二部 第五章の弐

「いやー、あの時は俺死んだかと思ったんだけど悪運が強かったのか何なのかは知らねぇが生きてたんだ」

 

「そうか、それよりまた君に会えて良かった」

 

「俺もだ。 だが、もう少し先に会いたいところだったな」

 

 ヒカルとイクザクは二人の会話を静かに聞いている

 どうやら悪い人では無さそうだ

 

「紹介しよう。 この子があの子の妹、サクラ ヒカル。 そして、この子がイクザク=アーキロンだ。 旅の途中で一緒になった」

 

 セレスが説明してくれたが、タースはイクザクの方には興味を示さずヒカルのことについては興味津々だった

 

「そいつがショウの妹か!  戦わなくともわかる。 貴様は強いな。 あの妹とは到底思えないほどに」

 

 ヒカルがセレスに聞く

 

「え?  私って強いの?」

 

「分かってなかったのかい?  少なくとも、ドラゴン族最強の黒龍を一撃で倒す人を弱いとは言わないね」

 

 イクザクも、目の前で見ていたからハハハと苦笑した

 

「でだ、そろそろ始まるらしいぜ。 あれ・・が」

 

「もうそんな時間なのか!?」

 

 タースがセレスに言った

 何の話だがヒカルには分からない

 

「まだ全部集まってないんだろ?  何処にあるかは分かってる」

 

「だけど、こんな地下牢に閉じ込められちゃあ──」

 

 そう言い訳するセレスの頭をタースはゴツンと叩いた

 

「お前バカか?  今お前の隣にいるのは誰だ?  あの黒龍を一撃で倒した怪力女だろ?  そいつに牢でもなんでもぶち破ってもらえよ!」

 

 タースはセレスに怒鳴った

 それよりも、ヒカルは怪力女と言われたのにイラッときた

 

「そうか、それは盲点だった」

 

 そう言うセレスに、タースは呆れて物も言えないような顔をしている

 ヒカルが牢に手をかけ、グッと引っ張ると粘土のように牢はぐにゃぐにゃになった

 こんな簡単に脱出できていいのか?

 

「さあ、行くぞ。 飛ばすからちゃんとついてこいよ」

 

 タースの後に続いてヒカル達は地下牢から脱出した

 

「ここだ。 ここに本物の星片がある」

 

 地下から出たヒカル達は、タースの案内の元一つの部屋を指さした

 そこは何の変哲もない普通の部屋だ

 

「俺はこの中には入れない。 だからここでお別れだ」

 

 タースがそう言った

 セレスは今にも泣きそうな顔をしていた

 

「おいおい、そんな悲しい顔するなよ。 こっちまで悲しくなってきちまうだろ?」

 

 そう言うタースの目には涙が溜まっていた

 二人は仲のいい親友同士だったのかもしれない

 

「ここで、一旦お別れだがお互い生きてたらまたきっと会えるさ」

 

 セレスはタースとヒカルを交互に見ながら、ヒカル達の方についた

 

「元気でな。 セレス」

 

 タースは最後にそう言った

 そうしてヒカル達は部屋の中に入る

 

「行ったぞ」

 

 タースは物陰に隠れていたカリーナに向けて言う

 

「本当に良かったの?  別にあなたまで行く理由はないと思うんだけど」

 

 カリーナが心配そうに聞く

 

「俺に出来るのはここまでだ。 後はお前らが何とかするなり、あいつらが何とかするなりするだろう」

 

 タースの決心は固く崩れなかった

 

「セレスとは友人同士だったんでしょ?  それなのになぜ──」

 

「だからだよ。 友人同士だから言えないことだってあるんだ。 お前もショウやヒカルに言ってないんだろ?  それと同じことだ」

 

 そう言われて、カリーナは深く考え込んでいたが顔を上げる

 

「分かったわ。 後はこっちに任せてちょうだい」

 

「すまないな。 頼む」

 

 カリーナがタースに触れると、タースは光の粒となり消えた

 

「みんながどんどん離れていく。 私も頑張らないと」

 

 カリーナは、ヒカル達が入った部屋の扉をチラっと見てその場から去った

 

「ここはおそらく安全だろう。 さっさと星片を取ってここを出よう」 

 部屋の真ん中には、一つの王冠が置いてあった

 ヒカルは、これが紛れもなく本物の星片だと感じた

 手に取ると、やはりその物の過去が見えた

 

 

「これはなんと美しい!」

 

「たくさん作ってたくさん売れば、大儲けできるぞ!」

 

「こらっ!  そこー!  ちゃんと働け!」

 

「で、どうでしょうか?  これをこの値段で⋯⋯」

 

「貴様っ!  我の命令に背くというのか!」

 

 

「はっ!」

 

 ヒカルは過去を見て戻ってきた

 この王冠は、元々一つしかなかった

 しかし、あまりの美しさに欲しい者が大勢いた

 その者達はその王冠を模した、いわゆる複製品を作って、それを売りさばいていたらしい

 あまりの複製の上手さに本物と間違える者も出てきた

 そのため大量の星片ができたのだという

 

 ガラガラガラ⋯⋯

 

 天井から嫌な音が聞こえる

 

「いけないっ!  崩れるぞ!  早く脱出するんだ!」

 

 ヒカル達は急いでビルから脱出する

 ヒカル達が出た瞬間、ビルは大きな音を立てて崩れ落ちた

 

「即席で創ったからか。 仕方ない」

 

 セレスは呟いた

 

「ねえ、さっきタース?  と話してたことってなんなの?」

 

 ヒカルがセレスに歩みよって聞く

 だが、セレスは固く口を結んで答えない

 答えられないのだ

 

「そう⋯⋯ 答えないと言うなら、力ずくでも!」

 

 ヒカルが拳を振り上げると、セレスは

 

「ごめん」

 

 と一言だけ言って消えた

 

 ヒカルは残念そうな顔をして、セレスがいたところをじっと見つめていた

 イクザクは、ヒカルの方をじっと見つめていた

 

「一体何が始まるっていうの?」

 

 第五章 [完]

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