第五章の壱 ~幻夢~

こだー?  ヒカルー!」

 

 ショウはようやくヒカルのいる場所を突き止めた

 ここにいるのは確かなんだ

 片っ端から扉をどんどん開けていく

 最後の扉をショウはバンッと開く

 そこには、手首足首を紐で縛られたヒカルがいた

 

「ヒカル!」

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

 ショウは急いでヒカルの元へ駆け寄った

 

「ヒカルッ!  どこも怪我してないか!」

 

「うん、お兄ちゃん・・・・・こそ大丈夫だったの?」

 

「もちろんさ、ヒカルのためならどんな困難だって乗り越えてみせる!」

 

「ふふっ、頼もしいね」

 

 ヒカルの様子に少し違和感を感じたがヒカルが無事だったことの方が大きかった

 

「さあ、帰ろう」

 

「うん!」

 

 ショウはヒカルに繋がれている縄を剣で切り、ヒカルを地面に下ろす

 下ろした瞬間、ヒカルの胸から金属の尖った物体が飛び出していた

 

「ごはっ!」

 

 吐血したヒカルは、立てずに倒れた

 

「ヒカルぅ?」

 

 ショウは情けなくなるような声で言った

 

「フフフフ、ハハハハ!」

 

 ヒカルの後ろから大きな高笑いが聞こえた

 そいつの手元には血塗られた刀があった

 

「てめぇがヒカルを殺したのかぁ!!」

 

 ショウは過去最大の声で叫びそいつを一発、いや一発じゃ済まない

 何十発、何百発とぶん殴ってやろうと決めた

 ショウが拳を振り上げ、殴ろうとしたがもうそこには誰もいなかった

 

 ショウは血まみれで倒れているヒカルを抱き抱える

 ショウの服がみるみるうちにヒカルの血で赤く染まっていく 体から熱が失われていく

 

「嫌だ、死ぬなヒカル!  もう人が死ぬところは見たくないんだ!」

 

 ヒカルにそう呼びかけたがヒカルが目を開けることは無かった

 

「どうしてこうなるんだよ。 俺はヒカルを助け出すためにここまで来たのに⋯⋯ 俺がこれまで頑張って来たのは全部無駄だったっていうのか?」

 

 すでに冷たくなっている光を抱いたまま、ショウは一人大声で泣いた

 

 

「今日は誘ってくれてありがとうございました。 ショウさん」

 

 ナターシャはショウと二人であるクエストを終えてギルドへ戻っている途中だった

 

「いやいや、それにしても今日はナターシャの魔法が冴え渡っていたなぁ。 あの群れを一撃でか⋯⋯ そろそろその杖も、使いこなせるようになったんじゃないか?」

 

 プレアデスさんから貰った杖でナターシャの魔力が暴走することはほぼ無くなり、普通にクエストをこなせるようになった

 

「そうですね!  これなら私もやっていけそうです!」

 

「そうか、それは良かった」

 

 ナターシャとショウは笑いあう

 ナターシャはこの時が一番幸せだった

 この時がずっと続けばいいのに

 そう思っていた

 

「あ、そうそう。 お前・・・より有能な魔法使い見つけたから、お前クビな」

 

「⋯⋯へ?」

 

 ナターシャは心臓が止まるかと思った

 

「ショウさん、今なんと?」

 

「ギルドでお前よりも役に立つ魔法使いと出会ったからお前はもういらないんだよ」

 

 ナターシャは頭が真っ白になった

 どうして?  私、ショウさんのために一生懸命頑張ってたのに

 そんなこと言う人じゃなかったのに

 

「どうか、考え直してくれませんか?」

 

 ナターシャはショウに触れようとする

 その手をショウは払い除ける

 

「俺に触れるな!  お前に用はない。 どこへでも行ってしまえ!」

 

 ナターシャにそう言い放ち、ショウは一人で帰っていった

 何で?  何で?  何で何で何で?

 ナターシャは訳が分からなくなりその場に座り込むことしか出来なかった

 

 

 一人で泣いているショウを突然激しい耳鳴りが襲った

 

「うっ!」

 

 その耳鳴りは頭痛へと変わる

 

「──ウ」 何かが聞こえる

「ショ──」 何を言っているか分からない

 

「ショウ!」

 

 どこかでショウを呼ぶ声がした

 いつの間にか、ショウの目の前にはショウと同年代くらいの男の子が立っていた

 上半身は裸で下半身には純白の布一枚しか身につけていない なんてハレンチな

 

「いきなりでビックリさせちゃったかな、ごめんね。 僕はセレス。 君に言うべきことがあってここへ来たんだ」

 

 言うべきこと?

 ヒカルがいなくなった俺に何を言うというのだろうか

 

「君の妹、サクラ ヒカルは生きている。 死んじゃあいない」

 

 何を言ってるんだ?

 だって今もショウの腕の中にはヒカルがいるのだから

 ショウがそう思ったのを知ったか否か、セレスは息を吐き言う

 

「単刀直入に言わしてもらう。 ここは現実の世界じゃないんだ。 ここは魔法によって作り出された幻の世界だ。 現実の君達は魔法によって眠らされている」

 

 魔法?  幻?  全く分からない

 

「無理もないよね。 こんなのを目の前で見せられちゃ」

 

 セレスが小さく呟いた

 そして、ショウの額をツンとつついた

 

「何だ、これは⋯⋯」

 

 ショウの頭の中に次から次へと忘れていた記憶が流れ込んでくる

 異世界の事、ナターシャの事、そしてヒカルの事も

 腕の中にいたヒカルは、どこぞの骸骨でショウは思わず投げた

 骸骨が乾いた音を立てて崩れる

 

「これは本当なのか?」

 

「本当だとも」

 

「俺は妹を、ヒカルを助けられるのか?」

 

「あぁ、君にしかできないことだ」

 

 ショウはセレスの言葉に安心してその場で仰向けになる

 良かった まだチャンスはあるんだ

 

「そうだ、ナターシャは?  眠らされているならこの中にいるんだろ?」

 

 あの子は無理をし過ぎる

 一人になるとどんな無理をすることやら

 

「君がその子のことを思い出すのは必然だったけどね。 もちろんその子も君と同様に、ここで見た幻の出来事に苦しんでいるはずだ。 あの子は人より繊細だから、助けるのは容易ではないだろうけどね」

 

 セレスがナターシャのことを知ったふうに言う

 ナターシャの知り合いなのだろうか

 

「簡単じゃないと言われてもナターシャは苦しんでいるんだ。 そんな子を俺は放っておけない!  俺はナターシャも、そしてヒカルも助けたい!」

 

 ショウは決意に満ちた顔でセレスにそう告げた

 

「やっぱり似ている。 面白い。 分かった、ナターシャの元へ案内しよう。 ただ嫌な予感がする。 気をつけていくんだよ」

 

 セレスはショウにナターシャの居場所を伝える

 

「くれぐれも油断しないように。 君にならいや、君にしかあの子を助けることはできないんだから」

 

 そう言ったセレスの顔はどこか悲しそうで、それでいて笑顔だった

 ショウはセレスと別れ、ナターシャの元へ向かった

 

「これでよかったんだろ?  ペルセポネ」

 

「ええ、これはあの子にとっても私たちにとっても重大な事なんだから、キチンとしてもらわないと困るわ。 なんてったってあの子の母親は──」

 

「ペルセポネ、行こう。 時間が無い」

 

「えーー!  まだ私が話してる途中なんだけど!?」

 

「僕らの存在はまだあの子にしか知られていない。 行動を起こすにはチャンスじゃないか?」

 

「そ、それはそうだけどもぉ⋯⋯」

 

「ほら、拗ねてないで行くよ。 まだ僕らにはやるべきことが山のようにあるんだから。 ペルセポネもサボらないように」

 

「あー、ちょっと用事あるの思い出したかもぉ?  先に帰るねぇ──ってどうして私を捕まえてるの?」

 

「そうやって逃げるの今日で何回目かなぁ?」

 

「⋯⋯分かりました。 やります、やらせていただきます」

 

 ペルセポネとセレスはショウを見送ったあと、空へ駆けていった

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