第六章の弐 ~アスタリスク四天王~
デネブ・ベガ・アルタイルはみな親に捨てられた
三人は『アステル』と名乗る人物に拾われて、その人の家で仲良く暮らしていた
デネブはガキ大将みたいな存在で、いつも偉そうにしていた
ベガは泣き虫で、よくデネブにいじめられてはアルタイルがなぐさめていた
アルタイルはいつもクールで、二人のお兄さんみたいな感じだった
ある日ベガが四十度近い高熱を出した
『アステル』が看病するもなかなか良くならない
移ると大変だからと言われ、ベガは一人で過ごすことが多くなった
そんなベガを可哀想に思ったアルタイルは『アステル』の目を避けつつ、ベガの元へ向かう
そして高熱でうなされているベガの手をギュッと握ってあげた
すると、ベガの顔色が少し良くなった気がした
その翌日、アルタイルのおかげかベガの熱は下がりすっかり良くなった
だが、今度はデネブが熱を出した
デネブは二人に意地悪をしているせいで『アステル』以外誰一人見に来てくれなかった
ベガの熱が下がって数日後。
ベガは高熱でうなされている時に誰かが手を握ってくれていたことを思い出した
そのことをアルタイルに聞くと、正直に僕だと言った
どうして手を握ってくれたのかとベガが聞くと
「苦しんでいる子がいるなら助けて当然じゃないか。 その子が女の子なら尚更ね」
安直かもしれないがその一言でベガはアルタイルのことが好きになった
今ここに三人がいるのは『アステル』という人物のおかげ
だから、『アステル』には死んでも恩を返さないといけない
その結果がアスタリスク四天王ということだ
「話すことは全て話した。 さあ、我を殺すといい。 人を傷つけ、さらに負けたとベガが知ればきっと悲しむだろう」
ショウはそういうアルタイルに剣を向けることが出来なかった
根っからの悪人ではないのに自分はもう二人も死なせてしまった
「俺は、誰も死んでほしくない。もう誰も殺したくないんだ」
ショウは出てきそうになる涙をグッと堪えながら言った
アルタイルはショウの言葉に呆れながらも
「君は優しいんだな」
と呟いた
そうして立ち上がろうとするアルタイルにショウが手を差し出そうとすると
グサッ
アルタイルの背中に一本の矢が刺さった
「グッ! あ、
アルタイルは矢を放った人物にそう言った
「裏切る? 何を言ってるんだアルタイル。 戦いに負けたお前らの方があの方を裏切ってるんじゃねえのか?」
「──っ!」
アルタイルは何も言い返せなかった
「雑魚はいらねぇよ、消えな」
その言葉が聞こえた時、とどめを刺すかのような矢がアルタイルに雨のように降り注いだ
ショウは矢が飛んできた方向を急いで見る
そこには一人の女性が立っていた
そこにいることからしてそいつがアルタイルに矢を放ったとみえる
少し着崩してはいるが同じ服装をしていることからアスタリスク四天王最後の一人だろう
アルタイルは背中いっぱいに矢を浴び絶命していた
「貴様あぁぁ!!」
ショウはその女性に向けて剣を振り上げた
だが、渾身の一撃はいとも簡単に片手で止められてしまう
「弱い」
女性がショウに向けて言う
「お前、弱すぎるぞ。 そんな半端な力でよくここまでやってこれたもんだ。 本当、今まで何してたんだ?」
そう言ってショウの腹に蹴りを入れた
「うぐっ!」
急な衝撃に対処できずショウはその場にうずくまる
「用があるのはお前じゃない、そいつだ」
女性はナターシャに言う
「知ってのとおり、私はアスタリスク四天王最後の一人アルファルドだ。 こいつには大事な役目がある。 私と一緒に来い」
アルファルドがナターシャの手を無理やり掴んだ
「──です」
「はぁ? 何て?」
「嫌ですっ!」
ナターシャはアルファルドの手を振りほどく
ナターシャがこんなにも怒りを表に出したのは初めてかもしれない
「欠点だらけの私をショウさんは優しく迎え入れてくれたんです。 私が抱えていた借金もショウさんには全く関係ないのに完済まで手伝ってもらって⋯⋯ ショウさんには返しきれないほどの恩があるんです! だから私は──」
「そういうの、やめろよ」
アルファルドが冷たく突き放す
「もう思い出したんだろ、何もかも。 自分が何者でどうして今ここにいるのかを」
アルファルドは何を言ってるんだ?
思い出す? 一体何を
「一生って簡単に言うけどなぁ、残された時間が短いの分かってて言ってるんだろ? 何が一生だ、笑わせるな」
アルファルドは呆れた表情で言う
ナターシャは顔を伏せて表情は見えないが明るい表情はしてないだろう
「その通りです。 私は一時期記憶を失っていました。 自分かなぜここにいるのか、なんのために生きているのか分からないまま毎日を過ごしていました。 ですが、
「「はぁ?」」
ナターシャの突然の暴露にショウとアルファルドが驚く
「な、ナターシャ 気持ちはありがたいけどそれは今じゃなくても良くないか?」
とショウ
「あのなぁ、お前今の状況分かって言ってるんなら相当なバカだぜ?」
とアルファルド
敵ながらこの意見には少し賛成してしまった
「さて、ノロケ話も済んだところで改めて問う。 ナターシャ=フォリバー、こちら側へ来る気はないか」
アルファルドは真剣な様子で聞く
「はい、何度生き返ったとしてもそちら側へ行く気はありません」
ナターシャはアルファルドの方を真っ直ぐに見つめながら言った
「そうか、まあ予想はしていたがな。 だが、目的は果たさせてもらう!」
アルファルドはナターシャに魔法を使う
ナターシャの体が宙に浮かび、十字の形を取らされる
「入れ物は中身が無事ならなんでもいいんだとよ。 中身がなくなったら入れ物は入れ物になっちまうな! ハハハッ!」
ナターシャは、恐怖に顔をゆがめながら抵抗するも本当に見えない十字架に張り付けられているようだ
「中身が何かは知らねぇがじっとしとけよぉ⋯⋯」
アルファルドが右手を挙げる
ショウは咄嗟にあの矢の事を思い出した
もう誰も死なせない!
「ナターシャは絶対に殺させない!!」
ショウは自分がどう動いたのか分からないが、剣を持ちアルファルドの後ろに立っていた
遅れてアルファルドの左頬に赤い傷が一筋入っていた
何だか体が軽い。
これなら!
「ふーん、やるじゃん。 ようやくってところか。 殺さない程度にいたぶってやるから楽しみにしとけよ!」
ショウとアルファルドの戦いが今、始まる
第六章 [完]
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