第二章の参 ~出会い~
ショウはギルドへ戻り、ルピーさんに話を聞いてみることにした
「あのー、魔法使いの格好した小さな女の子って来てませんか?」
ショウがそう聞こうとするとルピーさんはマスクをつけていた
「どうしたんですか? そんな大きなマスクつけて」
「いやー、ちょっと風邪気味でして」
そういったルピーさんの声はものすごくガサガサだった
受付嬢には決して似合わない声だ
朝は大丈夫だったのに
きっと無理していたのだろう
「そうですか、お大事になさってください」
「ありがとうね。 ところで魔法使いの女の子の話ですか。あぁ、ナターシャちゃんね。あの娘またなにかやっちゃったのかしら?」
どうやらルピーさんも知っている子のようだ
「こっちには来てないわね。 ま、何かあったらこちらで何とかしますのでショウさんはクエストにでも行かれてはいかがですか?」
クエストか
さっきの魔法の勉強ももしかしたら役に立つかもな
ナターシャという子の事も気になったが人生初クエストの方が勝っていた
ギルドに設置してある掲示板には様々なクエストが貼ってある
初心者でも簡単そうなものから、プロでも難しそうなクエストまである
しかし、初心者用のクエストといえば木の実の採取、郵便配達、洗濯と掃除などいわゆる雑用ものばかりでいまいちやる気が出ない
せっかく魔法が使えるようになったのだから戦ってみたいだろ?
え? 戦闘経験? 皆無ですけど何か?
それでも諦めずに初心者のショウにも出来るクエストはないかと探していると、一つのクエストに目が止まった
『家の周りにスライムが大量発生していて困っています。 討伐してくれる方を至急大募集しています。 経験、未経験は問いません。 報酬は討伐数×三千ウェンです』
スライムか
初心者でも倒しやすいモンスターと聞く
ショウはそのクエストを受けることにした
「あら、今日はあの女の子じゃないのね」
クエストを依頼したのは四、五十代のおばさんだった
あの女の子とは誰のことだろう
「やってくれるのなら、いいわ。とりあえず初めてみたいだから大体のことは教えておくよ」
おばさんが言うには冒険者登録していない者はモンスターに触れてはいけないらしい
昔、むやみやたらに冒険者以外がモンスターと接触して食べられたという事例が多発したからだそう
また、スライムは初心者でも簡単に倒せるためわざわざスライムを倒してちまちま稼ぐよりかはそこそこ強いモンスターを倒してがっぽり稼ぐのが冒険者たちの主流だそう
「そうそう、スライムは無色透明だからよく見ないと見つけられないまま日が暮れるなんてこともあるからね。 それじゃ、日が暮れるまでよろしく」
そう言っておばさんは家の中へ入っていった
これも雑用みたいなものじゃないのか?
ショウは周りを見回すがスライムどころか生き物すら見当たらない
「本当にここにいるのか?」
ショウは途端に不安になる
草が少しざわついた
そこか! ショウは魔力を手に込める
全てを出し切るように
「ファイア!」
ボンッ と音を立ててショウの魔法は飛んで行った
恐らく命中しただろう
ショウが急いで見に行くがそこには焦げた草しか無かった
そう上手くは行かないか ってスライム相手に苦戦してどうする!?
これは本気でやらないとまずいなあ
数分後、ショウは血眼になってスライムを探していた
そして夕方
倒すより見つけるのが困難で討伐数は五匹
一万五千ウェンだ
初日の稼ぎにしては十分だと思う
今日は人生初のクエスト達成祝いとしてパァーっと打ち上げでもするか
日もくれて朝にはあんなに騒がしかったギルドも今は落ち着いていた
ショウが何気なくギルド内を見渡すとナターシャと呼ばれていた女の子がクエストの掲示板の前に立っていた
服装はあの日と同じトンガリ帽子に黒いローブ、そして杖
ショウが話しかけようと近づくと、ナターシャは走ってギルドを出ていった
なにか悩み事でもあるのだろうか
しかし、ショウの頭はこれからの打ち上げのことでいっぱいだった
食事にほとんどのお金を使ってからふと思い出した
俺、今日寝るとこなくね?
ショウは慌ててルピーさんにここの近くに安くて泊まれる場所がないかたずねた
ルピーさんは音楽祭と書かれたチラシに目を落として大きなため息をついていた
ショウの気配を感じたのかササッとチラシを隠した
「え、なんですか?」
「ここら辺で泊まれる場所ってないですか?」
「そうですねぇ。 ここら辺で泊まれる場所はここぐらいしかないですね」
「そうですか・・・・・・ってここ泊まれるんですか!?」
「ええ、二階が休憩室になってますので。 ショウさんは今回のご利用が初めてなので無償でご用意させていただきますが、どうします?」
「お願いします!」
ショウは間髪入れずに答えた
ルピーさんから休憩室の鍵を貰い部屋の電気をつける
中は机と椅子とベッドしかない質素な部屋だった
貸してもらってる立場で文句は言えないが
ショウはベッドによいしょと寝転がる
絶妙な柔らかさだ
ショウはそのまま眠りについた
次の日の朝
ショウの隣には女の子がスヤスヤと眠っていた
昨日は疲れからか鍵もかけずに眠ってしまったようだ
ショウがびっくりしていると女の子が寝返りを打った
ん? この子、ナターシャちゃんじゃないか?
コンコン
扉を叩く音がした
「ショウさん、起きておられますか? お部屋をお掃除したいのですが」
このガサガサ声はルピーさん!?
今この状態を見られたら俺が掃除されてしまう!
ショウはゆっくり扉を開ける
「あ、おはようございます」
ショウはなるべく怪しまれないように挨拶をした
ルピーさんは物凄い重装備で扉の前に立っていた
「あのー、一つ聞きたいんですけどそれは?」
「これは全て掃除の道具です!」
「いやー、一晩寝ただけですからそんなに汚れてないと思うんですけど」
「私綺麗好きなものですみずみまで掃除しないと気が済まないんです」
くっ! 潔癖症か!
「掃除してくれるのはありがたいんですけど、着替えたりするのでもう少し待っててもらえますか? 終わったら呼びますんで」
「わかりました」
そういうとルピーさんは一階へ降りていった
ルピーさんが完全にいなくなったのを確認したショウは改めて自分の部屋を見る
「「あ」」
起きた女の子と目が合った
女の子はショウの顔を見るなり顔を真っ赤にして逃げようとする
「ちょ、ちょっと待って! ナターシャちゃん!」
ショウは女の子を呼び止める
それを聞いた女の子はビクッと肩を震わせて止まった
「ごめん、名前は受付のお姉さんから聞いたんだけど。 間違っていたなら謝るよ」
女の子はゆっくりとショウの方をむく
「──は──シャ=──バーです」
とてつもなく小さい声で何か言っている
ショウはあまり怖がらせないように優しく聞き返す
「ごめんね、もう一度言ってくれる?」
「・・・・・・私はナターシャ=フォリバーです」
当たっていたようだ
さらに話を聞いてみると、ナターシャ場所隣の休憩室を使っていてトイレに行ったあと寝ぼけていたみたいで間違えて入ってしまいそのまま眠ってしまったのだとか
確認のために隣の休憩室も見に行くが確かに部屋には綺麗に畳まれた黒いローブの上にトンガリ帽子が置いてある
「でも、魔法使いならこんなところじゃなくてもっといいところに住めるんじゃないの?」
ショウは思わずプライバシーに関わることを聞いてしまった
ナターシャは今にも泣きそうなのを唇を噛んで必死に抑えている
「確かに、私は魔法使いですが時々魔力が暴走して制御できなくなるんです。 それでどこもパーティーに入れてもらえずに・・・・・・」
ナターシャの両目が涙でウルウルしている
「わかった! わかったから泣かないで!」
ショウにもナターシャの気持ちはわからなくもない
小学校の時に二人組のペアを作れと言われた時、いつもショウだけ余るのだ
クラスが三十一人だから誰か一人は先生とか三人ペアになるんだけど
あの時の気まずい雰囲気は幼いながらも覚えている
「とりあえず、俺とパーティー組まないか? 俺もちょうど一人だし」
「え、いいんですか?」
「もちろん」
断る理由などひとつも思い浮かばない
ショウはナターシャを連れて一階に降りようとした
でも、ナターシャはなんだか恥ずかしそうにモジモジしている
「ん? どうかしたか?」
「あの、着替えてからでもいいですか?」
あ、そうか
ナターシャは今パジャマ姿だった
「それはごめん。 待ってるからゆっくり着替えてくれ」
「は、はい」
着替え終わったナターシャを連れてギルドの一階へ降りる
するとルピーさんが超高速で二階へ上がって行った
そんなに嫌なのだろうか
ギルド内は相も変わらず多くの冒険者達でにぎわっていた
酒らしきものを飲む者、金を貸してくれとせがむ者、男女二人でイチャイチャしてる者とやはり様々な人たちがいた
ふと、部屋に忘れ物をしたことを思い出したショウは部屋に忘れ物を取りに行く
掃除は終わってるだろうか
ショウはゆっくりと扉を開ける
中は黄金色で塗られたかのようにピカピカだった
ルピーさん、恐るべし
「危ない危ない、これを忘れてたらカリーナに怒られるところだった」
ルピーさんが恐らく置いてくれたのだろう
机にあのペンダントが置いてあった
でも、これにどんな力があるんだろうか
ショウが一階に戻るとナターシャが三人の冒険者パーティーと話をしていた
ナターシャが必死に何かを訴えているようにも見えるが相手の冒険者パーティーは一向に首を縦に振らない
それどころか、追い払うような仕草もされていた
あのパーティーとナターシャの間に何があったかは知らないがそこまでしなくてもいいだろうに
ガックリと肩を落として戻ってきたナターシャに話を聞く
「何かあったのか、アイツらと」
「あの人たちは前、一緒にパーティーを組んでくれた人なんです。 けど、あるクエストの途中に私の魔力が暴走してしまって。 結局そのクエストはやむなく失敗扱いになってしまいました。 決して難しいクエストではなかったんです。 私のせいで失敗したんです。だから私にもできることがないかと尋ねてきたんです」
なるほどね
「だからといって、ナターシャがそこまで責任を感じることは無いんじゃないか? ほら、人間はみな支えあって生きてるんだからさ」
ショウはかっこいいことを言ったつもりだがナターシャには通じなかったようで口をポカンと開けていた
「と、とりあえずだ。 気を取り直してクエストに行こうじゃないか! 俺とナターシャのパーティーで」
「ほぇ?」
ナターシャが間の抜けた声で言った
そんなナターシャを連れてショウはクエストの掲示板を見に行く
昨日の今日で大きな変化はないか
仕方なく今日もあのおばさんのところでスライム討伐でもするか
「あらァ、ナターシャちゃんじゃないの! 昨日は特に目立った特徴のない男がスライム討伐してくれたんだけどね」
目立った特徴がなくて悪かったな
「ナターシャ、この人と知り合いなのか?」
「はい、ショウさんよりも先にスライム討伐のクエストを受けさせてもらってたんです」
昨日おばさんが言ってた女の子というのはナターシャの事だったのか
「普段は魔力が暴走しないようにと抑えながら行動してるんですけど、戦いとなるとそうもいかず」
そういうナターシャの周りにはもう大小様々な大きさの穴がボコボコと空いていた
こんなになってまで何がこの子を動かす原動力になっているのだろうか
ふと、隣に来ていたおばさんが口を開く
「ナターシャちゃんの力は魔法使いとしてはとても適切なの。 だけど、体と力が合ってない。 魔力を溜め込む器が小さいのかもしれない。体が力に追いついていないのかもしれない。 でも、ナターシャちゃんは諦めずに、自分はまだまだ未熟だと人一倍に努力して頑張っている。 周りから馬鹿にされようと、どれだけパーティーから弾かれたとしてもナターシャちゃんは決して努力を怠ることはなかった。 それからあの子はここに通いつめて一人で一生懸命頑張っていた。 全く、私の息子にナターシャちゃんの爪の垢をがぶ飲みさせたいほどにね。 うふふ」
ショウはそういうおばさんに苦笑して答えた
「ハハッ、そうですね」
おばさんの言うこともわからなくはない
確かにあの時もナターシャは自分が全て悪いと責任を全部背負っている
このままではいつか体も心も壊れてしまう
今もスライムを探しているナターシャを見て、心がキュッと締め付けられる感じがした
この子は俺が守ってあげないと
俺があの子を助けないと
「なぁ、ナターシャ。 俺と正式にパーティーを組まないか?」
ショウがナターシャの肩に手を置く
「ひぃ!」
いきなり肩に手を置いたのはまずかっただろうか
ドカーン
広場での爆発よりも大きい
余程びっくりしたのだろう
「す、すまない、ナターシャ。 別に驚かせるつもりはなかったんだ──ん?」
ショウは地面に落ちていた一枚の紙を拾う
「あぁ! そ、それはァァ!!」
ナターシャが慌てて止めようとしたが遅かった
「・・・・・・『ナターシャ様へ、借金の返済期限が近づいてまいりました。 〇月✖日までに支払わない場合は・・・・・・』」
ナターシャの顔が一瞬にして真っ青になった
第二章 [完]
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