第二章の壱 ~ギルド~

わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 カリーナに背中を押されショウは暗い穴の中を落ちていた

 もうどのくらい落ちているのかも分からない

 そもそも、この先がカリーナの言っていた通り異世界に繋がっているのかも怪しく思えてきた

 あの時は異世界に行けるからと浮かれて冷静に考えることができていなかった

 ショウは酷く後悔した

 

 ドンッ

 

 気がつくとショウは尻から落ちていた

 頭から落ちなくて本当に良かった

 

「いてててて・・・・・・」

 

 ショウは痛む尻を擦りながら今の現状を確認する

 どうやらここはどこかの森らしい

 ショウの周りをたくさんの木々が取り囲んでいる

 人前に落ちなかっただけ良かったか

 ショウがホッと一息つく

 が、それもつかの間

 

 グルルルル・・・・・・

 

 ショウの後ろから嫌な音が聞こえた

 ショウが恐る恐る後ろを振り向くと、毛が真っ白の白いオオカミ達が牙をむき出しこちらを威嚇していた

 ここら辺は、こいつらの縄張りだったのかもしれない

 これはかなりヤバい

 

「か、勝手に入っちゃってごめんねー そ、それじゃあ俺は行くから、あとはごゆっくり・・・・・・」

 

 そうショウがオオカミ達に言うと一目散に走り出した

 

「確かに人前に落ちなかったのは良かったけども!  だからって生き物の縄張りのど真ん中はいくらなんでもあんまりだろーー!!!!」

 

 ショウは猛スピードで逃げるが、後ろからは相変わらずオオカミの足音が聞こえてくる

 その音は、ショウを遥かに上回るスピードでみるみるうちにショウの方へ近づいてくる

 

「しまった!」

 

 ショウは段差に気づかず引っかかってその場にデンッと大きく転んだ

 そうこうしている間にも足音はどんどん大きくなっていく

 これから楽しい異世界ライフだと思ったのにこんなところで終わってなるものか! 

 ショウはズキズキと痛む足を引きずりながら逃げる

 しかし、動物の闘争本能というものは侮れないものだ

 ショウは諦めてその場に座り、ギュッと目を閉じ覚悟を決めた

 

「うっ・・・・・・」

 

 しかし、いつまでたっても襲ってくる気配がない

 ショウは閉じていた目を開ける

 ショウの目の前にはダークスーツに身を包んだ男の人がたっていた

 その人を見たオオカミたちは何故か怯えるように逃げていった

 何がどうなったかは分からないがとにかく助かってよかった

 

「助けていただいてありがとうございます。 なんとお礼していいのやら」

 

 ショウが男の人に礼を言う

 

「お、少年。起きたか。 何があったのかは知らないがこんなところで寝るのは危険すぎるぞ?」

 

 別に寝てたわけじゃないんだが

 悪い人ではなさそうだし、そういうことにしておこう

 

「は、はいすいません。 以後気をつけます」

 

「うむ、すぐに謝るのはいい心がけだ。 俺の名前はオリオン!  君、ここら辺じゃ見ない顔だが、どこか遠い場所から来たのか?」

 

「ま、まぁそんなところです」

 

 さすがに違う世界から来たって言うのはマズイだろう

 

「そうか。 ま、何かあったら『オリオンの翼』を頼ってくれたらいいから!  それじゃ俺はここで。 汝に星の祝福あれ!」

 

 オリオンと名乗った男の人は名刺らしきものをショウに渡すと森の奥へと消えていった

 名刺を確認すると『オリオンの翼 取締役会長 オリオン』と書かれていた

 ってことはあの人社長なのか!?

 そんな人がどうしてこんな森に──と思ったが大人には大人の事情があるのだろう

 あ、ギルドの場所のこと聞けばよかった

 

 少し休んでいると足の痛みもだいぶ引いたので森を抜けることにした

 いつまたあのオオカミが襲ってくるとも限らない

 そう思うショウの足は自然と早くなっていた

 しばらく歩いていると、森をぬけたのか急に光がさした

 

「キレイだ」

 

 ショウは思わずそういった

 高台から見える空は地球と同じ青い空で太陽もちゃんとあるようだ

 太陽に照らされてか建物全てがキラキラ輝いているように見える

 その建物の周りにはたくさんの人がいた

 

「ここが異世界かぁ」

 

 ショウはもう少し近くで見ようと思い、街へと続く階段を降りて行く

 近くで見ると違いがハッキリとわかる

 街の中を獣人に魚人、エルフやショウと似たような人種の人達など多種多様な人々がいた

 ショウはしばらく目的を忘れて街を探索することにした

 

 このヴィーゼでの通貨は|(ウェン)

 日本の円と少し似ている

 ある程度のお金はカリーナが事前に準備してくれていたようだ

 これができるなら、あの穴の先もギルドの前にしてほしかった

 せっかくお金があるのだからとショウはナババを買う

 うん、味も見た目もバナナそっくりだ

 それよりもショウが驚いたのは食料以外買ったものは全てカードになるらしい

 重たいものも持ち運びやすくてとても便利そうだ

 

 案内板を見つけ、ショウは探索を打ち切った

 

「えっと・・・・・・ ギルドは、と」

 

 案内板を見る限りでは歩いていけない距離ではなさげだ

 異世界探索はいつでも出来ることだし、まずはギルドへ行くか

 

 五分ほど歩き、ようやくギルドに到着した

 

「おっきい・・・・・・」

 

 ショウの第一印象はその一言だった

 とにかく大きいのだ

 ショウはギルドの扉の前で大きく深呼吸をしてギルドの扉を押す だがビクともしない

 

「ちょいと、そこのお兄さん。 そこのギルドの扉は押すんじゃなくて引くんだよ」

 

 通りかかったおばさんにそう言われ顔から火が出るほど暑くなった

 改めてショウは扉に手をかける

 今度はちゃんと引いてっと

 カチャッ と軽い音がして簡単に扉が開いた

 ギルド内はパチンコ屋と見紛うほどに騒がしかった

 食事をする者、新装備を自慢する者、受付のお姉さんを口説く者・・・・・・

 それこそあげればキリがない

 そんな中でも一際異彩を放っている人がいる

 結構な重量がありそうな黄金の鎧に身を包みながらも、汗ひとつかかずに立って話しているおじさんがいる

 見た感じこのギルド内で一番偉い人なんだろう

 ショウは挨拶した方がいいと思ったが会話の途中で口を挟むのもあれなのでまずは受付で登録を済ませることにした

 だが、ショウの行動は一人の男によって遮られる

 

「おい、てめぇ ギルドマスターに挨拶もせずに通るとはいい度胸じゃねえか。あぁん?」

 

 やっべー 一番関わりたくない人に、目つけられた

 

「その少年は良いのだ」

 

 先程の鎧のおじさんがヤンキー風な男の人を制止する

 この人がギルドマスターか

 

「それよりも、儂のことはギルドマスターではなく『ギルちゃん』と呼べと言っておるではないか!」

 

「ひぃ!  すいません、ギルちゃん様!」

 

 え、何この人 クセ強すぎない?

 

「大きい声を出してしまって悪いのぉ」

 

「いえいえ、挨拶もしなかったこっちが悪かったんですから。 俺はサクラ ショウって言います」

 

「サクラ ショウ?  儂はこの街の住民の顔と名前は全て覚えてあるからのぉ。 儂が覚えていないということは少年、登録がまだだな?」

 

「ま、まぁ・・・・・・」

 

 この人物凄い記憶力だな

 ショウがそう言うとギルドマスターはそれこそ物凄い勢いで謝った

 もちろん隣のヤンキー風な男の人も頭を押さえつけられ強制的に謝らされていた

 

「これは失礼した!  ヴィーゼでの新しい生活をしようとしている時に水をさすような真似をしてしまった。 ささ、儂らに構わず登録してきなされ」

 

 ギルドマスターが受付の方に手を差し出した

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ショウは謝る二人の前を通り受付へと向かう

 受付までの道はそう長くないのだが、さっきの騒動ですっかり注目されてしまい遠く感じる

 ギルド内の人全員から注目を集めたショウはやっとこさっとこ受付についた

 

「何か一悶着あったみたいですね」

 

 受付のお姉さんが苦笑しながらショウに言った

 

「ハハハハハ・・・・・・」

 

 ショウは笑い返すことしか出来なかった

 そんなお姉さんはルピー と名乗り上からピチッとした白いスーツに赤いネクタイをつけている

 逆に下は見えそうなくらい短いスカートに黒いニーソックスが映えている

 

「なんか私の事、変な目で見てませんか?」

 

「いえ、全然全然!  いやー、お姉さんキレイだなぁって思っただけで決して変な妄想したりなんかしてないですから」

 

 ん?  こんな話、前にもした感じがする

 

「それはそれでいいんですけどね」

 

 良いんかーい! 

 

「ギルドへようこそ!  登録ですね!  冒険者ですか?  住民ですか?」

 

 これは冒険者の方になるのかな?

 

「冒険者でお願いします」

 

「かしこまりました!  では、こちらの機械に手を合わせてください」

 

 急に元気いっぱいになって若干引くショウだったがここはグッと我慢した

 ルピーさんが差し出した機械には手形がつけられており、そこに手を合わせることで冒険者としての登録ができるらしい

 ちなみに住民登録の方はもう少し面倒な手続き等が必要になるのだとか

 日本では本人と確認する証明書とか資料とかでゴチャゴチャしてたのに比べてめちゃくちゃスマートだな

 これも異世界だからできる技か

 そう思いながら、ショウは手形に手を合わせる

 機械が動き出し手の形をなぞるようには光が動いていく

 なんかコピー取られてるみたい

 最後の小指をなぞり終え、登録が完了した

 ルピーさんができたカードを手に取る

 

「はい、出来ました。 サクラ ショウ様ですね。 えっとHPが少し高いの以外は全て平均的ですね。 至って大きな力とかはないみたいです」

 

「え?  何も無いんですか?」

 

 ショウは思わず聞いた

 

「はい。 まぁこれ自体は全くもって珍しいことでもないんですけどね」

 

 カリーナは特別な力がショウとヒカルにあるって言ってたんだが

 その力自体が珍しくて機械じゃ判別できなかったのかもしれないな

 

「コホン では話を続けますね。 この冒険者カードはとっても大事なものなので決して無くさないようにしてください!  紛失されたり半分に折れたりしても再発行は出来ませんので悪しからず」

 

 ルピーさんが放漫な胸をさらに大きく揺らしながら年を押してくる

 

「それではサクラショウ様! これからの冒険者としてのご活躍を心よりお待ちしております!  ギルド職員一同応援しております!  汝に星々の祝福あれ!」

 

 ルピーさんの後に続くように他の職員も

 

「汝に星々の祝福あれ!」

 

 と言った

 そういえばオリオンさんも言ってたな

 ここでの有名な言葉かなにかなのか?

 さ、登録も済んだことだしこれからどうしようかな・・・・・・

 

 

「おお、ショウ殿。登録の方は無事に済みましたかの?」 

 

 この声はギルドマスターか

 

「何とか。 それよりその『殿』とかつけなくてもいいですから。 普通に呼び捨てで構いませんよ」

 

 ギルドマスターからそう呼ばれるのは何かむず痒い

 

「そうか、ではショウと呼ばせて頂こう。 ショウはこれからなにかする予定でもあるのか?」

 

「特にないんですが」

 

 街でもぶらつこうかと思ってたんだが

 

「そうか、それなら儂の友人が魔法の出張授業を行ってるからそちらに顔を出すのもどうかと思ったんだが」

 

 魔法だって!?

 俺にも使えるようになるのなら参加しない手はないだろう

 

「俺、やります!」

 

「そうかそうか。ショウなら必ず食いつくと思っていたがな。 ギルドを出ると大きな広場に出る。 そこの真ん中で、そうじゃな・・・・・・ 時間的にはもうすぐ始まるだろうから行ってくるといい」

 

「ありがとうございますっ!  ギルドマスター!」

 

 ショウは急いでギルドを飛び出した

 

「別に大したことじゃない。 後、儂のことは『ギルちゃん』と呼びなさい」

 

 やっぱこの人、めんどくさいわ

 

 

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