ?」

 

 ひぃ!  本当のヤクザなんて初めて見た!

 スキンヘッドに刺青のお兄さんもそうそう見る機会は無いのだが

 顔と相まってか、声も怖い

 体格差は天と地の差がある

 ヒカルが束になったとしても勝ち目はない

 それぐらいの風格だった

 

「どこの回し者とかじゃなくて、ここに探し物をしに来たんです!  私にとって大事なものなんですっ!」

 

 ヒカルは思わずそう答えた

 答えざるを得なかった

 それが答えが良かったのか、男の人は急に態度を変えてニッコリと笑い、ヒカルに話しかける

 

「そうかそうか!  それは悪かった!  俺はアルデバランだ。 みんなは俺の事を『アル』と読んでる。 まあ、立ち話もなんだ。 ひとまず家に来るといい」

 

 ヒカル達は、アルの家に行くことになる

 行く道中に、どうしてこうなったのか経緯を聞く

 

「元々、暗かった街だがここまで暗かったわけじゃねぇんだ。 とにかく、こんなことは産まれて初めてだ」

 

 アルから話を聞くところによると、この街の奥に森がありそこから魔物がワンサカ出てきたそう

 もちろんすぐに冒険者達を呼んで、退治してもらった

 一時はそれで治まっていたのだ

 しかし、それが度々起こるようになってしまい、しまいには自作自演じゃないかと怪しまれる始末になった

 そのせいか住民も半数近く出て行ってしまい、残った住民も魔物を恐れてか外へ出ない日々が続いていたと言う

 

「ここが俺の家だ。 誰もいないから遠慮せず入ってくれ」

 

 そう言われると、余計遠慮してしまう

 

「お邪魔しまーす」 

 

 ヒカルは丁寧に挨拶してアルの家に失礼した

 さっきの口ぶりからして、アルは独身で一人暮らしなのだろう

 言い方は悪いかもしれないが、その風貌じゃ誰も付き合ってはくれないだろう

 付き合う人がいるなら余程の変わり者だ

 

「どう?  この街から星片の気配は感じられる?  私は感じないのだけど」

 

 ヒカルはアルに気づかれないよう、小声でセレスに話す

 

「微かだが感じてるよ。 最もこの近くには無いみたいだけど」

 

 この街にあるのは確かなようだ

 だが、どこにあるかまでは分からない といったところだ

 

「アルさん、他に何か変わったことは無かった?」

 

 アルはしばらく考えていたが、唐突に思い出したかのように言う

 

「そう言えば、住民が夜に奇妙な唸り声を森の中から聞いたって言ってたな。 ま、おそらく俺のいびきだろうがな!  ガハハハ!」

 

 おいおいおい、それでいいのか アルさんよ

 もしかしたら、その唸り声の正体が星片の手がかりに繋がっているのかもしれない

 そう思ったヒカルは、せっかくアルが出してくれたお茶を飲まずに家を出た

 その様子を見たセレスは、二人分のお茶を一気に流し込みヒカルの後を追う

 

「なんだったんだ?  あいつら⋯⋯ てか、あの子の探し物ってなんなんだ?  全く、子供の思うことは分からないものだ」

 

 アルは小さくため息をついた

 

「それにしても、どうしてこんなことになったんだが。 全く検討がつかねぇ。 他の街でも小さな異変が起こっているらしいし⋯⋯ 一体この星で何が起きてるって言うんだ、神様よォ!」

 

 アルは誰もいない家で一人叫んだ

 

 

「ヒカル!  急に飛び出してどうしたんだ!」

 

「今の聞いて分からなかったの?  飛んだおマヌケさんね」

 

 セレスはイラッときた

 だが、怒らないよう笑顔でヒカルに尋ねる

 

「何か分かったのかい?」

 

「アルさんが言ってたあの森が、この街を暗くした原因なんじゃないの?」

 

 確かに、ヒカルの言っていることは間違っていない

 セレスも、その線を少しは考えていた

 言葉に出さなかっただけだ

 別に言い訳とかじゃないからな

 

「という事は、あの森に行ってみるということかい?」

 

「それしか方法はないわよ!」

 

 ヒカルはセレスに怒鳴るように言う

 どうして怒られないといけないんだ

 

 こうしてヒカル達は森へ向かった

 

「ここだ。 この中から星片の力を強く感じる」

 

 セレスはそう言った

 ヒカルの言うことは間違っていなかったのだ

 

「私も感じるわ。 この感覚が星片の在処を示してくれるのね!」

 

 ヒカルは初めての感覚に思わず喜んだ

 それをセレスが静かに諭した

 

「喜ぶのはまだ早いよ。 星片がこの中にあるのは本当だけど、中で何が待っているか分からないんだから。 くれぐれも慎重に行動するように」

 

 セレスの言葉にヒカルはプクーっと頬を膨らませる

 が、兄のことを思い出し冷静になる

 

「ま、いいわ。 よしっ、頑張るぞ!  これが、兄貴を助ける第一歩になるんだ!」

 

「誰か来るな、それも二人」

「ここを私の聖地と知ってなお、入ってくる輩か?」

「面白い、相手になってやろうじゃないか」

 

 森の奥で静かに待つ者が言った

 

 森の中は、街とはまた違う静けさだった

 どこか不気味な感じがする

 

「確かに、奥に行けば行くほど星片の存在を痛いくらいに感じるわね」

 

「あぁ、決して気を抜くんじゃないよ。 嫌な予感がする」

 

 二人は森の中をゆっくり慎重に進んでいくのだった

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