悪役令嬢は誘拐に会うそうです

「ここ...どこ?」


目を話すと、そこは知らない景色が広がっていた。

一面が木の家と言うより、木の中に家があるという表現の方があっているだろうか。


(なんでこんなとこにいんの?)


『ふふっ』


『あはは』


またあの声達が聞こえた。

_._._._._._._


アイリス・ノームル(14歳)


アイリスは今とても困っていた。


「ですから!!私を冒険者にしてって言ってるじゃない!!」


「はぁ〜...何度も言うけど、身元の明らかになってない方は登録をお断りしています。」


そこは貿易商業金融協会通称、ボシキ。

彼女は今、未成年14歳でありながらも、冒険者登録を必要としていた。


「なんでダメなのよ!!孤児とか放浪人は良くてなんで私はダメなのよっ!」


「あぁもう、めんどくせぇなーあのな、なんか知れんけど、嬢ちゃん高度保護魔法かかってんから俺の看破の加護が効かねぇ〜んだよ!!」


さすがの受付の人もアイリスのしつこい申請に、取り繕わなくなった。


「どけっ」


「きゃっ」


受付に用がある人はたくさんいるようで、アイリスは後ろの男性に突き飛ばされてしまった。


「いたっ」


(なんなのよ。もう!!)


「大丈夫か。」


手を差し伸べてくれたのは、だいぶ前に出会ったあの大柄な男だった。


「あっあなたは...」


アイリスは男の手をとるとスカートの汚れをはらった。

男はまだ何か用があるのか、じっとアイリスの方を見ていた。


「なっ何か?」


アイリスはそれが少し恥ずかしかったようで、いつもの様に強い口調で言ってしまった。


「いっいや...なんでも、ない。」


「あっ」


男は、ぶっきらぼうにそれだけ言って立ち去った。今回もアイリスは礼をいえなかった。

_._._._._._._


「ほんっと何にもないし、誰もいない...。」


私は現在、私が横たわっていたあの木を抜け出し、森の中を歩いていた。

どの木にも人が住んでいるようなあとがあるにも関わらず、人がいるような気配はない。


「それにしても...綺麗な場所...。」


私は辺りを見渡しながらそう呟く。

夜なのにも関わらず、光を放つ実のようなものが木と木をつたい、暖かい光が道を照らし出す。

蟲の音とそよ風が私を奥へ奥へと誘い込むように響いている。


「本当、綺麗だよねここは。いつ来てもそう...。」


「へぇーエトここ来たことあるんだ〜......ん?」


「うん、あるよ〜腐れ縁がいてね…」


「そうなんだ...えっ??エト?だよね?」


気がつけば隣にはエトがいた。この間の可愛い幼女から少し成長して、私と同じくらいの背丈だった。


「うん?それがどうかした?」


エトはその長い白髪をなびかせながらこちらを見る。


「えっだって...ん?じゃあここ夢なの?あの夢の世界なの?」


「ちがうちがう〜シャルってば焦りすぎ!!ここは精霊の都だよ〜真偽の花園カル・フィーリア、精霊達が住まう秘密の森だよ!!」


「カル・フィーリア...」


「そう、ここでは、精霊がいつでも見守ってるから嘘はつけない。そんな意味から真偽の花園カル・フィーリア。」


「なるほど、真偽の花園カル・フィーリアね...。ってそうじゃなくて、なんでエトがいんの??てかそもそもなんで私ここにいんの?」


「えっと...まぁ私は腐れ縁に会いにかな?シャルのことは知らん。」


「知らんって...」


なんとも曖昧なエトの答えに、私は不安感をつのらせた。


「シャル。多分だけど、すぐにでもそなたの疑問が解決される。」


「えっ??」


エトの言葉使いがガラリと変わったかと思うと、前から花吹雪が飛んできた。


「きゃー!!!」


花吹雪がやみ、私は恐る恐る目を開けた。

そこには色とりどりの花が広がっていた。


『ふふっやっときた〜』


『あはは!!もう待ちくたびれたよ〜』


『もう!!かってがすぎるよ。ふたりとも!!』


あの幼い声がまた聞こえた。

_._._._._._._


「アイリス、その...なんというか...。」


「どうされたのですか?お父様、急ぎの用だと伺ったのですが。」


アイリスはいつもの破天荒っぷりを抑え今は父、クリソラン・ノームルと話をしていた。


(もう何なのかしら?どうしてこんなに渋ってんの?!早く抜け出して、あいつんとこ行きたいのに...いや別にあいつに会いたい訳じゃないし...うん、ちがうちがう冒険がしたいだけ...。)


アイリスは心の中で、悪態をつきつつも、顔には出さずじっとクリソランの言葉を待っていた。


「あの...その...それがな。」


しかしずっとこの調子である。

言うのだか言わないのだか...。かれこれ一時間は経っている。目の前の紅茶は一体何回取り替えられただろう。


(あーもう!!我慢できない)


「お父様!!そろそろ何用か話してください!!」


アイリスがガバッと立ち上がり、机に手を付きクリソランに顔を近ずけた。

貴族令嬢らしからぬその行動に、クリソランは呆気に取られた。


「...分かった。話すから、座りなさい。」


アイリスはその言葉にすんなり従い、元の背筋をピンと伸ばした。いかにも貴族令嬢となった。


「その...政略結婚の話なんだ。」


(政略結婚...。)


アイリスはその言葉に顔が強ばった。


「お相手の方は、誰です?」


本当は聞きたくない。相手が誰であろうと、政略結婚なんてしたくない。

しかし、アイリスの周りはそれを許さないだろう。


「クリアスだ。」


「クリアス様ですか...。」


アイリスは少し顔を和らげた。

クリアスこと、クリアス・マキュリ・ドレッディーンとは古くからの幼なじみである。アイリスはクリアスの事を兄のように慕っていた。


(クリアスお兄様と結婚...)


「お父様...。」


「すまないアイリス。どうしても嫌なら断るから。」


クリソランの声はどこか暗かった。


(お父様のことです。また誰かに強く押されてしまったのでしょう。)


「お父様、少し考えさせてください。」


お父様の言う通りに私は結局誰かとは結婚する。しかしっと。


(もう一度だけでも、あいつに会わないと。)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る