悪役令嬢は記憶と向き合うようです(4)
ー1年前ー
「ただいま...。」
ドムリは今のような元気な様子はなかった。
「おかえりなさい。」
「おかえり!!父さん!」
そんなドムリをソリアは暖かく、エンディーは元気に迎えた。
「シャルは...まだムリ、か...。」
ドムリはシャルが引きこもっている。寝室を見て、そう呟いた。
カリーが亡くなってからもう10年、シャロルはその部屋から一歩も外へ出ていない。
コンコン
「は〜い。こんな時間に誰かしら?」
「俺が見てくる。」
ドムリは席を立ち、玄関の方へと向かった。
コンコン...コンコン!!
どんどんドアを叩く音も強くなる。何かがいる。そう長年冒険者をやっていたドムリは思った。傭兵として携帯している銅剣へ手を伸ばし、ドアを開けた。
剣を構える。
しかし、そこには誰もいない。
「おい!!こっちだよっ父さん!」
懐かしい声がした。
まさかと思い、ゆっくり下を向くとそこには男の子がいた。
「カ、リー...?」
「父さんどうしっ!?おにぃ...カリーおにぃちゃん!!!」
様子を見に来たエンディーも、そこにいる男の子に気が付き固まった。
「どういうこと?」
「とりあえず中入ろーぜっ!!」
固まるドムリとエンディーを無視して、カリーは我がもの顔で、家へ入り込んだ。
「カリー!!カリーなの!?」
カリーを見たソリアはイスからガバッと立ち上がってカリーを抱きしめた。
「本当にカリーなのか...」
「カリーおにぃちゃんなんだ。」
ドムリもエンディーも目に涙を浮かべながら、カリーを抱きしめた。
カチャ...
黒髪の少女、そのやせ細った容姿でなんとも痛々しい様子だった。
その光の籠らない目がパチリと、彼女の家族を映す。
「シャル?」
今まで何を言おうとその部屋からは一歩も外に出てこなかった少女、シャロルが出てきたことに、喜びとともに、困惑した。
そして、開口一番。
「その子、誰?」
_._._._._._._
「だからね、カリーはあなたの弟という事にしたの。カリーの記憶を失ってからは、だいぶ外に出られる様になってきて、記憶が戻らなくてもシャルが幸せならそれで言いって私たちは思っていたから。」
「そう、なんだ...。」
『ふふっ』
『あははっ』
『もうだからあなたたち静かにって...はっ』
今回は絶対に気のせいではなかった。声が聞こえた。私は森の茂みに目をやった。目を凝らす、しかし何も見えない。そこにあるのは青々と茂る緑のみ、静かに風の音だけが聞こえる。
「...ル....シャ....ル、、シャル!!」
「はっ!!」
大声で呼ぶソリアに、私は呼び戻される。
「ボッーとしてたけど…」
「だっ大丈夫...。」
本当のところは、今すぐエトに相談したかった。
彼女はきっと、カリーの正体も、精霊のことも知っていたはずだ。
(どうして話したい時に一緒にいてくれないの?)
『ふふっカリーだって〜』
『あはっぼくらがおしえてあげよっかぁ?』
『こらっ二人とも〜』
『『キャー!!』』
また茂みから声がした。
少なくても三人の声、、、
(カリーのことを知っている...)
カリーのことが助けたい。
あの時守ってくれたおにぃちゃんのカリーも。
あの日、いつか私を守れるよう強くなると宣言してくれた弟のカリーも。
(全部この子の...いや私の大切な記憶だから。)
「シャルっ!!どこに行くつもり?」
「えっ...。どこって、」
気がつけばエンディーに右手首を掴まれていた。表情は明らかに不安そうな顔をしていた。
今思うと、今日ピクニックに行くと決めたその時から、彼女の顔は暗かった。
「ごめん。エナねぇちゃんの気持ち分からなくて、」
「そうだよっシャルはいっつもそう!!私がどれだけ心配してるかわかってる?伝わってるの?」
「それは..」
「全然伝わってないよね、私がこんなに明るく振る舞う理由も、どれだけ悲しい事があったかも、何もかも全部...ぜん..ぶ...。」
「エナ...。少し休みなさい、スィーピア...」
「ん......。」
「えっ...。」
エンディーは倒れそうになるのを、ソリアに抱き抱えられ、そのままテントに運ばれた。
(今のって魔法?)
今の魔法は精霊の名前しか言ってなかった。
「どういうこと、なの母さん。母さんは一体...」
「しーっ」
ソリアは優しく微笑んで私の口へ人差し指指を当てた。
_._._._._._._
夕日が私とソリアの顔を染める。
まだカリーとドムリは帰って来なかった。
エンディーを寝かしつけたソリアは、私に話す隙を与えないかの様に仕事を降っていった。
「シャル...おいで。」
薪を積み終えた私は、やっと休みを貰えた。
焚き火の前に、隣同士でソリアと座った。
「ねぇ、シャル。少し昔話をしてもいいかしら?」
私は焚き火を見たままコクリと頷いた。
「ふふっ、ありがとう。むか〜し、むかし...
一人の少女がいました。名前はアイリス。
アイリス・ノームル。
彼女の家はとても穏やかで、暖かいものでした。
アイリスはお転婆なお嬢様で、淑女のレッスンそっちのけで、街に出かけていました。
そんなある日のこと、その日はとても人が多くアイリスは誰かとぶつかってばかりでした。
その時、大柄な男にぶつかりとうとう転んでしまいそうになりました。
「きゃっ」
アイリスはつい目を閉じました。
しかし衝撃はアイリスに来ません。
代わりに来たものは、暖かい温もりでした。
「大丈夫ですか?」
アイリスが目を開けると、そこには凛々しい若者の顔がひとつ。
アイリスは自分がその男に抱きとめられている事に気が付くと、すぐさま離れ、礼も言わずに人混みを駆け抜けてしまいました。
これがアイリスが恋に落ちた瞬間だったのです。
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