二部 第四章の弐

「星片はどうやらあの子が持っているみたいだよ。 これからどうするつもり?」

 

 セレスはイクザクに対しての怒り心頭中のヒカルに聞く

 

「どうするもこうするも、あのわからず屋は後回しよ!  他の街で星片を探しましょ!」

 

 そういうヒカルに、セレスは再度聞く

 

「本当にそれでいいのかい?」

 

 ヒカルは難しそうな顔をして

 

「はぁ 分かった、分かったわよ!  困っている人がいれば助ける!  それが私のポリシーだもの!」

 

 セレスはその言葉を聞いて、笑顔になった

 そして二人はもと来た道を帰りながら、作戦会議を始めだした

 

 

(イクザク視点)

 

 なんだよあの女

 両親をクズ呼ばわりしたこと許さねぇからな!

 だけど、なんであの女は俺に対してあんなに怒ったんだろうか

 いや、そんなことはどうでもいい

 両親には今まで迷惑ばかりかけてきた

 その恩返しと思えば安いものだ

 そういえば、油が切れかけていた

 採ってこないと

 

 イクザクはバケツを持ち唯一油が流れる川へ油を採りに行く

 重い油を抱えて家へ帰っている途中、魔物に遭遇してしまった

 それも、ドラゴンの中でいちばん強いと言われている黒龍だ

 イクザクは黒龍を実際に見るのは初めてで、恐怖で震えその場に尻もちをついた

 怖くて声も出なかった

 黒龍が一歩一歩と、イクザクに歩みよってくる

 黒龍が大きく吠え、口を開ける

 もう終わりだと思ったその時だった

 

「ヒカルキーック!!」

 

 ヒカルがやってきて、黒龍の体をまるで布のように簡単に突き抜けた

 突然の事で力を失った黒龍はその場にドーンと大きな音を立てて倒れた

 

「痛いっ」

 

 黒龍の下からそう聞こえた気がした

 

「あ、えーと 大丈夫?」

 

 ヒカルは分が悪そうに言う

 

「う、うん。 ありがとう」

 

「それと、さっきはごめん。 ちょっと言い過ぎた」

 

「いいよ、こっちこそごめんなさい」

 

 二人はお互い謝った

 

 

(ヒカル視点)

 

 ヒカルの作戦はこうだ

 イクザクが家から離れる時を見計らって行動を起こす

 まずは、イクザクに気づかれないよう尾行する

 イクザクの用事が終わった帰りに、セレスが黒龍に変身してイクザクを驚かせる

 イクザクが食べられる!  もうダメだ!  と、思った時にヒカルがかっこよく飛び出して、黒龍を倒すという作戦だった

 でも、そこに本物の黒龍が現れたのは予想外だった

 

 

「俺、やっと分かったよ。 両親両親って言いながら自分はひたすら逃げ続けていただけなんだって。 だから俺は今日で親離れをする!」

 

 いや、親離れとはまたちょっと違うんじゃないかな?

 まあ、そう決心したのはいいことだけど

 

「改めて、よろしくお願いします。 ヒカルさん」

 

「こちらこそ」

 

 ヒカルとイクザクはガッチリと手を握りあう

 

「ちょっとー 助けてくれませんかー」

 

 黒龍が急に倒れたことで、下敷きになったセレスが言った

 しかし、それはヒカルの耳にもイクザクの耳にも届かなかった

 

 ともあれイクザクは、ヒカル達と行動を共にすることになった

 とは言っても、戦力としては全く期待できないのだが決心するのにも相当な苦労があったのだろう

 

「ところで、そのイクザクのポケットで光ってるものは何?」

 

 イクザクのズボンの、右ポケットが光っていた

 イクザクは、自分のズボンを触って

 

「これは、母さんがくれたお守りなんだ。 これを持っていると何だか母さんに守ってもらえるような、そんな気がするんだ。 今となっては、ただの気休めにしかなってないけどね。 だけど、今の僕にはもう必要ないものだ」

 

 イクザクはそう言って、そのお守りをヒカルに渡す

 ヒカルがそのお守りに触れると、やはり記憶が見えた

 

 

「イクザク、あなたにこれを渡しておくわ。 これは大事なものなのよ」

 

「大事なもの?」

 

「そ、何があっても手放しちゃダメ。 ずーっと持ってなくちゃいけないの」

 

「なんで?  なんでずーっと持ってなくちゃいけないの?」

 

「これはね、イクザクが元気に育ちますようにって願いを込めたものなの。 だから、一生大切にしてちょうだいね」

 

 

 ヒカルはハッとする

 今見えたのはおそらく、イクザクの母親だろう

 余程、イクザクのことを大切に思っていたのだろう

 それがどうしてこうなったのだろうか

 今の記憶からは分からなかった

 

「ヒカルさん?  どうしたの?」

 

 イクザクが、不安そうな顔をしてヒカルをのぞきこんだ

 

「ううん、なんでもないの」

 

 イクザクから貰ったお守りは赤い宝石に変わった

 これで残りの星片はあと二つ

 

「ところで、イクザクって呼びづらいから『イッくん』って呼んでもいい?」

 

「⋯⋯勝手にしてください」

 

 恥ずかしがるイクザクの表情を見て、少し笑顔になるヒカルだった

 

「おーい。 僕のこと忘れてませんかぁー?」

 

 セレスは黒龍の下で、誰にも気づいてもらえず叫んでいた

 

「感動シーンを台無しにしないでよ!」

 

 後にヒカルに引っ張りだされたセレスは、二回りくらい痩せた体で出てきた

 

「どうして僕だけこんな目に⋯⋯」

 

 そう言うセレスを見てヒカルとイクザクは笑いあった

 

 第四章 [完]

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