第七章の壱 ~孤独な者~

い加減本気出せよ。 それが本気だって言うなら笑っちゃうがな」

 

 ショウはアルファルドと戦っていた

 ショウの攻撃が当たった|(かすった)のはあの一度のみ

 相変わらずアルファルドは素手で、ショウは剣で戦っている

 こちらの方が攻撃力としては上なのは明らかなのだが攻撃が当たらないのだから攻撃力も無意味な話だ

 

「所詮はまぐれか。 少しでも期待した私が馬鹿だった。 本気を出せないのは私がその程度だということなのか、それとも本気でその程度なのか。 おそらく後者だろうがな!」

 

 ショウがアルファルドを斬ろうとするとショウの後ろにまわっており、背中を蹴り飛ばされる

 アルファルドは頬の傷だけにも関わらず、ショウの体はボロボロだった

 

「いつまでもそういう態度をとるつもりならこちらにも考えがある。 お前と戦っている時間もなくなってきた。 早めに切り上げようか!」 

 

 アルファルドは攻撃をやめて、魔法の詠唱を始めた

 

「一に命ずは我が魔力、二に命ずは我が魂、三に命ずは我が肉体!  我に仇なす愚かな者を灰の霧に捕らえよ!」

 

 アルファルドの上にはおぞましい色の球体が浮かんでいた

 

「そ、それは禁忌魔法!?  あまりにも絶大な力で使用を禁止されている程の恐ろしい魔法。 それをなぜあなたが!」

 

「簡単なことだ。 この魔法はあの方が創られたんだからな!」

 

 アルファルドはいとも簡単にそうバラした

 

「さあ、受けてもらおうか。 あの方から譲り受けた禁忌魔法の力、とくと味わえ!」

 

 ショウは恐怖と疲れで動けなかった

 ショウは観念して目を閉じる

 アルファルドの放った魔法はものすごいスピードでショウの方へ近づいてくる

 

「ガードシールド!」

 

 ショウの目の前にナターシャがいて、アルファルドの魔法を防いでいた

 

「ショウさんだけでも逃げてください!」

 

 ナターシャは苦しそうに言った

 

「ハッハー!  私の魔法を止めるたあ、なかなかの魔力だな。 だが、それもいつまで持つかな?」

 

「ナターシャ!  無理するな!  俺は大丈夫だからナターシャの方こそ逃げろ!」

 

 ショウはナターシャに言うが、頑なにそこを動かない

 魔法の力の差は歴然としている

 今は耐えてこそいるが、ナターシャの魔力が尽きればそこまでだ

 

「ナターシャ、一人で無理をするな。 俺も手伝うよ」

 

「ショウさん⋯⋯」

 

 ショウはナターシャの肩に手を置き身体強化を使う

 他人に触れることで、他人も強化することができると最近知った

 

「くっ!  二人の力を合わせても足りないというのか!?」

 

 ショウとナターシャの二人がかりで抑えても、まだこちらが劣勢なのだ

 禁忌魔法というものはこれほどまでに絶大なのか!?

 

「うわっ!」 「きゃあ!」

 

 ついに抑えきれず防御が破られた

 何とか横へずらすことには成功したが、ナターシャは魔力の使いすぎでか肩で息をしている

 

「ほぉ⋯⋯ 禁忌魔法を避けるとは。 あの方の言っていた通りだ。 しかし、チェックメイトだ」

 

 アルファルドがショウの首筋に人差し指を当てる

 先は鋭く尖っていて、このままだと血が噴水のように出る

 もう俺たちに打つ手は無いのか!?

 

 

 元々アルファルドは弱かった

 毎日のようにアルファルドはいじめられていた

 体はいつも傷だらけで、持ち物もボロボロだった

 それこそ今の立場からは想像もつかないほどに

 元々体が弱いせいもあるのかもしれないが、アルファルドの心は体とは逆に強かった

 どれだけ苦しくても辛くてもじっと耐え続けていた

 

 しかし、どんなものにも限界はあり、あの日アルファルドの心は耐えきれなくなりついに爆発した

 それから何があったかは知らない

 気がつくと、アルファルドの目の前には鼻血を出してぶっ倒れている男の子達がいた

 死んではいないようだが、それよりもアルファルドの心にあったのは恐怖ではなく快感だった

 アルファルドは人を傷つけることに快感を覚えた、いや覚えてしまった

 いつの間にかアルファルドは心だけでなく体まで強くなっていたのだ

 

 もう悲しい思いや苦しい、辛い思いをしなくて済む

 快感を知ったアルファルドは止まることを知らなかった

 ひたすら人と戦う

 止めようと入ってきた人も巻き添えにして

 アルファルドは十五にして、自分よりも上の人を従わせることができていた

 周りから見れば狂っていると言われるかもしれないがアルファルドはそれでも良かった

 強くなれて幸せだった

 これで誰も自分をバカにできない

 そうあの時は思っていた

 

 その日は強い嵐で雨風が体に痛いほど当たる日だった

 いつものように家に帰ると様子がおかしかった

 電気が消えているし、何より静かすぎる

 アルファルドはいやな予感がして急いでリビングに行く

 そこには天井に父が首に紐をつけてぶら下がっていた

 父はどう見ても死んでいた

 その姿を見て母は泣いていた

 

「どうしてあなたが死なないといけないのよ!  あの子が、あの子が全部悪いのよ!  あなたが責任を取る必要ないじゃない!」

 

  ガタンッ

 

 机に足が当たり音を立ててしまう

 母はアルファルドを見つけると

 

「全部お前のせいだ。 お前さえ居なければっ!」

 

 そう喚き、包丁を持ってアルファルドに覆い被さった

 

「お前を産んだのは間違いだった!  私はどこで道を誤った!  どこで道を踏み外した!  もう、そんなことはどうでもいいか。 だってこいつを殺せば全て終わるんだからっ!」

 

 この時の母の目は血走っておりアルファルドを殺すことしか考えていなかった

 

「殺す殺す殺す!  地獄へ行っても殺してやる!  生まれ変わって私の前に現れても絶対に殺してやる!」

 

 母はそう叫びながらアルファルドに包丁を振り上げた

 アルファルドは母の腹を両足で蹴り飛ばした

 母はあっけなく後ろへ吹っ飛んだ

 そして母が持っていた包丁を取り上げ容赦なく母の胸元に刺した

 母は声一つ上げずに死んだ

 アルファルドは一度刺しただけじゃ物足りず何度も刺した

 頭・首・腹・手足⋯⋯

 それこそ上から下まで刺し尽くした

 アルファルドの服は元から赤色だったと思うぐらい赤く染まっていた

 アルファルドは強くなりたかった

 ただそれだけなのにどうして責められないといけないのだろうか

 

 アルファルドは家を出た

 父や母は心が弱かったんだ

 そんな奴らがいた家になんかいてられるかと思いながら

 雨風が強くなってきた夜にアルファルドは傘もささずに歩いていた

 雨で身体や髪が濡れるのなど全く気にしなかった

 どこへ行くという目標はなかった

 とにかくあの家から離れたい

 その一心だった

 

 そんな時、あの人に出会った

 

「お嬢ちゃん、こんな雨の日に傘もささずにどうしたの?」

 

 その人はは左目に黒い眼帯をつけている女性だった

 

「お父さんやお母さんは?  一緒じゃないの?」

 

 女性は優しい声でアルファルドに言った

 

「父は死にました。 母は私が殺しました」

 

 アルファルドは正直に言った

 それを聞いた女性は驚きもせずに言う

 

「そう、なら私と一緒に来るといいわ。 私は何かしらの事情で両親と離れ離れになった子供たちを保護しているの。

 あなたが嫌というのなら無理に連れて行ったりはしないけど」

 

 アルファルドには考える力が残っていなかった

 ただ首を一回縦に振った

 

「そう!  良かったぁ、これであの子たちもきっと喜ぶわ!  そういえばあなたの名前聞いてなかったわね。 教えてくれない?」

 

「──言いたくないです」

 

 あの母がつけた名前なんて口にするのも嫌だ

 

「でも、名前が無いと不便じゃない?  うーん デネブにベガ、アルタイルと来てあとは⋯⋯ 『アルファルド』なんでどうかしら?」

 

 どういう意図でつけたのかは聞かないが、あの母からの名前を捨てられるならなんでもいい

 

「アルファルド⋯⋯」

 

「そう、あなたはアルファルドよ。 気に入ってくれた?」

 

 アルファルドは小さく頷く

 

「分かったわ、じゃあ私の家に案内するわ。 他の子供たちもいるけどあなたならきっと仲良くできるわ!」

 

 アルファルドは母を殺したと言ったのにも関わらずこの人はどうして平然としていられるとだろうか

 どうして家に連れていこうとしているのだろうか

 

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