第八章 ~本当の話~

、助けて⋯⋯ こんなことになるなんて思ってなかったの」

 

 ナターシャは怪物になったアルファルドを見上げながら言った

 ナターシャのせいじゃない

 ナターシャはよくやってくれた

 ショウはナターシャに力を少し分けてもらい立ち上がる

 本当にどうしたものか

 外見から察するに攻撃力も防御力も桁違いに上がっているだろう

 こんな怪物を俺達だけでどうしろってんだ

 

 

 あの日も雨風ともに激しい嵐の日だった

 アルファルド四人はそれぞれ絵を描いて遊んでいた

  あの人は、どうしても大事な用事があると言ってこの嵐の中、出かけたっきり戻ってきてない

 だが、あの人のことだ

 きっと笑いながら

 

「濡れちゃったー」

 

 と言って戻ってくるだろう

 

「ママ、おそいね」

 

 ベガが震える声で言った

 アルファルドはベガを優しく抱きしめる

 あの時、あの人にしてもらったように

 

 でも、確かに遅い

 もう外は暗くなってきている

 みんなが心配している中、勢いよく扉が開く音がした

 あの人が帰ってきたのだとみんな玄関へ迎えに行った

 先に行った三人の後を追うように、アルファルドも後に続く

 そこにはみんなの予想通りあの人がいた

 

  しかし、どこか様子がおかしい

 顔は蒼白で唇には色がない

 この雨の中、傘もささずにどこへ行っていたのか聞くことは出来なかった

 

 帰ってきてから最初にデネブが呼ばれた

 一人一人と話をするつもりで、ベガとアルタイルも話をしていた

 話が終わった三人はどこか悲しそうな顔をしていた

 中で何を聞いたのだろう

 最後にアルファルドが呼ばれた

 あの人の部屋に入るのは今日が初めてだ

 部屋の中は思っていたより質素で必要最低限のものしか置いていなかった

 

「そこに座って」

 

 

 女性がアルファルドに言う

 アルファルドは大人しく従う

 アルファルドが椅子に座ったのを確認した女性はこう告げた

 

 

「星の御加護って知ってるかしら」

 

 唐突にそう聞かれた

 アルファルドは黙って首を横に振る

 

「そう、よね。 三人ともそうだもの。 知らないのも無理ないわ」

 

 女性は下を向きながら言った

 

「星の御加護って言うのはね、世間的には公にされていない隠された病気なの。 かと言って悪い病気でもないから安心して」

 

 どうしてアルファルド達にその話をするのだろうか

 アルファルド達は知らないと言ったのに、なぜ話を続けるのか

 

「私はそれを一種の特殊能力として研究を行ってきたわ。 そこで驚くべきことが分かったの」

 

 アルファルドはゴクリと唾を飲む

 

「他人に遺伝させることができることが分かったの」

 

 遺伝させることができる

 はっ!  まさか!?

 

「その顔は分かった顔ね。 そう、まさしくあなたが思っている通り、あなた達四人に、私はこの星の御加護を遺伝させたの。 ほら前にベガやデネブが熱を出したって話、したでしょ?  あれがこの遺伝による副作用的なものだったの。 アルタイルとアルファルド、あなた達が副作用を発症しなかったのはそれだけ星の御加護の力に適していたからだと思うの。 つまり、あなた達四人は他の人にはない特殊な能力を持っているの!」

 

 女性外見興奮気味に言う

 それならどうしてあの三人はあんなに悲しそうな顔をしていたのだろうか

 

「ま、ここからが本題なんだけどね」

 

 と女性は前置き言う

 

「私も星の御加護を持っているんだけどね、持つ時期が少しばかり遅すぎたみたいでね。 私の寿命もそう長くは持たないと言われたわ」

 

 え⋯⋯

 アルタイルは言葉を失った

 この女性がなくなってしまう

 アルファルド達四人を優しく温かく育ててくれた人が死んでしまう

 そんなのは嫌だ

 アルファルドは思わず、女性に抱きついていた

 

「ごめんね、急にこんな話しちゃって。 心配するのも無理ないわ。 もちろん私だってあなた達を置いて死ぬなんてしたくない。 そこでね、一つだけ頼みがあるの。 数年後に私と同じ星の御加護を持った男の子が来る。 その男の子はナターシャ=フォリバーという女の子と行動を共にするはず。あなたにはそのナターシャ=フォリバーを連れてきてほしいの」

 

 アルファルドは重大なミッションを課された

 

「他の三人にはその男の子の足止めをするように伝えているわ。 まあ、あの子のことだから私のところにまで辿り着くでしょうけどね。 なるべく早めがいいわ。 それまでにこっちも準備をしておくから。 できるだけ傷つけない方法で丁寧に扱ってね」

 

 その女性は顔を暗くしてさらに続ける

 

「もし、抵抗するようなら最悪中身だけでもいいわ。 これはあなたにしか頼めないの、アルファルド」

 

 女性はアルファルドをじっと見つめて言った

 

「詳しいことは言えないけどこれは私だけのじゃなくアルファルド達のためでもあるの。 だからどうか受け入れて欲しい」

 

 アルファルド達は、この女性には大変世話になっているから喜んで協力したいところだが、女性の寿命が短いと知り四人の心は落ち着かないままだった

 

 

「ウガァァァー!!」

 

 アルファルドはすっかり自我をなくして暴れ回っている

 このままではこの建物自体が崩れてしまうだろう

 もし、そうなればショウ達も無傷では済まないだろう

 というか既に怪我はしてるわけだが

 

 さて、止めるとしてもどう止めるか

 ショウたちの魔法も、今のアルファルドに打っても傷一つつかないだろう

 なにかどデカい魔法でも放てればいいんだが、魔力はまだ半分も回復していない

  これ以上ナターシャに無理をさせるわけにもいかない

 そうこうしている間にも、アルファルドは暴れ続けている

 

 そんな時、ショウの心臓が痛いぐらい早鐘を打つ

 体の温度が上がっていくのを感じる

 どうしてだか、体全体に魔力が満ちていく感じがした

 これがカリーナが言ってたショウとヒカルにある力なのだろうか

 

「ナターシャ!  ナターシャが使える魔法の中で一番威力がでかいやつはあるか?」

 

 ショウは急いでナターシャに聞く

 

「ありますけど、今の魔力では全く足りませんよ!?」

 

 まあ、そう言われるだろうと思ってた

 

「大丈夫だ!  今の俺ならなんでも出来る、そんな気がするんだ!」

 

「何を言ってるんですか、ショウさんも魔力がなくて立てるのもやっとのは、ず⋯⋯」

 

 元気にピンピンしているショウを見てナターシャは驚いた

 

「何で、なんで魔力が全回復してるんですか!? おかしいじゃないですか!  何をどうしたらそんなに早く回復できるんですか!?」

 

 おいおい、そんなに問い詰められても俺が分からないんだから知るわけないだろ?

 

「とにかく、これだけ魔力があれば一番でかい魔法を打つことができるんだよな?」

 

「ま、まあ。 ショウさんの今持つ魔力の八割ほど使えば魔法は完成しますけど⋯⋯」

 

 八割も使うのか!?

 それだけ威力が強いのだろう

 

「俺があの方からはあの怪物にどデカい一撃をぶち込む!  その魔法の使い方を教えてくれ!」

 

 ショウはナターシャに頼み込んだ

 

「別にショウさんが使わなくても魔力さえ与えてくれれば私が打ちますよ!  そっちの方が安全じゃ──」

 

「それじゃあダメなんだ!」

 

 ショウはナターシャの言葉を遮って言う

 

「俺はいつも君に助けてもらってばかりだったから、こんな時ぐらい、俺を頼ってくれたっていいんだ!  もう、君が一人で背負い込むことなんてないんだから!」

 

 そう言うショウを見てナターシャが根負けしたように言った

 

「分かりました。 そこまで言うのならお教えします。 ただ、無理だけはしないでくださいね」

 

 それはお互い様だろ?

 

「時間が無いので大雑把に説明します。 コレは極大威力の魔法です。 少しでも気を抜くと、全身大火傷になるのでそのつもりでお願いします」

 

 この子、サラッと怖いこと言った!

 それからアルファルドが暴れている中ショウは極大魔法を習得した

 本来はこんなに早く習得することは出来ないのだがそこはショウの持つ力が作用しているのだろう

 

「では、私が教えた通りに詠唱してあの怪物にぶち込んでくださいっ!」

 

 ショウはナターシャに促され詠唱を始めた

 

「我が身に宿りし火の欠片、それは我が命の煌めきなり。 灼熱の焔たる炎よ、我が手に集いて来たれ、全てを滅せ 『ファイルバースト』!!」

 

 ショウは手を前に突き出し溜めた魔力を一気に放出する

 炎は真っ直ぐアルファルドの元へ飛んでいき消えた

 まさか失敗したのか!?

 と思ったが

 

「ショウさん!  離れて!!」

 

 ナターシャの悲鳴にも近い声でショウは瞬時に離れる

 瞬間

 

 ドカゴーン!!!

 

 部屋全体を大きく震わせる振動が起こった

 まさに間一髪だった

 てか、この部屋まだ崩れないのか 強いなぁ

 

「ヴガァァァ!!!」

 

 おそらくアルファルドの叫び声だろう

 うまく命中してよかった

 ショウは一安心とばかりにその場に座り込んだ

 攻撃の反動だろうか体全体が麻痺しているかのようにビリビリしている

 

「ショウさん!  上 上っ!」

 

 ナターシャが慌てた表情で言う

 ショウが上を向くと、怪物の姿をしたまま倒れてくるアルファルドがいた

 ナターシャもさっきの魔法の爆風で煽られたのかあんなに遠くまで飛んでいる

 助けには来れないだろう

 これは終わったな と思ったその時

 スーツ姿の男が怪物と化したアルファルドを両手で受け止めていた

 

「お、お前はタース!」

 

「よう、こんな所で会いたくなかったがな」

 

 タースが受け止めたアルファルドは体が徐々に縮んでいき元の大きさに戻った

 

「アルファルド、君はよく頑張った。 本当にいい子だ」

 

 タースが両手でアルファルドを抱き抱えながら言った

 

「おじさん⋯⋯」

 

 アルファルドはかすれた声でそう呼んだ

 タースはアルファルドを地面に寝かせた

 

「もういいんだ。 ゆっくりおやすみ」

 

 そう言ってタースはアルファルドの頭をそっと撫でた

 アルファルドの目から一粒の涙が零れ落ち光の粒となって消えた

 そして、アルファルドも最期に満足といった風な笑顔を見せて光の粒となり消えた

 

「タース、どうして──」

 

「詳しい話はあとだ!  お前にはまだやることが残っているだろ。 全て終わったら話してやらないことも無い」

 

 最後まで意地悪なやつだ

 

「さあ、行くといい。 お前の手で決着をつけてこい」

 

 タースはショウにそう投げかけた

 ショウは大きく頷きふらつくナターシャをお姫様抱っこにして先へ行く

 ショウ達が先へ行ったあとタースがいた部屋が崩れ落ちた

 

「やれやれ、全く柄にも無いことはするもんじゃねえなぁ」

 

 ショウは奥の扉を勢いよく開ける

 

「ようやく来たか、サクラ ショウよ」

 

 扉の先は吹き抜けになっておりその高台に左目に黒い眼帯をつけた女性が座っていた

 こいつが全ての黒幕か

 女性は黒いワンピースを身につけていた

 

「我が名はアステル!  我が夢、我が野望を打ち砕かんとするならば全身全霊でかかってくるがいい!」

 

 いい歳して恥ずかしくないのか?

 これが最終決戦だ

 ここで全てを終わらせてやる!!

 

    第八章 [完]

 

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