閑話 母さんは顔が広いそうです(2)



「今日は何の騒ぎだ??ってソリアか。でそちらが例の子達、か。」


 奥のカウンターから聞こえてきた声は、とても低くかった。しかし、カウンターにいたのは高身長に長い紫髪の美女だった。


(今度は誰!?)


「カイル!!そうよこの子達がお願いしてた子。」


「へー、さすがソリアの子って感じだな。可愛い子達じゃないか。じゃあ早速、やるか。奥入れよ。」


 美女という見た目とは相反した、低音の声だったが、ソリアは当たり前のように話していた。


「そうね。エナの怒りも頂点だし、さっ奥行きましょう。」


 私とエンディーはソリアに背中を押されながら、カウンターの奥へと入るのだった。


 奥は、外の雰囲気とは別世界で、壁一面には布や糸、ドレスが飾られていた。そして部屋の隅の机の上には、ミシンやドレスの構図のようなものも置かれていて、そこはまさに服飾屋のような雰囲気だった。


「うわーお」


 先程まで逆ギレ状態だったエンディーも、その雰囲気に圧倒的されたのか、周りをキョロキョロと見回していた。


「ようこそ、俺の店へ。可愛いお嬢さん。」


 カイルはそう言って優雅にお辞儀した。


「ふふっカイルのその言葉っ似合わないわよ?」


「うるさいな。分かってる。ちょっと行ってみたかっただけだ。」


「あの、そろそろ教えてくんない?誰なの?その人。」


 エンディーはすっかり雰囲気が気に入ったようでぼーっとしていたので、ここは私が進めることにした。


「ふふっそれはねーじゃじゃーん!!」


 ソリアの言葉と共に、カイルが置いてあった布をどかすと、そこに現れたのは煌びやかな二着のドレスだった。


「「げっ...」」


 そのドレスを見た瞬間、私とエンディーは嫌な予感がした。


 _._._._._._._


「はいっ腕上げて!!次はこっちだ。」


「ここもうちょっと詰めた方がいいわね〜こっちはフリル付け足す??」


「いいんじゃないですかぁ〜」


 私とエンディーが棒立ちになる中、その周りをせっせとカイルとソリアが動き回り、いつしかスィーピアまでもが参戦していた。


 エンディーに関しては逆ギレすら起こさない、生気の抜けたまさに人形状態であり、私自身、疲労は限界まで達していた。


「さてと...こんなものかしら?」


「あぁいいものができた。」


「完璧ですぅ〜」


(終わった.....のかな??てか結局これどこに着てくの??)


 鏡に映った姿は、まさに公爵令嬢時代の自分だった。


(というかそれよりもっとオシャレかも...)


「どう?可愛いでしょ?カイルのデザインはやっぱり独創的で素敵なのよ。」


「うん...可愛いってこのドレス作ったのカイルさんなの?」


「そうよ。彼はね結構大変な人生歩んできたのよ。」


 ソリアいわく、カイルとは公爵令嬢だったアリエス時代にであったそうだ。


「平民で、しかも男性がドレスのデザインをするなんてことはね、結構難しい世界なのよここは。だから、私がカイルを見つけて、この店を紹介してって感じね〜」


「へーってやっぱりカイルさん男なの?!」


「バカっ何俺の話をベラベラと...俺は男だけどちゃーんと女の子の気持ちを理解してる。だから素敵なドレスが作れるんだ。」


「ふふっごめんって。」


 二人の仲は確かに女友達のようなそんな形だった。



「じゃっまた来るわね!!」


「あぁ待ってる。」


 二人が別れの挨拶をする中、私はエンディーの体を揺らし生気のを取り戻していた。


「エナねぇちゃん!!帰るよっ」


「はっ...シャル、私は一体何を....」


(こわっ記憶ないの!?)


 ドレスを作ることに対してトラウマができたところで、ようやく家に帰れることになった。



「でっ結局、なんのためのドレスと服??」


 大荷物を持ったままの帰路で、私は聴き逃していた質問をソリアに聞いた。


「そうだよ〜男娼の店に行っていた理由が私たちの服ってことは分かったけど、新しい謎が生まれたよ。」


「ふふっそんなの決まっているじゃない。学校があるのは2区画よ。貴族街の中、それなりの服装をしないとね。」


 確かにそうだ。学校では制服があるからいいとはいえ、休日は学校外にも出れるのだ。入試の時も、新しくワンピースを買ってもらったが、あれでも少し目立ってしまっていた。


(まぁ周りは貴族と上流層の子達だもん。もっと着飾らないと、悪目立ちだよね…)


「でも、ドレスは?」


 なるほど、と理解していると、エンディーが次の質問をしてくれた。


「それは、入学早々パーティーが開かれるからね。あなたたちはきっと首席だし、1組に入れるわ。つまり、周りは貴族ばかりそれも上級貴族よ。パーティーはもちろんバラバラで動くけど、会場に入る順番は1組からと決まっているわ。」


「なるほど...。」


 エンディーはどこか楽しそうだったが、私の顔はどうしても浮かれない顔になってしまった。



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