第一章の壱 ~異変~

う朝だよ!  起きて!」

 

 妹の声で咲春星さくらしょうは目を覚ます

 ショウは、まだボーっとする頭を無理やり起こすため顔を洗いに行く

 この家で父と妹、そしてショウの三人で暮らしている

 母は妹を産んだと同時に亡くなった

 そうはいっても、ショウもあの頃はまだ小さかったからよく覚えていないんだとか

 

「ほら、早く準備しないと遅れちゃうよ!」

 

 妹がショウを急かす

 妹が咲春光さくらひかる

 妹なのにショウよりしっかりしている

 背が小さいのを気にしているのか、ヒカルは毎朝牛乳を飲んでいる

 

「俺は小さいヒカルも可愛いと思うぞ」

 

 ショウは、三杯目の牛乳を飲もうとしているヒカルに向けて言った

 

「兄貴が良くても私は嫌なの!!」

 

 そう言って学生カバンを持ち、出ていった

 怒らせちゃったか・・・・・・

 ショウが時計を見ると、もう出ないと間に合わない時間になっていた

 ショウは朝食のパンを口の中に詰め込み、急いで着替え家を出る

 

 ショウの通っている高校はヒカルの中学校とは別方向で、帰り道に会うことはほとんどない

 ショウは愛用の自転車を飛ばして高校へ向かう

 

 下駄箱で靴を履き替え、自分の教室の扉を開ける

 自分の席に着く時ショウは違和感を感じた

 隣の若葉翠わかばみどりさんの席に坊主頭の男子生徒が座っていた

 もうすぐ授業が始まるというのに・・・・・・

 翠さんも困っているだろう

  ちなみに若葉翠さんは、緑の眼鏡をかけ黒く長い髪を後ろでポニーテールにしている

 ショウから話しかけることはほとんどなかったが隣の席だ 知らないはずがない

 

「おい、もうすぐ授業始まるぞ」

 

「うん、だから?」

 

 こいつ、わかってて言ってるのか?

 

「ここはお前の席じゃないだろ!  早く自分の席に戻れよ!」

 

 坊主頭のやつの態度に少しイラつき、つい怒鳴ってしまった

 周りの視線がショウに集まる

 

「君こそ何を言ってるんだい?  ここは元々僕の席だったじゃないか。 ほら」

 

 坊主頭のやつは座席表を取り出しみせる

 ていうか、なんで座席表持ち歩いてんだよこいつ

 そいつから座席表を奪い取り確認する

 確かにここはこの坊主頭の席らしい

 しかし、注目するのはそこじゃない

 このクラスに若葉翠という名前の子は一人たりともいなかった

 どうなってんだ?

 ショウはその場で頭を抱える

 

 教室の扉が開き、担任が入ってくる

 

「おーい、席につけ── ってショウ、お前いつまで立っているんだ。 早く自分の席に着きなさい」

 

 先生すらこの違和感に気づいていない

 俺の知らないところで何が起きてるんだ?

 そうして始業のチャイムが鳴り、騒がしかった教室が徐々に静かになる

 ショウは納得いかないまま自分の席に腰を下ろした

 その後も、授業は滞りなく行われたが若葉翠さんが休みという連絡もなく学校での一日が終わった

 

 学校が終わった帰り道、ショウは翠さんが来なかった件について考えていた

 翠さんは真面目だから、休む時は休むと必ず学校に連絡をしているという

 体が弱いと聞いたため病院にも通っているらしい

 いっそ病院に行ってみようとも思ったが、さすがに他人のプライバシーな面には触れない方がいいだろう

 

「げっ!  兄貴!」

 

 こういう時に限って、ヒカルと帰り道に鉢合わせする

 最初の 「げっ!」 は中学生の女の子からは、決して出ない声でショウも驚いた

 

「どうしたんだ?  今日は随分帰りが遅いじゃないか」

 

 ショウは少し、ほんの少し心配になって尋ねる

 

「別に兄貴には関係ないでしょ。 もうすぐ大会があるから練習してたの。 そしたら遅くなっただけ」

 

 別にと言いつつも答えてくれるところに、若干の照れ隠しをショウは感じた

 ヒカルは体育会系の部活に入っているらしい

 ショウと違って体を動かすのが好きなのだとか

 インドア派のショウには一生分からない話だが

 ショウが部活の邪魔になるからと、短く切ったヒカルの栗色の髪をそっと撫でる

 

「ひぇ!!」

 

 ヒカルが女の子らしく驚いた

 

「な、何すんのよ!  急にそんなことされたら誰でもびっくりするに決まってんじゃん!」

 

 ヒカルがプンスカ怒っている

 ヒカルには母親が死んだことを伝えていない

 伝えるときっと自分のせいだと、責任を感じるだろうからヒカルにだけは言えない

 そんなことを思いつつ、ショウはヒカルの頭に手を置く

 ヒカルが、一瞬ビクンと魚のように跳ねる

 

「だーかーらー・・・・・・ やめてって言って──」

 

 ヒカルの言葉は突然の乱入者によって遮られる

 一瞬目を離した隙にヒカルが謎の二人組に連れ去られていた

 ヒカルは既に気絶されられているのか呼び掛けには応じなかった

 

「おい!  お前ら、ヒカルを離せ!!」

 

 ショウは空へ逃げようとする二人組を慌てて呼び止める

 暗くてよく見えないが、体つきからして二人とも男だろう

 二人組が止まってくれたため、呼び掛け答えてくれるのかと思ったがショウの勘違いだった

 一人が爆発を起こし、ショウは爆風によって吹っ飛ばされた

 

「おい、殺したんじゃないだろうな?  あいつも大事な鍵なんだから。 もし殺してたら俺たちの首が飛ぶぞ」

 

「大丈夫だって!  あれくらいで死ぬようなやつじゃないから。 でも、これであいつは僕らを追ってはこれまい」

 

 二人組はそう言って、ヒカルを連れたままどこかへと消え去った

 

 

 

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