第四章の参 ~急転直下~

 ショウ達が馬車に乗りながら話をしていると一人の女の人が前に現れた

 格好がデネブと同じところからして『アスタリスク四天王』とかいう奴らの一人だろう

 手には竪琴を持っていた

 ん?  竪琴?  なにか引っかかるような⋯⋯

 

「俺達に用があるんだろ?」

 

「あーん、知ってるんだったらぁ、話は早いわぁ~」

 

 こいつ、金色の髪をクルンクルンと巻きやがって、ぶりっ子か

 てか、この喋り方⋯⋯

 

「とはいってもぉ、私あんまり戦うのって好きじゃないのぉ」

 

 いちいち語尾を伸ばすな!  ウザイ

 

「じゃあ、どうするんだ?」

 

 ショウは息を飲み、相手の次の言葉を待つ

 

「私とかくれんぼしましょぉー。 あなた達がオニで私が隠れる方ねぇ。 あ、自己紹介がまだだったぁ 私はベガ。アスタリスク四天王の一人なのぉ!」

 

 やっぱりそうか

 

「お前たちの狙いは何なんだ!」

 

「そんなのぉ、知ってても言えるわけないじゃーん!  キャハハハ!」

 

 ベガが頭に響く甲高い声で笑う

 

「じゃあ、始めるねぇ」

 

 こいつも唐突に始めるのか

 空気読めよ

 ショウは冷静になり相手の出方をうかがう

  ナターシャも攻撃に備えて準備している

 スゥーッとベガがショウ達の目の前から消えた

 

「今からァ 私がァ」

「一つの場所にぃ 隠れるからァ」

「それをォ 見つけたらァ」

「君たちのォ 勝ちィ」

 

 ベガの声が四方八方から聞こえてくる

 これがこいつの能力か?

 

「ちなみにィ」

「間違えるとォ」

「罰ゲームがあるからァ」

「頑張ってねェ」

 

 とは言われたもののどこにいるかなんて全く見当もつかない

 そしてあいにくここは森の中

 隠れる場所はいくらでもある

 どうすればいいんだ!?

 

 

 ベガはいたって普通の家の三姉妹の末っ子だった

 服は当然のごとく、姉たちのお下がりばかり

 だが、ベガは特に不満があった訳でもなかった

 ベガは明るく元気いっぱいで、晴れた日はいつも外で遊んでいた

 三姉妹の一番上はもう成人しており家を出ていった

 二番目はベガのことが好きで好きでたまらない、いわゆるシスコンだった

 ベガは二番目の姉の着せ替え人形のように扱われていた

 姉のシスコンには少し引いたが、ベガは笑いながら姉の相手をしていた

 末っ子という位置だったが悪い気はしなかった

 あの日までは

 

 ある日、父と母が二人で出かけて行った

 家にはシスコンの姉とベガの二人しか居ない

 二人きりになって抑えていた感情が爆発したのだろう

 ベガは確かに嫌な予感はしていた

 シスコンの姉がベガを襲ったのだ

 あれよあれよという間に、ベガは姉に裸体をさらすことになった

 それを見てさらに興奮したのか、姉は姉妹という一線を越えようとしてきた

 その時、ベガは初めて嫌悪感を感じた

 

 ベガは力いっぱい姉を突き飛ばした

 ガンッ と鈍い音がして姉は動かなくなった

 ベガは動かなくなった姉を心配して体を揺すった

 姉の頭から赤い液体がドクドクと流れていた

 姉は打ちどころが悪く息絶えていた

 初めてのことにベガは慌てて服を着て、外へ飛び出した

 

 殺すつもりなんてなかった

 もっとちゃんと姉と話しておくべきだった

 そうしたらお姉ちゃんは⋯⋯

 色んな気持ちが渦巻くベガは、偶然外で出会った『アステル』と名乗る人物に拾われ一緒に暮らすことになった

 

 

「さあ、早くゥ」

「私をォ」

「探してよォ」

「キャハハハ!」

 

 相変わらず色んな場所からベガの声が響く

 一つだけ違う感じがして、ショウはそこに向かって魔法を放つ。

 

「はっずれェー」

「はい、罰ゲームゥ」

 

 キーンと高い音が鳴ったかと思うと腹部に強烈な一撃が入った

 

「ぐはっ!!」

 

 ナターシャの方は大丈夫かと心配になったがケガ等はしておらずむしろこっちが心配されていた

 いくら魔法使いだからといって女の子を闘わせる訳にはいかない!

 ショウは集中して再び本体を探る

 

「そこかっ!」

 

 もう一度放った

 

「ざーんねェーん!」

「またまた罰ゲームゥ♪」

 

 キーンと高い音が鳴り今度は背中に衝撃が走った

 

「かはっ!」

 

 このままじゃ埒が明かない

 何か打開策は無いのか?

 

「うふふ⋯⋯」

「退屈ねェ」

「ちょっとお話しましょうかァ」

 

 こっちが聞いてもいないのにベガは話し始める

 

「まずはこれ見た事あるかしらァ?」

 

 ショウの前に一つの竪琴が置かれた

 初めてベガに会った時に持っていたものだ

 

「鳴らしてみなさいよォ」

 

 ショウは恐る恐る竪琴に触れる

 

 ポロロン⋯⋯!

 

「うふふ⋯⋯ どう、なにか思い出したかしらァ?」

 

 廃墟で聞こえたあの音、お前だったのか!

 だが、一体どこにいたんだ? 

 

「次にィ、ガーベラって知ってるゥ?」

 

 答えないってことか

 まあいいさ

 その人のことは知ってるも何も、プレアデスさんの元へ行けと言ったのはその人なのだから忘れるはずがない

 

「こうしたらわかるかしらァ」

 

 色んな場所にベガが出現した

 いや、ベガでは無い

 あの時の占い師、ガーベラだ

 まさか、これも!?

 

「そうよォ、私がガーベラなのォ」

 

 という事はここへ呼び寄せたのも罠だったというのか!

 あの時のナターシャのことを言うことを素直に聞いておけばよかった

 

「私の話はァ、これでおしまいだけどォ」

「なにか打開策は見つかったァ?」

「まあ、君ごときに倒されるほどォ私も弱くないんだけどねェ」

 

 ボンッ

 

「ま〜たハズレェ」

「もう諦めたらァ?」

 

 キーン

 

「ごへぇ!」

 

 これ以上はショウの体が持たない

 これはまじでヤバい

 本気で考えないと!

 

 ポロロン、ポロロン⋯⋯

 

 ベガが鳴らしたのか、竪琴の音がした

 

 音⋯⋯ そうか!

 攻撃が来る時には必ず高い音が鳴る!

 そこさえ分かればこっちのもんだ!

 ショウはランダムに魔法を放つ

 

「ハッズレだよォー」

 

 キーン

 ここだ!

 ショウが右に避けた

 衝撃は来なかった

 

「ええー!!」 

「なんで避けられるのォ!?」

 

 ベガも焦っているようだ

 その後も何度も衝撃を放ってきたらしいが、攻略法を見つけたショウには無意味だった

 

「なんで当たらないのよォ!」

 

 イラついたベガ|(本体)が顔を出した

 ベガはしまったという顔をしたが時すでに遅し

 創造魔法で創り出した縄でベガを捕える

 

「不覚だわァ、正体バラして捕まるとかまぢありえないィ!」

 

 ベガはプンスカ怒っている

 

「さぁ、煮るなり焼くなり好きにしなさいよ」

 

 そういうベガを見て、ショウはデネブのことを思い出した

 もう人を殺すのはごめんだ

 二度と一人たりとも死なせたりしない

 そう決めたんだ、俺は

 

「お前は殺さないよ。 だが、一つだけ条件がある。 もう俺たちに関わるな」

 

 ショウは強くベガに言った

 

「そ、優しいのね。 でもその優しさがいずれ自分を傷つけることになるわよ」

 

 そう言ったベガは口からゴボッと血塊を吐き出した

 捕まった時から死ぬつもりだったのだろう

 

「ごめんね、アルタイ⋯⋯ル⋯⋯」

 

 最期に言い残してベガは死んだ

 みんなどうして死に急ぐんだ

 辛いことや苦しいことがあったかもしれない

 でも、それ以上に楽しい思い出や嬉しい出来事もあったはずだ!

 

「クソったれぇぇぇ!!」

 

 ショウは力尽きたベガを抱えながら空に向かって吠えた

 カリーナがショウには力があると言っていた

 その力はこういう人にこそあげるべき力じゃないのか?

 

「ショウ、さん?」

 

 ナターシャがショウを覗きこむようにして言った

 

「ごめん、大丈夫だ。 行こう」

 

 ショウはベガは地面に置き、立ち上がる

 

 クラッ 何だ、急に目眩が

 バタン 何かが倒れる音がした

 かろうじてまだある意識の中ふらつく足を動かしナターシャの元へ駆け寄る

 どうやら仰向けで眠っているだけのようだ

 ショウはホッとした

 

「やれやれ、やはり星の加護・・・・という物は厄介ですね。 これしきの魔法ではふらつかせるくらいの力しか効かないようですね。 なんという精神力!  なんという忍耐力!  ますます気になりますねぇ!」

 

 ショウの背後から男の声が聞こえた

 

「誰だっ!」

 

 そう言い振り向いた途端、そいつの顔を見ることは叶わず後頭部に強い衝撃を受けた

 

「──っ!!」

 

 ショウは予想外の出来事に声も出せず、その場に崩れ落ちた

 

「全く、星の加護ってやつは本当に厄介だニャン」

 

 と、獣人の子が言う

 

「まあ、何はともあれこれで研究が捗るってもんですよ!」

 

 と、丸メガネ長身の男が言う

 

「研究もいいがまずはあの方への報告が先だろ」

 

 と、スーツ姿の男が言う

 

「もしもし、俺です。 タースです。 ご命令通り幻夢げんむによって眠らせております。 準備が出来次第そちらへ向かう予定です っておい!  あんまり触るんじゃねぇ!  あ、いえこちらの話です。 では後ほど」

 

 タースは深くため息をついて作業を開始した

 

   第四章 [完] 

 

 

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