二部 第四章の壱

飯が食べたいー!  ほっかほかの温かいご飯が食べたいぃ!」

 

 エレクトラから次の街に馬車で移動中に、ヒカルが叫んだ

 

「次の街、タイゲタは農業が盛んな街だ。 もしかしたら、似たようなものがあるかもしれないな」

 

「ほんとっ!」

 

 ヒカルが思った以上に食いついた

 ていうか、こいつ異常なほどに食べ物に執着してるな

 何かあったのか?

 セレスがそんなことを思っている間に次の街 タイゲタについた

 近代的な建物はほとんどなく、緑が生い茂っている

 

「ほんと、ド がつくほどの田舎だねー」

 

 こら、正直に言わない!

 気にしてる人もいるかもしれないだろ

 

 しかし、暑い

 これも異変のせいなのか

 太陽がヒカル達を威嚇するように照らしている

 

「ここにも星片があるの?」

 

 ヒカルがセレスに聞く

 

「ここにもあるな。 行く所行く所に星片があるなんてツイてるな」

 

 セレスは、ヒカルに言うが当の本人は上の空だ

 

「あ!  これってコメじゃない?」

 

 ヒカルが田んぼの植物を指さす

 

「これは『スライ』だね。 ヒカルの世界のコメと味や食感は似ていると思うよ」

 

「ほんと!」

 

 ヒカルは大喜びする

 

 田んぼには一人の少年が作業をしていた

 ヒカルがその少年に話しかける

 

「このスライ、ちょっと貰ってもいいー?」

 

 どう考えてもダメだろ

 人のものだぞ とる方がどうかしてる

 

「ダメだよ!  これは僕らの大事な食糧なんだ!  誰にも譲れないんだ!」

 

 案の定、そう言われたヒカルは チェッ と舌打ちをした

 いや、当たり前だろ

 

 ヒカルがその田んぼを後にしようとすると、少年が急に倒れた

 それを見たヒカルとセレスは、急いで少年の元へ向かう

 

 どうやら軽い熱中症のようなものになったらしい

 そりゃ、こんなカンカン照りな時に作業してたら熱中症にもなるわけだ

 と、少年が目を覚ました

 

「あ、気がついた?」

 

「あ、ありがとう⋯⋯」

 

 少年は俯きながら言った

 少年はイクザク=アーキロンと名乗った

 

「どうしてこんな暑い中作業してたの?  両親は?」

 

 ヒカルが問うが、イクザクは何も言わない

 イクザクが立ち上がり、家に帰ろうとするのでヒカルもついて行く

 

 イクザクはついてくるヒカルに対して強い口調で言う

 

「なんでついてくるんだよ!」

 

 

「だって、質問に答えてくれないから」

 

 そう答えたヒカルにイクザクはため息をつく

 

「ついてこいよ」

 

 半ば諦めたようにイクザクは言った

 家に招待してくれるそうだ

 

 イクザクの家に入ると、は二人分の大きないびきが聞こえた

 思わずヒカルは耳を塞いだ

 

「こ、これはァ?」

 

「両親のいびきだよ。 気にする程でもない。 こっちだ」

 

 帰ってきたのは、素っ気ない返事だった

 ヒカル達はリビングに通された

 

「とりあえず座れよ。 話してやるから。 つまらないものだが、遠慮せず食べてくれ」

 

 イクザクはさらに乗せたクッキーらしきお菓子を差し出した

 

「気が利くじゃん」

 

 と、ヒカルはクッキーらしきものを口に流し込んだ

 

「ほんとに遠慮しない奴っているんだな」

 

 セレスは呆れたように言う

 

「で、何が聞きたいんだ?」

 

「──両親のことよ」

 

 ヒカルは口の中のお菓子を飲み込んでから言う

 イクザクは話しにくそうにしていたが、しばらくして口を開いた

 

「両親は共に体を痛めて仕事を続けられなくなったんだ。 それから三年近く、ずっとこのまんまだ。 両親に無理はさせたくない。 だから、俺がひとりで働いて金稼いでるんだ」

 

 イクザクは一気にそう言い放った

 家族のことで辛い目にあっていたのだろう

 

「とは言っても、三年もあれば少しは動けるようになったり新しい仕事を探したりできるんじゃないの?  それをしないのは両親が悪いと、私は思うんだけど」

 

 この子、よくも人前でそんなことがズバズバと言えるもんだ とセレスは逆の意味で感心した

 イクザクは、シュンとして下を向く

 

「で、イクザクはどうしたい訳?」

 

「⋯⋯自由になりたい」

 

 イクザクは消え入りそうな声で言った

 

「そのために自分はどうしたらいいと思うの?」

 

「⋯⋯分からない。 今まで仕事のことしか考えてなかったから、どうしたらいいのか分からないんだ」

 

 そう言ったイクザクは、酷く落ち込んだ

 

「それなら私から一つ、提案があるんだけど。私と一緒に来ない?  一人、いや二人だと心細いからね」

 

「おい、今一人って言ったな。 僕のこと忘れてたな」

 

 セレスがそうツッコむと

 

「言ってない」

 

 とニコッと笑いながら、ヒカルが答えたので黙ることにした

 

 ヒカルの提案に、イクザクは簡単に答えを出せなかった

 

「でも、両親を放っておけないしこのままだと両親は──」

 

「あーもう!  両親両親ってうるさいわね!  いい?  今あんたを苦しめているのは誰よ?  その両親じゃないの!  三年もたった今仕事も探さずに家で寝てばっかり。 そんな奴らなんてとっとと捨てちゃいなさい!」

 

 モジモジしながら答えるイクザクに、ヒカルは一喝する

 

「そ、そんな言い方しなくてもいいだろ!」

 

「するわよ!  そんな両親なんて『クズ』よ!  捨てられて当然だわ!」

 

 セレスが あちゃー、言っちゃったかー と言った風に頭を抱える

 

「ああ、そうかい。 いくら助けてくれたからといっても、両親をクズ呼ばわりする奴とは関わりたくない。 帰ってくれ」

 

「ふんっ!  こんなわからず屋とはこっちから願い下げだわ!」

 

 ヒカルは大きな音を立てて、イクザクの家を出ていった

 

「あーあ、これだから思春期の女の子は⋯⋯」

 

 セレスは誰にも聞こえない大きさのため息をついた

 

 

 

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