第三章の壱 ~借金~
「
ショウはナターシャが抱えている借金のがくに驚愕した
何度も見直したから間違いない
「ナターシャ・・・・・・ 借金してたのか」
ナターシャはギュッと固く目を閉じて下を向いている
「これ、オリオンの翼じゃない!」
スライムのおばさんが言った
「ここヴィーゼではオリオンの翼という団体が産業の八割方を牛耳っているの。 昔からオリオンの翼にだけは借金をするなと言われてたのに。 一体何があってこうなったの?」
おばさんがグイグイナターシャに迫ってくる
ナターシャはしばらく黙っていたが、やがて観念したかのように口を開く
「前までは他の場所から借りてたんです。 あ、別に悪いことに使ってた訳じゃないんですよ。 ただ、私ができるクエストの報酬だけでは生活するのも困難になってしまったんです」
生活していくのも厳しかったのか
「でも、前に借りていたところがオリオンの翼と合併してしまい」
「で、そのまま借金も引き継がれたってことか」
ショウはナターシャの後に続いて言った
「はい。 今までも少しづつは返していたんですが、それ以上に借金が膨れ上がってしまったようで・・・・・・ だから、私とパーティー組む人がいないんです」
「うーん。あ、ギルドマスター じゃなくてギルちゃんに頼んでみるのは──」
「駄目よ! あの人はああ見えて忙しいんだから、ナターシャちゃんには悪いけどこれ以上用事を増やすのは良くないわ」
おばさんがショウの意見に突っ込んでくる
他の冒険者は自分も巻き込まれたくないからパーティーに誘うことも無い
当然といえば当然か
だが、俺は違う
女の子が困っていたら助ける
それが男ってもんだろ!
「事情はわかった。 そこでだ、俺とパーティーを組まないか?」
「は?」 「へ?」
おばさんとナターシャがそれぞれ言う
「なぁ、兄ちゃん。 今の話聞いててそう持ちかけてるならあんた相当バカだよ」
おばさんには呆れられ
「そ、そうですよ! ショウさんがわざわざ首を突っ込まなくても私がひとりで何とかしますから!」
ナターシャには心配そうな顔で見られた
「そもそもあんた、どう見たって初心者だろ? この莫大な借金を返す当てでもあるのか?」
もちろんあるはずがない
たとえあったとしても初心者の俺がこなせるほど簡単で高い報酬のクエストがある訳──
「あった・・・・・・」
日も暮れておばさんと別れたショウとナターシャは、クエストで倒したスライム三匹の報酬 九千ウェンを持ち、クエストの掲示板を見ていた
ナターシャに負担をかけず、報酬が高い
そして、初心者の俺にでもできるクエストを探していた
スライム討伐で地道に稼ぐと言うてもあったが今は一秒たりとも時間が惜しい
そんな中、三つの条件に見事当てはまるクエストを見つけたのだ
『街の外れの誰も寄り付かなくなった廃墟の調査をお願いします。 夜な夜な不気味な声が響いておちおち静かに眠ることもできません。 報酬は希望の金額をお渡しします』
報酬が自由に決められるなんて、物凄い太っ腹だな
これならナターシャの借金も直ぐに返済出来るかもしれない
早速ショウはナターシャを連れて夜のクエストへ向かった
「廃墟だな」 「廃墟ですね」
ショウとナターシャはそれぞれ言う
見た感じはお化け屋敷みたいで不気味だった
周りには雑草が生い茂っており建物のいたるところがひび割れていたり崩れかけたりしている
本当にここに入っていいのか?
入ったらドンって崩れたりしないよな?
ショウはゴクリと唾を飲みこみゆっくりと廃墟の扉を開ける
「ゴホッゴホッ」
開けるなり、ナターシャが咳き込んだ
長い間使われていなかったのだろう
夜のクエストようにと、ギルドから借りたランプで中を照らす
外見と違い中は意外とスッキリしていた
それも不気味に思えるくらいに
ポロロン・・・・・・
「何だ!」
一瞬楽器の音を感じたショウが当たりを見回す
中は闇が広がるばかりでショウ達以外の人の気配はしない
気のせいか
驚かせてしまったナターシャに謝り、ショウ達は中を散策することにした
寝室、トイレ、物置、リビング、キッチンの他にもたくさんの部屋があった
一通り見て回ったが怪しい点は見当たらなかった
「とりあえず、今日は帰るか」
「そうですね」
ナターシャも慣れたのかときおり笑顔を見せてくれる
良かった良かった
ショウが廃墟の扉に手をかける
ガチャガチャ
「ん?」
「どうかしたんですか? ショウさん」
ナターシャが不思議がりショウに聞く
気のせいかもしれない
ガチャガチャ
これはやばい
「俺達、閉じ込められたかもしれない」
「え!?」
ナターシャもショウの後から扉に手をかける
「ほんとだ! 開かない! 私達本当に閉じ込められちゃったんですか?」
ナターシャがオドオドしている
こんな状況下でも可愛いと思ってしまうのは間違っているだろうか
「あ、でも鍵穴がありますよ! ショウさん、鍵持ってますか?」
確かによく見ると内側に鍵穴がついていた
「でも、俺鍵かけてないし、鍵自体持ってないよ」
「そういえば私もでした」
ナターシャは可愛くべろを出す
外に出られないとならば仕方ない
「ナターシャ、覚悟を決めろ」
「え、何をですか?」
「ここで夜を明かす」
「・・・・・・ショウさん、冗談はやめてくださいよぉ。 いくらなんでもこの廃墟で寝るなんて──」
真面目な顔で言うショウを見てナターシャはブルブル震える
「嘘、ですよね」
「嘘じゃない、本当だ」
「嘘でも嘘って言ってください!」
「それになんの意味があるんだ?」
そうショウが言った時、ナターシャの目から大粒の涙がボロボロと落ちる
「嫌ですよ。こんなところで寝るなんて。 それなら馬小屋で寝ていた方がマシでした」
おい、その言い方だと本当に馬小屋で寝てたことになるぞ え、マジで?
ポロン ポロン
また、あの楽器の音だ
一体どこで誰が鳴らしてるんだ?
「もう嫌だァ!」
音が聞こえたかは知らないがナターシャはその場から逃げ出した
えっと、一人で行動する方が怖いと思うんだけど
ショウはすぐにナターシャの後を追いかけるが、また見失ってしまった
一体どこまで行ったんだ?
ポロロロロン♪
近くであの音が聞こえた
「こっちか!」
ショウは音が鳴ったらしい部屋に向かう
勢いよく扉を開けた
どうやらここは楽器部屋のようだ
ギターに鉄琴、他にもショウが知らない楽器が置いてあった
クスンクスン
すすり泣く声が聞こえた
ショウがそっと覗き込むと、そこにはナターシャがいた
こんなところにいたのか
「ナターシャ、楽器の音がうるさくなかったか?」
「・・・・・・楽器の音なんてしなかったけど」
また、ショウにしか聞こえなかったようだ
一体この音はなんなんだ?
いつの間にかあの音はやんでいた
ナターシャは泣き疲れたのかすっかり眠ってしまった
ショウは一つの部屋を部屋を貸してもらい、ナターシャを椅子に座らせる
そして、ホコリだらけの寝室を程よく綺麗に掃除した
ここにルピーさんがいたら怒られるだろうな
「こんなもんだろ」
ショウはナターシャをベッドに寝かせる
この子、意外と重いな
起きてる時に言ったらグーパンチが飛んできそうなことを思いながらショウもベッドに腰掛ける
ギルドの休憩室ほど柔らかくはないが眠れないほどでもない
ふと、ショウは冷静になる
ショウがここへ来たのはさらわれたヒカルを助けるためだ
もちろん、今の今まで忘れていたわけじゃないからな!
しかし、なんの手がかりもないままここまでズルズルとやってきたがこの道で本当にあっているのだろうか
急に不安になる
こんなとこでクヨクヨしていても仕方ない
ヒカルは俺が絶対に助け出す
例え、俺がどうなろうとも、だ
そう思いながら、ショウはベッドに横になる
疲れからか睡魔が急激に襲ってきた
「あの子、今の今まで自分がここへ来た理由を忘れてたって言うの!?」
静かになった廃墟の寝室に自称女神のカリーナがいた
「てか、ヒカルを助けるだけじゃなくて、悪いことをしようとしている子を止めるっていうのも覚えてないようね・・・・・・」
カリーナは小さくため息をつく
そして寝息を立てているショウの額をツンとつついた
ショウの額がボォーっと光りを放ったがすぐに消えた
「わたしがもっとしっかりしていれば、ショウやヒカルをこんな目に合わせなくて済んだかもしれないのに・・・・・・ ごめんね」
カリーナは顔を伏せがちにしてその場から去っていった
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