悪役令嬢は再会するようです


(早く会わないと、あいつに彼に...)


アイリスは走っていた。街並みを、この一年間ほぼ毎日のように抜け出したこの路地を慣れたように駆け抜ける。きっと今日も彼は、あの酒場にいるはずだ。


(着いた...。)


呼吸を整えると、私は昼間から賑わいを見せる店の扉に手をかけた。


(いた...。)


そこにはいつものように一人隅で飲んでいる男がいた。


「リっ」


「よぉ〜リム。今日はあの嬢ちゃんと一緒じゃねーのかよ!!」


話しかけようとするも、先をこされてしまった。アイリスは渋々その男が去るのを遠目で待った。


「しっかし、リム。あの嬢ちゃんとどうなんだ?結構いい感じじゃんかよ!!」


「別に。そんなんじゃない。」


「そっそうか…ははっなんか悪かったな〜リムもあんな気の強い女より可愛い子の方がいいよな…」


その会話を聞いていられず、アイリスは店を出ていた。


(なんなの!?なんなのよ!!)


アイリスの涙はアイリスの頬を伝って、道に落ちた。人影の少ない路地に入ってアイリスは一人泣いていた。


(やっと気がついた。私...リムのことが好きなんだ。)


その気持ちに気がついたアイリスはその場にしゃがみ込んだ。


「...うっ....うっ...」


「大丈夫か?」


その声は優しくアイリスに問いかけた。


「リ...厶..??どう、して?」


「店から出てくの見かけたから。声ぐらいかけろ。ずっとお前がくるの待ってたんだ。」


「えっ??」


リムの言った言葉がアイリスは理解出来なかった。


(リムが私を?まってた?)


いつの間にかアイリスの涙は止まり、落ち着いていた。


「あのね、リム。」


「うん。」


「私結婚するの。」


「うん。」


「でも、私...。」


「アイリス。俺はこの世界の中で、君より美しい人はいないと思っている。君より優しい人もいないと思っている。だから、俺と結婚しよう。」


リムはそう言って、アイリスの左手薬指に指輪をはめた。

アイリスにとってそれは安い代物だったけれど、今までに貰ったどの宝飾品よりも嬉しかった。


「逃げよう。二人でどこまでも。」


アイリスの止まったと思った涙はまた溢れ出した。


「ほん...と??本当に私なんかで...いいの?」


「もちろん、君じゃなきゃ行けないんだ。」


リムはアイリスを抱き寄せるとそういった。

その言葉が嬉しくて、切なかった。


「ごめん...ね。」


「....うっ。」


アイリスは突然リムを魔法で眠らせた。

後ろを向き、凛とした貴族令嬢の顔へと変わった。


「出てきなさい。いるんでしょ?」


そう言って出てきたのは数十人の黒いマントを羽織った集団。


「お嬢様、お言葉ですが...。」


「黙って。彼に危害を加えないで、彼は何も知らないの。」


「しかし!!...うっ」


「黙れと言ったはずよ。」


黒いマントの集団から一人、口から血を出し倒れた。その様子に黒いマントの集団は皆息を呑んだ。


「アイリス。」


しかしそれでも、話しかける者がいた。

フードを外したその顔は、この世のものとは思えない美貌だった。


「クリアス....様。」


驚きつつも、アイリスは丁寧な礼をした。


(クリアスお兄様もいるなんて...)


アイリスは追っ手を全て殺してでも、リムと逃げようと思っていた。だが、リムに人は殺して欲しくない。また自分が人を殺すのも見て欲しくなかった。


「アイリス。そんなに怖がらないでよ。別に僕は君を止めに来たんじゃない。ただ最後に君と話をしたくてね。」


「話...。」


「そうだから、僕のことも優しくクリアスお兄様って呼んで。」


クリアスはとても優しくそう言った。


「クリアスお兄様は何も変わっておりませんね。その優しさも。」


「あははっ。なんか悲しいとこつかれた気がするよ。しょうがないじゃないか。僕らドレッディーン家はエルフ族だ。成長が遅く寿命が長い。君ら精霊族とは違うよ。」


クリアスはもう20歳になるがその容姿は、アイリスと同い年と言われてもいいようなものだった。


「もう十年もしたら、いい感じになると思うんだよね。」


「今でさえ、外出を控えるように言われてますのに、そのまま成長されたら、外出は不可能ですわね。」


クリアスはその美貌によって、男女関係なく魅了してしまうのだ。今でこそ、少年のような面影があるので、可愛らしいぐらいで済んでいるが、このまま成長したら大変だろう。


「確かにそうだね〜というかアイリスも相変わらずのようだね。その棘のある感じ。」


「なっ!?...そんな事よりもどうしてここに?」


「だから君に最後に会おうと思ってね。」


「その黒いマントの集団はドレッディーン家のものでしたか。」


「はぁ本当にごめんね。さっきは、お前たち下がってて。」


「かしこまりました。」


急な冷え冷えとした声に、アイリスはびくりとした。

黒いマントの集団は路地奥へと消えていった。


「僕はね、君には幸せになって欲しいんだ。アイリスは覚えてる?僕の夢、薬屋って言ってたでしょ。もう叶わなくなってしまった。でも、君は違うよ。だから、アイリスには自分の夢を追いかけて欲しいんだ。僕の分まで。」


「私の夢は冒険者であって、薬屋じゃあないのですが?」


「いいよ。それでも、君が夢を追いかけているって言う事実がいいんだ。」


「そう...ですか。」


クリアスは終始笑顔だった。

悲しい顔を見せまいと、そんな顔だった。


「これあげるよ。本当に困ったら、これに魔力を込めて。きっと助けに行く。可愛い....妹のために。」


そう言って、アイリスの手をとってネックレスを握こませた。


「クリ...」


「もう行って、あとは僕が何とかする。」


クリアスはアイリスに背を向け、手を振った。


(また私はあの言葉を言えないの?...いやそんなのいや!!)


「クリアスお兄様!!ありがとうございます!!」


アイリスはクリアスに抱きついてそう言った。昔からずっと言いたくても、上手く言えなかった言葉だった。


その後すぐ、リムを抱きかかえてその場を去っていった。


「あぁ...アイリス。僕は君のことが、、、」


クリアスはその続きを言おうとはせず、黒いマントの集団と共に姿を消した。

路地にはもう誰もいない。

_._._._._._._


『こっちこっち〜』


『はやく!はやく!!』


『ごめんね、あのこたち、じゆうだから。』


私は絶賛花畑を走っていた。

優雅さのかけらもなくただ猛ダッシュに光を追いかける。

この広い花畑に来た時に姿を現したのが、この三つの光だった。正体を明かさないまま、ただ着いてきてと言うこの子達についてきたが...


「どこまで走んのーーー!!」


(てかエトどこ行った???)


いつの間にか隣にいたエトは消えていた。


「あっ」


疲れたせいか、足がもつれそのまま転んだ。


「大丈夫か。シャルねぇちゃん。」


手を差し伸べてくれたのは、カリーだった。


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