閑話 王子は巫女に惹かれるそうです


 ー?周期ー


 おかしい、何かがおかしかった。


「シャロル様。大丈夫ですよ。きっと何かの間違いかと。」


「そう、よね。」


 他にも色々とメイド達は慰めてくれるが、どれもわたくしには気休めでしかなかった。


(やはり、おかしいわ。どうして....こんな。)


 ガチャ


 扉が開く音がして、彼が来てくれたのではないかと、そんな淡い望みで扉の方を見てしまったわたくしの目の前にいたのは、お兄様だった。


「....お兄様。」


「済まない。殿下は、殿下はいらっしゃらないんだ。本当に済まない。」


「お止めください。お兄様のせいではありませんわ。それに、お兄様がエスコートしてくださるのでしょう?わたくし、久しぶりにお兄様にエスコートされて嬉しいですわ。」


...」


(大丈夫。お兄様もいらっしゃいのよシャロル。しっかりしないと。)


 わたくしは、自分で自分自身の背中を押して、お兄様の手を握って部屋を出た。


 たかが、学校の社交パーティーだ。これまで正式な社交の場で何度もエリオット殿下とは一緒に出てきた、1回のパーティーぐらいでそれが覆ることは無い。

 そう自分に言い聞かせながらも、会場に行く足取りは重く不安だった。


「ヴァンビルゼ家小公爵、ジルベルト・フカ・ヴァンビルゼ様、令嬢、シャロル・エト・ヴァンビルゼ様でございます。」


 名前を呼ばれて、会場に入ることになると、今までの憂鬱な顔など晒してはいられなかった。


「シャル、大丈夫かい?」


「...もちろんでございます。」


 わたくしはいつも通りの優雅な笑みを浮かべ、どうにか気持ちも切り替えようとしていた。


「無理はするなよ。」


「はい。」


 _._._._._._._


 何曲かお兄様と踊り終えた後、ついにその時は来てしまった。


「エリオット・ウィル・ハイルツェン王子、光の巫女、リリアーネ・レダ様でございます。」


 周りがザワザワと騒ぎ始めてしまった。


 何故、婚約者である筈のわたくしが一緒ではないのか。


 彼らの話の内容は完全にその話題で埋め尽くされた。しかし、エリオット殿下もリリアーネというあの平民も何故か顔を見合わせて笑いあっていた。


 やっぱりおかしい。


 どこかでわたくしは間違えてしまったのだろうか。わたくしにはあの幼少期以来1度だってわたくし笑いかけたことなどないのに…


「わたくしは....」


 エリオット殿下、貴方様にわたくしは必要ないのですね。


「シャル。大丈夫かい?そろそろ、部屋に戻るかい?」


「...大丈夫ですわ。でも...」


 わたくしは泣き出しそうになる目を何とか笑顔に変えて、お兄様に微笑んだ。

 しかし、ちらりとエリオット殿下を見れば、楽しそうにリリアーネとダンスをしているのが目に入った。


「確かに少し疲れてしまいましたわ。お暇致しましょうか。あっエリオット殿下にご挨拶した方が...」


「必要ないだろう。私たちはヴァンビルゼ家だ。ここは王国だが、私たち公爵家と王家は平等関係だろう?それに今のエリオット殿下に、大切な妹とと話す資格はない。」


「....ふふっそうですわね。」


 珍しく、王家。特にエリオット殿下に厳しく当たるお兄様に驚いたものの。改めて、お兄様はわたくしの事を大切に思っているということが嬉しかった。


「行こうか。」


「はいっお兄様!!」


 _._._._._._._


 2人が会場から出ていくのを、見ている人がいた。


 おかしい。何かがおかしかった。

 何故隣にいるのがシャロルではない??何故シャロルはあんなに遠くに....


「エリ先輩?どうしたんですか?」


 2人の姿が見えなくなった後も、その姿を名残惜しいように見ていた彼は、自分の名前が呼ばれたようだった。声のした隣を見れば、この国では珍しいい白銀の髪の輝く少女がいた。


 何故君が俺の隣にいる?俺の隣はいつだってシャロルのはずだ....


 先程とは変わり、険しい顔をした彼を、少女は薄い菫色の目で不思議そうに、見ていた。


「エリ先輩?何か嫌なことでもあったんですか?」


「なんでもないよ。リリアーネ。もう一曲踊ろうか。」


 その穏やかな声に彼の普段を知る貴族たちはまたザワザワと話し始めた。


 しかし、当の本人。エリオットは自分に起きている状況に驚いていた。


 今、俺は何と言った?何故俺は笑っているのだ?何故何故....


 頭の中では、目の前にいるリリアーネに構っていられない。今からでもシャロルに謝りたいというのに、体は言うことを聞いてくれなかった。そもそも、何故リリアーネのエスコートを自分がしているのかさえエリオットには分からなかった。


 エリオットがまた、リリアーネから目を離し2人が出ていった出口に目を向けた時、一瞬リリアーネの純粋そうな顔が小悪魔の笑みに変わった。

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