第六章の壱 ~彦星~

ってるよな?」

 

「ええ、この地図によるとここが目的地かと」

 

 思っきり星野製薬株式会社ってかいてあるんだが

 ショウ達はせっかく見つけた手がかりを無駄にはできずタースが告げたビルへ向かった

 しかし、外観は普通の会社で少し戸惑ってしまったのも無理はない

 

「と、とりあえず入ろうか」

 

 ショウはナターシャに言う

 これ以上入り口前でウロウロしていても人の目に付く

 もう、結構見られてるんだが

 入り口の自動ドアが開くと室内の冷風が暑く火照った体を冷ましてくれる

 中は受付もあって、待ち合い室的な所まである

  ここまでくるとここがアジトだとは分からなくなってくる

 

「あんた達がサクラ ショウとナターシャ=フォリバーニャンね?」

 

 入ってすぐに獣人の子が話しかけてきた

 ナターシャぐらいの年齢で耳にまで毛が生えている

 ショウは触りたくなる衝動を我慢する

 

「ん?  迷子かな?  お母さんは?」

 

 家族とはぐれてしまったのかとショウは優しく聞いた

 そんなショウの顔面を強烈な猫パンチが襲いショウは軽く吹っ飛んだ

 室内が少しザワつく

 

「あ、皆さん。 ご心配なくニャン。 ちょっと転んじゃったみたいニャン」

 

 獣人の子が咄嗟にフォローを入れる

 てか、猫パンチってこんなに痛かったっけ!?

 獣人の子がショウの胸ぐらを掴んで小声で言う

 

「いいか、二度と子供扱いするニャ。 こう見えても立派な成人ニャン。 次変なこと言ったらこんなもんじゃすまニャいからな」

 

 こ、怖い⋯⋯

 こんなに圧を掛けられたのは初めてだった

 

「タースから話は聞いてるニャン。 さっさとついてくるニャン」

 

 ショウ達は文句一つ言えず獣人の子の後について行く

 

 ショウはナターシャにそっと聞く

 

「なぁ、ナターシャ。 あの子どっちだと思う?」

 

「どっちというのは?」

 

「男が女かだよ。 男と言われればそう見えるし、女と言われても何ら不思議ではないだろう?」

 

「そうですね、私は男の子だと思いますよ?」

 

「その理由は?」

 

「私が女の子だからです」

 

 それだけかよ!

 思わず叫びそうになるのを慌てて押さえる

 そうこういっている間に目的の場所についた

 

「ここに入るニャン」

 

 ショウ達が通されたのは物が何一つない一つの個室

 いや、個室というよりかは空間と言った方がわかりやすい

 

「あのー、ここで何が?」

 

「秘密ニャン」

 

 頑なに教えてくれない

 

「一つだけ聞いてもいい?」

 

「答えられることなら答えるニャン」

 

「君って性別どっち?」

 

「男ニャンよ?」

 

 そっちかー!

 

「質問はそれだけかニャン?  だったらグズグズしてないで入るニャン!」

 

 ショウとナターシャは背中を強引に押され中に入る

 

「じゃ、頑張るニャンよ」

 

 そう言った獣人の男の子はニヤリと笑い扉を閉めた

 

 一瞬辺りが暗くなったかと思うと、ショウ達はどこまでも続く草原の中にいた

 

「どういうことだ?  さっきまで個室にいたはず」

 

 これも一種の魔法というものなのか?

 

「サクラ ショウとかいうバカはどいつだ」

 

 誰かは分からないがバカ呼ばわりされてイラッときた

 

「サクラ ショウなら俺だけど?」

 

 ショウは半分挑発するように言った

 

「貴様がベガを殺したのか」

 

 ベガ?  あぁ、アスタリスク四天王の女の子か

 

「俺はあの子を殺すつもりはなかった。 誰も死んで欲しくなかったんだ。 なのに、あの子は自ら命を絶ったんだ!」

 

「それでも貴様と戦ったから、そして戦いに敗れたからベガは死んだ!  もう、貴様が殺したようなものでは無いかぁ!」

 

 そう聞こえた時、頬に風を感じた

 気がつくと、ショウの右頬に一筋の赤い線がついていた

 そこから血がタラりと流れる

 なんだ今のは

 俺は攻撃されたのか?

 でも、敵の姿が全く見えない

 これじゃあ、戦うにしてもあまりに一方的すぎやしないか!?

 こんなのとどう戦えっていうんだよ!

 

「申し遅れた。 我はアルタイル。アスタリスク四天王の一人。 我が恋人のベガを殺した罪、死して償うがよい!」

 

 だから、姿くらい見せろっての!

 

 

 アルタイルは名門の家で育った一人っ子だった

 いつも冷静で焦ったり怒ったりすることは、ほとんどなかった

 また、とてつもなく優秀な家庭で育ったため困っている人を助けたりすることは日常茶飯事だった

 今日朝のジョギングをしている時に困っている人がいないか見回っていた

 行きだけで五人も困っている人を助けた

 しかし、そんな生活も長くは続かなかった

 

 ジョギングの帰りも同じように見回っていると物陰で言い争う声が聞こえた

 アルタイルは様子を見に行く

 そこでは一人の男の子を男たち四、五人で寄ってたかって蹴ったり殴ったりしていた

 アルタイルは弱いものいじめが一番嫌いだった

 今まで頑張って抑えてきたが、今この状態を目の前にして、抑えてきた分も重なり我慢の限界に達した

 アルタイルは護身術も習っていたため普通の男共なら簡単に倒せてしまう

 アルタイルは男の子を助ける一心で周りでいじめていたヤツらを蹴り散らした

 男共は一瞬で伸びた

 いじめられていた男の子の方に手を伸ばすがその男の子は叫びながら逃げていった

 その男の子を見て、アルタイルはやりすぎたと思った

 案の定、家に帰ると両親からこっぴどく叱られた

 理由を言っても言い訳だ、お前をそういう風に育てた覚えはないと散々な言い様だった

 そしてアルタイルは家を勘当された

 アルタイルは静かに荷物をまとめ家を出た

 勘当され途方に暮れていた所を『アステル』と名乗る人物に拾われ一緒に暮らすことになった

 

 

「ははっ!  死ね死ね死ねえぇ!!」

 

 やばい、こいつは本気で俺を殺そうとしている

 明らかに急所を狙ってきたり、致命傷になりかねない攻撃を仕掛けてきている

 相変わらず姿は見えないが

 

「ベガを死なせてしまったのは悪かった!  だから話だけでも聞いてはくれないだろか!」

 

 ショウはどこにいるかも分からないアルタイルに向けて叫ぶ

 

「罪人の話など聞くに値しない!  罪人は死ぬ道しかない!」

 

 ダメだ!  この人、全く話を聞いてくれない!

 

「ナターシャ!  数分だけ安全な場所を作れるか!  少し対策を練ろう!」

 

「は、はい!」

 

 何も出来ずにいたナターシャが詠唱をはじめる

 

「──我らを守りたまえ、パーフェクトルーム!」

 

 ナターシャがそう宣言すると大きな立方体がショウとナターシャを囲った

 

「どれくらい持つ?」

 

「最低でも十分じゅっぷんは持つかと」

 

十分じゅうぶんだ、ありがとう」

 

 頼られたのが嬉しかったのかナターシャがパッと笑顔になる

 ショウの作戦はこうだ

 

 ショウの爆発系の魔法でアルタイルを巻き込みできる限り弱らせる

 その弱ったところをナターシャが動けないようにアルタイルの体をくくる

 そこで強制的にに話し合いをさせる

 

「でも、それじゃぁショウさんが自分の魔法でケガするんじゃ・・・・・・」

 

「確かにな、まあ無傷とまではいかないかもしれないけど大ケガをする前には逃げるつもりだから」

 

 とは言ったものの、ちゃんとできるかは五分五分ってところだ

 

「お互い死なない程度に頑張ろうな」

 

 ナターシャはショウのことを心配してくれているのか難しそうな顔をしている

 

「大丈夫だ、きっとなんとかなる」

 

 ショウはそういい、ナターシャに魔法を解くように言う

 立方体が崩れていく

 

「ナターシャ!  手はず通りに頼むぞ!  俺はナターシャを信じてるからな!」

 

 ショウはナターシャを励ますように言った

 さあ、一か八かの大勝負といこうじゃないか

 アルタイルさんよぉ!

 

「あのー、アルタイルさん。 気持ちが少し変わって俺の話を聞いてくれたりしませんか?」

 

「何度も申すな。 ベガの無念をはらすまで我は死ねぬ」

 

「なら、俺は全力で抵抗しますよっ!」

 

 ショウはナターシャの様子をうかがいながら戦いに集中する

 ちゃんと詠唱してくれている 安心だ

 ショウはアルタイルの気配を|(ほぼ)勘で感じ取りなるべく広範囲の魔法を放つ

 少しでもアルタイルに攻撃を与えるためだ

 

「何を考えているか知らぬが、何をしようと我には勝てん。 実力差がハッキリしている」

 

「だけど二対一なら、何があるか分からないんじゃないか?」

 

「フッ、大して変わらぬ」

 

 アルタイルはそう言うが動きがだんだん鈍ってきている

 もう少しだ

 ショウはアルタイルに勘づかれないよう左手でこっそり魔力を貯める

 アルタイルの姿がまだボヤけてはいるが見えた

 今だっ!

 

「ファイアボム!」

 

 ドゴーン!!

 

 ド派手な音が辺り一面に響いた

 

「ナターシャ!」

 

「はいっ!」

 

 ナターシャがアルタイルに縄を伸ばす

 ショウが放った爆発による煙が晴れると縄でぐるぐる巻きにされた男がいた

 こいつがアルタイルだろう

 デネブやベガと同じ格好をしている

 

「教えてくれないか、アスタリスク四天王のことを」

 

 ショウがそういうとアルタイルは観念したかのように話し始めた

 

 

 

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