第七章の弐 ~家族~

 それからアルファルドは女性の家に案内された

 

「どう、大きいでしょ?  使われていない屋敷を私一人で綺麗にしたのよ。 大変だったんだから」

 

 アルファルドと女性は家の前に立つ

 

「じゃあ、入るわよ」

 

 女性が入り口の扉を開ける

 

「あ、ママだ!」

「ママ、おかえりなさい!」

「ママ、その子誰ー?」

 

 扉を開けると男の子二人と女の子一人が皆口々に言いながら飛び出してきた

 

「紹介するけどちょっと待っててくれる?  ほら、この子雨で服が濡れちゃってるの。 着替えさせてあげないと風邪引いちゃうでしょ?  お風呂も沸かすから入っちゃいなさい」

 

 アルファルドは女性に促されてお湯が沸いた湯船に浸かる

 いい湯加減で思わず頬がゆがむ

 

「私も濡れちゃったから入ろうかしら」

 

 あの女性も体にタオル一枚巻いてやってきた

 相変わらず左目には眼帯をつけている

 アルファルドが不思議そうに見ていると女性は左目を抑えながら

 

「あぁ、これ?  別に外してもいいんだけどね。 何となく付けっぱなしにしてるの」

 

 その女性が少し悲しそうな顔をしたためそれ以上アルファルドは深く聞かないことにした

 

「それより、アルファルドちゃんの話が聞きたいな」

 

 女性は頭を洗いながら言った

 

「ほら、一応保護者的な立場だから。 あの三人の子達にも聞いてるから、良かったら教えてくれないかな?」

 

 別に隠す必要もない

 アルファルドは今日あったことを全部話した

 話し終えたあと、女性はアルファルドを抱き寄せた

 女性は涙ぐんでいた

 

「今までよく頑張ったね。 苦しかったね、辛かったね。 もう一人で我慢しなくていいんだよ。私があなたを守ってあげるから」

 

 何を他人事のようにと思ったアルファルドだったが、女性が本心で言っているのを感じ涙が出そうになった

 

「泣いてもいいんだよ。 ここでは誰もあなたを攻めないし、あなたを非難する人はいない。 汝に星々の祝福あれ」

 

 女性はそう言ってアルファルドの額にキスをした

 それが引き金となったのかアルファルドの目からとめどなく涙が流れた

 そんなアルファルドを女性は泣き止むまで強く抱きしめてくれた

 

「あーママ!  デネブがね、私のおもちゃ取ってきたの」

 

「ち、違うし。 ちょっと借りただけだし」

 

「物を借りる時は貸してって言わないといけないんだよ?」

 

 アルファルドと女性がお風呂から出ると女の子が泣きそうな声で言ってきた

 デネブと呼ばれた男の子はシュンとしている

 

「ほら、デネブ。 ベガちゃんにごめんなさいは?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「うん、いい子!」

 

 女性は謝ったデネブの頭をクシャクシャと撫でた

 

「改めて紹介するわね!  この子は今日から新しく入るアルファルドちゃん。 この中じゃ一番上かな?  三人とも仲良くしてあげてね!」

 

「「「ハーイ!」」」

 

 三人同時に返事をする

 

「あ、アルファルドです。 よろしくお願いします」

 

「よろしくー」

「やったー、女の子だ!」

「もう、みんな!  アルファルドさんが挨拶してくれたんだからこっちも挨拶しないと!  僕はアルタイルって言います。 普通にアルタイルと呼んでもらって構いません」

 

 アルタイルと名乗った男の子は背が高く、髪も綺麗に整えられている

 アルファルドへの話し方からして、とても礼儀正しい子のようだ

 

「わたしベガって言うのー!  アルファルドちゃん、仲良くしようねー」

 

 ベガと名乗った女の子は金髪をクルクル丸めて、ツインテールのような髪型をしていた

 顔はアイドル顔負けぐらいの可愛いさだ

 

「俺はデネブだ。 よろしくな」

 

 デネブと名乗った男の子はちょっとふくよかで、ぽっちゃりしている

 痩せればアルタイル並にカッコ良くなるだろうに

 この三人はみんな親に捨てられてここへ来たのだ

 

「他にも数人いたんだけど新しい家族が見つかったみたいで、ここにいるのは三人とアルファルドだけよ」

 

「僕はママがいれば、あとは何もいらないよ」

 

 アルタイルが女性に向かって言う

 

「あらあら、アルタイルったらお世辞が上手いんだから」

 

「私もママ大好きだよ!」

「お、俺もだし・・・・・・」

 

 ベガとデネブがアルタイルの後に続いて言う

 ここにいるとなぜだかすごく落ち着くし安心できる

 アルファルドは、また涙ぐんだ

 

「アルファルドちゃん、大丈夫?」

 

 そんなアルファルドを見たベガが、心配してくれたのか駆け寄ってきた

 アルファルドは心配させまいと、溢れそうになる涙を袖でグシグシこすって

 

「うん、大丈夫。 心配してくれてありがとう」

 

 と返した

 ベガは太陽のように明るい笑顔で

 

「そっかー!  良かった!  じゃあ今日から一緒に寝よっ!」

 

 ベガがアルファルドの手を引っ張っていく

 この子、結構力強いなあ

 そんな子供達を女性は笑顔で見つめていた

 アルファルドはここでなら何が変わるかもしれないと思っていた

 

 

 ショウは首筋に指を当てられたまま、ゆっくりと立ち上がる

 

「お?  降参か?」

 

 無論、降参するつもりは一ミリもない

 ショウは後ろへ飛ぶ

 

 

「ま、お前ならそれくらいやると思っていたけどな。 それぐらいで死なれちゃあ、こっちも張合いがねえからな!」

 

 アルファルドはショウをさらに責めてくる

 これ以上戦いを続けても、こちらが劣勢なのは変わらないだろう

 ショウは決して高いとは言えない頭脳を使って、この現状をどうにかする方法を考える

 ショウの剣戟は届かないし、届いたとしても大した傷にはならず逆に返り討ちに合うだろう

 ここは使ってみるか

 ショウは身体強化を使い、アルファルドに立ち向かう

 

「魔法で自身の力を強化したか。 だが、まだまだだ」

 

 ショウの攻撃はアルファルドに傷一つ与えることも出来ず弾かれる

 そう、うまくは行かないか

 

 次にショウは身体強化と身体変化の二重付与をかける

 自身の腕を剣に変化させた

 これも同じように弾かれる

 そこにショウは気づかれないように生やしておいた尻尾でアルファルドを横に薙ぎ払う

 

「ぐっ!」

 

 当たった

 ショウが攻撃が当たったことで勝機が見えたのを感じた

 これならいけるかもしれない!

 ショウはこの正気を逃すまいと一気にたたみかける

 攻撃する腕からトゲを生やしてみたり、足をムチのようにしならせたりとありとあらゆる手を使いショウはアルファルドを翻弄した

 

 魔法の二重付与は魔力をバカみたいに使うから、あんまり使いたくなかったショウだが、ここまで来て出し惜しみをする方がどうかと思う

 ショウは拳を巨大化させ、一気にカタをつけようとした

 アルファルドもゼイゼイと荒い息をしているぐらい疲れている

 ここでやらなきゃいつできる!

 

「トドメだあぁぁ!」

 

 ショウは力いっぱいアルファルドに向けて拳を振り下ろした

 

「もう、その手はくわねえぞ」

 

 アルファルドが両手でショウの巨大化した拳を掴んでいた

 使っているショウでも苦しいと言うのにそれを支える力がまだ残っていたのか!

 ショウの体はググッと徐々に持ち上げられまるで砲丸投げを連想させるかのように投げられた

 ショウは思い切り地面に叩きつけられた

 もう、身体強化も身体変化を使う魔力すら残っていない

 完全に王手をかけられてしまった

 

「随分と痛めつけてくれたじゃねぇか。 あぁ?」

 

 アルファルドは首を横にポキポキ鳴らしながら、倒れているショウに言った

 

「あの方からは殺すなと言われていたが、もう我慢ならねぇ」

 

 アルファルドの頭から湯気が見えそうなくらい怒っている

 ショウもしばらくは動けそうにない

 このまま終わってしまうのか!?

 

「じゃあな、せめてもの優しさだ。 苦しまずに殺してやるよ」

 

 アルファルドは両手を大きく上にあげ魔力をこめる

 逃げないと このままじゃ殺られてしまう!

 だけど体が全くといっていいほど動かない

 何度目かの覚悟を決めた時

 

「やめてくださいっ!」

 

 ナターシャの声が響いた

 休んで体力が少しは回復したのだろう

 

「分かりました。 私があなた達の作戦とやらに必要ならば連れて行ってくださいっ!」

 

 ナターシャ!?

 一体何を言ってるんだ?

 

「ようやく腹をくくったか。 まあ、いいだろう。 お前はどうせ死ぬんだ。 それが今か後かの話だ」

 

 ナターシャが敵に賛同するなんてどうなってるんだ?

 ショウは少し動くようになった体を起こしてナターシャを見る

 ナターシャの目はまだ死んでいない

 ナターシャにもなにか考えがあるのだろうか

 

「さあ、お前の気が変わらないうちに行こう。 こちらとて、いつまでも待っている訳にはいかない」

 

 アルファルドがパチンと指を鳴らすとショウ達が元いた個室に戻っていた

 アルファルドは入口とは反対側の扉からナターシャを連れて出ようとする

 アルファルドに連れられるナターシャの表情はよく見えなかったが、静かに口を動かしているのが見えた

 

「なんて、そう簡単について行くと思います?」

 

 ナターシャは部屋を出る直前にそう言った

 

「何だと?」

 

 アルファルドが言うが早いがナターシャが続けて言う

 

「異常魔法、ライジングビリー発動」

 

 ナターシャが今そう言った途端、アルファルドは体中に電気が走ったかのように体をビクつかせた

 

「ショウさん、今ですっ!」

 

 ショウはありったけの魔力を最大まで絞り出し魔法を放つ

 

「アイスクラッシャー!!」

 

 アルファルドの上に氷の矢が降り注ぐ

 死にはしないだろうが相当なダメージは受けたはずだ

 

「強くならないと、こんな所で終わってたまるかぁ!!」

 

 アルファルドの周りに光の粒が集まる

 そして、アルファルドは二回りほど大きくなり黒色の怪物へと変化した

 もう自我はないのかショウたちの方は見向きもしない

 が、このまま放っておく訳にもいかない

 

「うぉぉおおお!」

 

 怪物と化したアルファルドが吠え、再び戦いの鐘が鳴る

 

  第七章 [完]

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