閑話 母さんは貢ぎたいそうです

 

「ふっふふ〜♪」


 ここ最近、ソリアの様子がおかしい。

 家に帰ってくるのも少し遅いが、帰ってきてからもなんだか嬉しそうなのだ。今も嬉しそうに微笑みながら、鼻歌を奏でていた。


「ねぇ、やっぱおかしくない?」


「ひゃっい!!...」


「何、あっははっ何その反応、」


 私の驚き方に腹を抱えて笑うエンディーを、私は不満そうに見つめた。


「急に耳元に話しかけないでよっ!!」


 私は今も耳に残るゾワゾワを抑えるため、耳に手を当てた。

 まったく、と呟いて私またキッチンに立つソリアの方を見た。

 やはりエンディー同様、私もおかしいとは思う。


「ねぇシャル、私いいこと思いついちゃった...」


「えぇ....」


 エンディーの不気味な笑みに嫌な予感がした。


  _._._._._._._


「じゃっ三人とも、仲良くお留守番よろしくねっ」


「「「はーい」」」


 私とエンディーとカリーはそう言ってソリアを見送った。


「そういや、エナねぇちゃん、最近仕事行ってねぇけどいいの?」


 カリーの不意な質問にそういえばそうだと今気がついた。


「えっ辞めたけど?」


「「....えっ!?」」


「何その反応、そりゃ辞めるでしょ。私昔から研究員になるのが夢だったんだよ??学校に多分、いや絶対受かってるし、もうこれは仕事しなくてもいいかなぁ〜みたいな...」


「「みたいな...」」


 エンディーの何も悔いのない表情に、私もカリーもそれ以上突っ込むことはなかった。


「そんなことよりもっ!!ほらっ行くよ、シャル!!」


「えっ本当にやるつもりだったの!?」


 自分たちの朝食分の皿洗いを終えると、エンディーはエプロンを脱ぎ、出かける支度を始めた。


「なんの話だ?どっか行くのか二人とも?」


「あっカリー実話ね...」


「カリー、私とシャルはちょっと買いたい本があるから、家の事任せた!!」


「はぁ!?何言ってんだよっ」


 カリーの文句を最後まで聞くことなく、私はエンディーに手首を掴まれて家を飛び出た。


「よしっじゃっ、まず職場の偵察から行こうっ」


「えぇー...」


 こうして、ソリアの秘密を探る事が、エンディーの強引で始まった。


「エイエイオー!!」


「おー....」


『『『おー!!!』』』


 いつの間にか、私の使役精霊たちも出てきていて、何故かやる気だ。


  _._._._._._._


「よしっ母さんの職場がある10区画に到着!!」


『『『パチパチパチ〜』』』


(なんか、盛り上がってる...)


 私はもうどうとでもなれと思いながら、ノリノリの四人衆(三名は精霊だが)に従うのだった。


(まぁ私も母さんのことは気になるしね...)


「それでは聞き込みを開始...てっあっ」


『なになに〜』


『どうしたんだ?』


 エンディーの目線の先には、ソリアがちょうど、店から出てくる姿があった。


「いいタイミング、皆追うよ!!」


『『『はーい!!』』』


(さっき、仕事の始め時間の三の鐘が鳴ったばかりなのに....)


 ソリアがもう店を出たことに私は疑問に思いつつも、素早くソリアを追いかけている四人衆を追いかけた。


  _._._._._._._


「おっと、ここで狭い路地に入ったようです。怪しいですね。」


『『『怪しいで〜す!!』』』


(何故、実況風...)


「狭い路地だと、見つかり易いけど、どうする?」


 ここらで辞めてくれないだろうかという期待を込めての質問にエンディーはニヤリと返答した。


「あっ」


(嫌な予感がぁあああああ)


「ぎゃっーー!!!んぅ..」


 エンディーに腕を掴まれたかと思うと、ふわりと足から地面が遠ざかったと思った瞬間。私たちは屋根に乗っていた。

 私の叫び声を押さえつけるように、エンディーに口を押さえつけられた。


「んっ!!!うぅ!!」


「あぁ、はいはい。バレちゃうでしょ、静かに!!」


『『『しーっ!!』』』


 四人衆揃って人差し指を口に当てる仕草をしてくるのに、イラッとしつつも、やはり我慢だと言い聞かせ、狭い路地を上から見守った。


(ん?この先はたしか....)


 いつの間にか、レンガでできていた家たちは、木造建築に変わっていた。


「なんか変な匂いする...」


『『『くらくら〜』』』


 むせ返るような香水と煙草の香り、鮮やかな朱色で塗られた建築物。多くの女が行き交うこの場所。


「...だ。」


 そこは私の第二の故郷。花街だった。

 ここは、嫌な思い出も沢山あった。しかし、それでも懐かしく思ってしまうのは、血は繋がっていないが姉妹と思えるような妓女や禿。そして親切に空いてくれたお客さんも沢山いたからだろう。


「はっ花...花街!?」


「うん...そうだけど...??あっ」


 エンディーは、ソリアが妓女をやっているのかと心配しているようだった。


「エナねぇちゃん....花街って言っても、その〜なんかエナねぇちゃんの思っている姿は夜の花街だよ。昼間の花街って言うのはね、女性向けの屋台が並んでるんだよ〜」


 そう、昼の花街では屋台が多く出ている。しかも、その多くが美容品や装飾物。

 というのも、妓女たちのほとんどが、借金を負っている子達なのだ。その借金を店が肩代わりし、代わりにその店の妓女になるというのがこの花街のシステム。

 しかし、ほとんどのものが生涯その支払いができない。というわけで始まったのが昼間の花街市だ。

 妓女たちが作るその品々は貴族令嬢、夫人にも大変人気に今後なっていくのだ。


(つまり、ただの買取とか偵察からとかかな…じゃあやっぱり勘違いか...)


「あっ見て、母さんが店に入ったよ!!」


 昼間の花街市に行くと思った私の考えは当たらず、ソリアは一つの店に入ってしまった。


(あの店は......!?)

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