第四章の壱 ~初戦~

ょっといいかしら」

 

 あの廃墟の騒動からしばらく経ったある日、ルピーさんがショウ達に話しかけてきた

 廃墟での件でルピーさんと親しくなったショウ達はあの日のお礼と一軒の家を無償で紹介してくれた

 断る理由もなく、ショウとナターシャはすぐに承諾した

 もちろん、廃墟の件は内緒にしておくという条件つきだが全く問題ない

 

 ルピーさんが紹介してくれた家は、普通の一軒家だった

 というか、一つのクエストをこなしただけでナターシャの借金の完済や家まで手に入れてしまった

 とんだわらしべ長者だ

 ナターシャは

 

「借金はもうこりごりですぅ」

 

 と言っていた

 もうナターシャが借金に悩まされることもないだろう

 そんなナターシャは新しい家に興奮している

 ふわふわのベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねている

 こう見るとまだまだ子供なんだと思わされる

 ま、色々あったけど今日もクエスト頑張りますか!

 

 ショウとナターシャがギルドに着くと、ギルド内が思った以上には賑わっていた

 その理由は火を見るより明らかで、ギルドの一角にあまり見ない人物がいたからだ

 顔は黒いベールで隠れていてよく見えないが水晶玉を持っているから、占い師といったところだろう

 今は一人の冒険者を占っている

 その後ろにはまだまだズラリと長い列ができていた

 

 ショウ達に気づいた占い師は冒険者の占いをそっちのけにしてこちらへ来る

 おいおい、それでいいのか?

 冒険者の人、すごく残念そうな顔してるけど

 

「あなた達のこと、占いたいわぁ」

 

 占い師は甘い声で言った

 いや、別に俺たちは占ってほしいとは一度も言ってない

 それよりも、占い師の後ろで俺たちを恨めしそうに見ている冒険者の方が気に気になるんだが⋯⋯

 占い師はそんなことには動じず、サクサク占いを進める

 

「ナターシャ=フォリバー。 あなたは大切な人との別れが近づいてきているわぁ。 それはどうやっても避けることは出来ない必然的なものぉ。 あと、そうね。 自分に素直になりなさいぃ」

 

 ナターシャにはそう言った

 ナターシャにとっての大切な人って誰のことだろう

 

「次にサクラ ショウ。 あなたは他の人にはない特別な力を持っているわぁ。 その力は悪いことに使ってはいけない。 世のため人のために使うことをおすすめするわぁ。 それと、そうねぇ。 あなたの家族⋯⋯いえ、やっぱりなんでもないわぁ」

 

 占い師はショウに何か言いかけてやめた

 なんだよ、はっきり言って欲しいのに

 

「私の名前はガーベラァ。 あなた達とは長い付き合いになりそうねぇ。ふふふ」

 

 とショウの耳元で囁き、さっきの冒険者の占いへと戻っていった

 ん?  何か変な感じがしたが、気のせいか

 占いを聞いたナターシャは頬を膨らませて

 

「私、占いとか非現実的なことは信じないタイプですから。

 どんなに辛いことがあっても必ず乗り越えてみせますから」

 

 女の子にしては珍しく占いがあまり好きではないようだ

 現実主義なのも悪くは無いが

 ショウもなんやかんや言われたがあまり気にしないことにした

 ショウ達は占い師達の行列の横を通り過ぎクエストの掲示板を見に行くことにした

 その行列の中にギルドマスターことギルちゃんが、ウキウキした表情で並んでいたのは見なかったことにした

 

 クエストの掲示板を確認するが特に大きな変化はなかった

 ナターシャの借金も払ったところだし、特段お金に困っている訳でもない

 ショウとナターシャは家でゆっくりすることにした

 

 家でコーヒー|(砂糖たっぷり)を飲んでいると、扉をノックする音がした

 ショウが扉を開けるとガーベラがいた

 

「突然ごめんなさいねぇ。 家は、受付の人に聞いたのぉ」

 

 ルピーさんか

 そこまでしてショウ達に何の用だろう

 

「さっきの占いで伝え忘れたことがあるのぉ。 えっとねぇ、プレアデスって人を訪ねなさいってぇ。 隣街でふるーい店を経営してるみたいぃ。 そこへ行けば何か変化があるかもぉって。 ふふふ」

 

 そう言ってガーベラは去っていった

 ショウはいきなり言われて訳が分からなかった

 ナターシャも口をポカンと開けている

 怪しいとは思いつつも、ショウがここに来たのは妹のヒカルを助けるため

 だが今、妹が何をしているのかすら分からない

 それならガーベラが言っていた通りプレアデスという人の元へ行けば何か変わるかもしれない

 そう考えたショウはプレアデスという人を訪ねる決心をした

 一方ナターシャは、誰が見ても嫌そうな顔をしている

 あの占いの件からガーベラのことを少し嫌っているのかもしれない

 

「私は行きたくないです。 何かあの人の話には裏があるようで怖いんです⋯⋯」

 

 ナターシャの気持ちも分からないでは無い

 が、ああ言われて行かない方が気持ち悪いと俺は思うんだが

 

「分かった、そこまで言うんだったら俺が一人で行くよ。 だからナターシャは家で留守番しててよ。 大丈夫、終わったらすぐに戻って来るから」

 

 ナターシャにそう言って出かけようとするとナターシャに腕を掴まれた

 ナターシャの顔は難しそうな顔をしていてなにか深く考え込んでいるようにも見えた

 

「私も行きます」

 

 急にナターシャが言った

 

「そ、そうか。 まぁ、無理だけはするなよ?」

 

 ショウ達は馬車を借り、プレアデスという人の行くことにした

 

 プレアデスの元へ行く道中、一人の男と出会った

 ショウよりかは少し上で修道服を着ており、頭には『4』と刻まれた帽子を被っている

 手には、お菓子らしきものを持っているせいで横長な体型がよく目立っている

 

「あのー、そこどいてくれませんか?  その先に行きたいんですけど」

 

 ショウが丁寧に聞く

 

「あぁ?  僕を誰だかわかって言ってるんでしゅかぁ?」

 

 いや、初対面で全く知らないんですけど

 

「僕はデネブ!  アスタリスク四天王の一人だじょ!」

 

 デネブと名乗った男は、口の中のお菓子を吹き出しながら言った 汚ぇなぁ

 

「えっと、そのアルゴリズム・・・・・・四天王が俺に何の用ですか?」

 

アスタリスク・・・・・・だ!  いいか、僕の言うことを聞かないと痛い目に合わせるじょ!」

 

 うわぁ⋯⋯

 いかにも雑魚キャラが言いそうなセリフ

 ま、ここは静かに従っておくか

 

「場合によっては拒否も考えられますが、聞くだけ聞きますよ」

 

 ショウはそう言った

 ナターシャはブルブル震えて声も出ないようだ

 大丈夫、俺が君を守るから

 

「話が早くて助かるじょ!  だけど拒否権はないと思ってもらった方がいいんだけど。 だって君たちにはどちらにせよ、痛い目にあってもらわないといけないからだじょ!」

 

 えー

 だったら最初から聞くなよって話だ

 

「殺さないようにと言われているから、ある程度は手加減するつもりだじょ。 死んだらごめんじょ」

 

 なんかいきなり戦うことになったんだが

 ていうか、こっちは賛同も拒否も何一つしてないんだが!?

 

「グッ!」

 

 急に体が重くなった

 

「お前、俺に何をした⋯⋯」

 

 ショウは押しつぶされそうな感覚を感じながら言う

 

「べっつにぃ~♪」

 

 デネブは大きな杖を器用に操りながら言う

 こいつ、とぼけてやがる

 

「ブハッブハッ!  もっと僕を楽しませておくれじょ!」

 

 デネブは耳障りな笑い方をしてショウを見下ろしながら言った

 

 

 デネブは唯一のお金持ちの息子だった

 欲しいものはなんでも買ってもらえたし、食事もデネブが好きなものばかり食べさせてくれた

 デネブはよく食べよく眠る子だったが、なかなか身長は伸びず体重ばかりが増えていく一方だった

 それを見て父と母はよく笑っていた

 その時は少し嫌な気分になったが、デネブは毎日が幸せだった

 あの日までは

 

 ある日、家に借金取りがやってきた

 そう、お金持ちだと思っていたのはデネブだけで家計は火の車だった

 父の会社が倒産し、借金を返すことが出来なくなりふくよかだったデネブの体はみるみるうちに痩せ細っていった

 やがてデネブにも限界が来たのか、突然意識が遠のき倒れた

 デネブはすぐさま病院へ連れていかれ、そのまま入院という運びになった

 

 デネブは絶望した

 自分はなんて思い上がってたんだろう

 父や母の表情をもっとよく見ていれば⋯⋯

 デネブは毎日自分を責め続けていた

 何ヶ月か入院生活を送っているうちに、ようやく退院できるようになった

 しかし、両親ともにデネブを迎えに来ることは無かった

 その代わりと、『アステル』と名乗る人物と一緒に暮らすことになった

 

 

「早く立てよぉ、ほらほらほらぁ!」

 

 体は軽くなるどころかどんどん重くなる

 戦うことすらままならない

 ショウは身体強化を使って無理やり体を起こす

 

「おお?」

 

 デネブが少し驚いた

 今がチャンスだ!

 

「ファイアー!!」

 

 デネブに向けてショウは魔法を放った

 だが、ショウの魔法はあらぬ方向へと飛んで行った

 

「ま、曲がった!?」

 

 そう、確かにデネブに向かってショウは魔法を放った

 デネブの前に来た途端に魔法は急に進路を変えたのだ

 まるで自ら意思を持っているように

 

「ブハッブハッ!  そんなチンケな魔法で僕に勝てると思ってたわけぇ?  ほんと、バカじょ!?」

 

 こいつ、こっちが反撃できないからって煽り散らしてやがる

 何か打開策は⋯⋯

 ふとナターシャの方をむくと杖を両手で抱きかかえて震えていた

 ん?  杖?

 そういえばデネブも杖を持っているなぁ

 おそらくあの杖で魔法を操っているのだろう

 そうと分かれば簡単だ

 こいつ、馬鹿そうだから引っかかるだろう

 

「おいおい、デネブさんよぉ。 さっきの魔法、そのまま俺に返していれば倒してたんじゃないのか?」

 

 ショウがデネブに言った

 デネブは少し考えて

 

「そういえばそうだじょ。 ブハッブハッ!  わざわざ死にたがるとはね!  お望み通りにしてやるじょ、大マヌケが!」

 

 さーてな 大マヌケはどっちの方か

 

「アイス・クラッシャー!」

 

 ショウはデネブに向かって再び魔法を放つ

 もちろんデネブはショウが誘導した通りにショウへと魔法を跳ね返す

 それをショウは身体変化で腕を硬くしてさらに打ち返した

 その先にあるのは、もちろんデネブの杖だ!

 

 バンッ

 

 大きな音を立ててデネブの杖は真ん中からキレイに折れていた

 

「ゲゲゲ!  これはヤバいじょ!」

 

 さぁ形勢逆転、反撃と行こうか!

 何も出来ずあわあわしているデネブに近づき創造魔法で創り出した剣を喉元に突き当てる

 

「チェックメイトだ」

 

 ショウは声高らかに宣言した

 デネブは両手を上にあげる

 

「僕の負けだじょ。 目的を達成できなかった僕は戻ってもおそらく殺されるじょ。 だから、ここでいっそ一思いに殺ってくれないか?  頼むじょ」

 

 そう言ったデネブの体は小刻みに震えていた

 本心で言っているのだろう

 

「分かった」

 

 ショウはそう言うが人を殺すなんてそうそう経験することでもない

 ショウは目を閉じながらグッと剣をデネブの喉元に押し込んだ

 

「うぐっ!」

 

 デネブが小さく呻く

 デネブの体から力が抜けた

 ショウは初めて人を殺したのを感じ猛烈な吐き気に襲われ、その場に胃の中の物をぶちまけた

 

「ハァハァハァ⋯⋯」

 

 まだ気持ち悪い

 

「ショウさん、大丈夫ですか?」

 

 ナターシャが渡してきた水をもらう

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

 ショウは心配かけまいと水を一気に飲み干す

 少し落ち着いた

 

「さぁ、先を急ごう」

 

 ショウは馬車に戻る

 ナターシャはまだ何か言いたげな表情をしていたが何も言わず馬車に乗り、当初の目的プレアデスの元へ向かうことにした

 

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