第一章の参 ~出発~

「・・・・・・ショウとヒカルには特別な力があるの。それこそ世界を無にすることすら造作もないくらいのとんでもない力よ。あの二人組がショウじゃなくてヒカルをさらったのは、さらいやすかったからだと思うわ」

 

「おい、ちょっと待て。 何で俺とヒカルの名前を知ってるんだ? お前に教えた覚えはないんだが」

 

 ショウが、カリーナにそういうとカリーナはすこし慌てたように

 

「か、神だからね!  し、知っててもおかしくないでしょ?」

 

 神だからと何でも許されていいわけないんだがな

 ま、それは置いとくことにしよう

 

「話を戻すわね。 ショウたちが持っている力は、全宇宙を探しても片手で足りるほどしかいない貴重な力なの。 その力を使って宇宙のバランスを崩壊させようとしている子がいてね。 その子をショウに止めて欲しいの。 ほら、ヒカルを助けるついででいいから」

 

 こいつ、宇宙のバランスが崩壊するって言ったのについででいいとかいってる

 矛盾にも程があるだろ

 

「てか、カリーナは神なんだろ?  カリーナが止めればいいんじゃないのか?」

 

  ショウが率直にカリーナに質問する

 

「世界のことについて神が干渉しすぎるのは良くないの。 あくまで私たち神は監督的な立ち位置になってるから。 それに、私が助けるよりもショウに助けてもらった方がヒカルも嬉しいんじゃないかしら」

 

 そういうカリーナの表情はどこか悲しそうだった

 あの反抗期を体全体で表したかのようなヒカルが、ショウが助けた方が嬉しいとは到底思えない、が助けないとも言ってない

 

「よし、行くか」

 

 ショウは決心し、動きやすい服装に着替える

 

  「ん?」

 

 カリーナがショウを何?  と言ったふうに見ている

 

「今から着替えるんだから出ていけよ!  この変態女神!」

 

 ショウは、そこら辺にあった物を次から次へとカリーナに放り投げ追い出す

 一応これでも思春期なんだから見られたくないのは当然だろ

 

 カリーナはショウの部屋の前でじっと待っていた

 一つのペンダントをいじくりながら

 

「このペンダント、持っててくれたんだ。小さい頃からずっと付けてたもんね」

 

 しばらくして中から

 

「入ってもいいよ」

 

 と聞こえた

 

 動きやすい服装がショウにはよくわからなかったのでとりあえずジャージに着替えた

 

「あんた、それでいいと思ってる訳?」

 

「ん?  なにかだめな所でもあったか?」

 

 カリーナはそっと頭を抱える

 

「・・・・・・いいわ。 今から着替えろっていってもそう変わらないと思うし。 あとこれ」

 

 カリーナはショウにペンダントを渡した

 

「これって俺が小さい時からずっと身につけてたペンダントじゃないか」

 

「これ、とっても大事なものだから肌身離さず持っておいて。何があっても手放しちゃダメ。 死んでも離さないで」

 

 めちゃくちゃ押してくる

 そんなに大事なものなのか?

 このペンダントは

 

「えっと、ショウに行ってもらう異世界いせかいはヴィーゼって場所なんだけど──」

 

「今、異世界って言った?」

 

「うん、言ったけど。 それがどうかしたの? 」

 

「異世界っていったら男のロマンじゃないか!」

 

 ショウは声をはりあげ言う

 

「え?  世界はワールドよ、栗ってなんの話ししてるの?」

 

「マロンじゃねぇ!  ロ・マ・ンだ!」

 

 何百回と聞いたことのあるノリツッコミに思わず突っ込まざるを得なかった

 

「もういい、俺が悪かった。 話を続けてくれ」

 

「そう?  なら続けるわね。 異世界ヴィーゼにショウは行ってもらうんだけど あ、言語とかは心配しなくても通じるようにしておくから安心してて。 まずは登録が必要ね。 登録しておかないと何かと動きづらいし。 冒険者たちが集まる ぎるど ってところに行くといいわ。分かった?」

 

「異世界かぁ・・・・・・ 楽しみだなぁ。 獣人とかエルフとかいたりするんだろうなぁ。仲良くなったらあんなことやこんなことも・・・・・・」

 

「こらっ!」

 ガンッ!

 

 上からあのベコベコの金属バットが落ちてきた

 恐らくというか十中八九カリーナのせいだろう

 

「人が話をしている時は聞く!  私はあなたをそんな子に育てた覚えはありません!」

 

「いや、別にお前に育ててもらってないし。 てか、今日が初対面だろ?」

 

 カリーナはそういうショウを見て残念そうな顔をした

 こいつとどこかで会ったことあるかぁ?

 

「全く、言う事聞かない子はどこに行っても嫌われちゃうよ!」

 

「別にそんな下心があって異世界に行くんじゃないし」

 

「さっき|(獣人とかエルフとあんなことやこんなことも)って言ってたのはどこの誰だっけ?」

 

「はい俺です。 すいませんでした」

 

「分かればよし。 じゃあ準備するからちょっと待ってて」

 

 カリーナが後ろを向き、ぶつぶつ言っている

 よく聞き取れないが聞き取れたとしても理解できないだろう

 よく見てみるとカリーナの右耳にはホシの、左耳にはダイヤのイヤリングをつけていた

 こいつのことだから左右間違えてつけたんだろう

 そんなことを思っているとカリーナの準備ができたみたいだ

 

「さあ、行ってらっしゃいって送り出したいのは山々なんだけどね。 私の力はそこまで強くなくてどこに繋がっているかは分からないの」

 

 そういったカリーナの目の前には、人一人通れるほどの穴が出現していた

 

「何だよそれ!  神の力とやらで何とかできないのか?」

 

「なるべく近くに行くように善処するわ」

 

 いっそ神頼みでもしようかと思ったが、目の前にいるのが女神だということを思い出し、自分の運にかけてみることにした

 

 カリーナが出現させた穴の中はどこまでも闇が広がっていた

 

「な、なぁカリーナ。 この中に入るんだよな?  ちょっと俺の危機感知センサーが痛いぐらいに反応してるんだが」

 

「あら、そのセンサー不良品ね。 叩いたら治るかしら?」

 

 カリーナが笑顔で、可哀想な金属バットをショウに向ける

 

「だ、大丈夫です!  いたって正常です!  俺の気の所為みたいでした!  アハハハハ」

 

 こいつ、怒らせたらやばそうだな

 

 ショウは、色々不安要素を残したまま穴の方へ近づく

 ちょっとでも手を突っ込んだら吸い込まれそうな、例えるならばブラックホールのような感じだ

 

「もう、グダグダしてないで行く!」

 

 カリーナがショウの背中をドンッと押す

 ショウは抵抗一つできず穴の中へ落ちていった

 

「神よ、どうかあの子をお守りください・・・・・・って私が神だったわ。 さてと、私もやることやらないと」

 

 カリーナはショウの家を文字通り飛んで出ていった

 

  第一章 [完]

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