悪役令嬢は家に帰るそうです


今度はカリーが一呼吸置いて、話し始めた。


「俺はカリーだ。でも、この中には俺を含めたいくつものカル...記憶が存在しているんだ。俺の、というよりこの体の精霊の名前はフィルって言う。死んだ俺はずっと暗闇にいたんだ。どこにも行けない。でもどこまでも続くその闇が怖かった。でもある日、声をかけられたんだ。この体の精霊フィルから。」


_._._._._._._


「おーいそこの少年。大丈夫かい?」


うっすらとある意識の中で、久しぶりに誰かの声を聞いた。


「誰だ。」


「僕かい?なーにただの通りすがりの精霊さ。」


「精霊?」


「そう精霊。そこで提案なんだけど、そこから出してあげるからさ。僕の中に入らない?」


「お前の中??」


それは、カリーにとってよく分からない提案だった。しかし、この暗闇から出られる。そう思ったら。いつの間にか、提案が承諾されていて、気がつくと、真偽の花園カル・フィーリアにいた。


「フィル。そなた、また新しいカルを吸収したのか。」


(だれ...だ。)


目の前に現れた、大きな人物にカリーは後ずさりした。


『ノームル様さ。ほら、挨拶しないと』


先程の声が頭の中に直接呼びかける。


(なんなんだよ。これっ!!)


『はぁ〜わかった。今回は僕がやってあげるよ。』


不意にカリーは自分で体を動かせなくなった。そのまま、自然と跪いた。


「はっノームル様。お久しぶりです。」


「うむ。久しいな。フィル、いや今の名前はなんと言うか...」


「カリーでございます。」


「そうか...カリー。すまないな。うちのものが、まぁ末永く付き合ってくれ。」


「はっ。」


ノームルはそのまま、花畑に消えていった。


_._._._._._._


「じゃあカリーは、いろんな人達と体を共有してるってこと?」


「いや、ちゃんと自我を持っているのは、俺と元にあるフィルだけだ。フィルの話だと、人間の寿命の分だけしか、その人の自我は維持できないらしい。だから、過去に吸収したカルからはもう記憶ぐらいしか送られてこない。」


「そう...なんだ。」


なんだか難しい話になり、ドムリは顔を顰めていた。一方で、ソリアはどこかにわかっていたように頷き、エンディーは理解出来たようだった。


「それでな。俺は今回のピクニックで、シャルねぇちゃんが、俺との記憶取り戻したいって分かったから、どう上手く戻そうかって考えて、森に行ったんだけど。」


「そうだ。思い出した。カリーお前大丈夫なのか!?」


「そうなんだよ〜。父さん、様子見に来るのはいいけど、よりにもよってあの森の主である毒蜘蛛連れてきて大変だった。」


「それはすまん。」


「本当昔からそういうとこあるわよねドムリは...」


(えっそんな大変だったぐらいで済む話なの?何?じゃあ私、魔法使えるようになっただけで喜んでたの恥ずかしいじゃん。)


その時ばかりは、カリーが無事ということより、騙されていたショックが大きかった。エンディーもカリーの実力に驚いていたのか、少し固まって呟いた。


「いいな〜毒蜘蛛に会うとか。」


「えっ」


(何言ってんのこの子。カリーだけじゃなくてエナねぇちゃんもおかしいんじゃない?)


「まぁまだ、俺は正体知られたくなかったから、父さん気絶させてそこから真偽の花園カル・フィーリアに逃げたんだよね。」


「えっドムリ気絶させられてまたここきたの??本当に昔から変わってないわね。私の次は自分の子どもって」


ソリアは必死に笑いをこらえるような仕草をしていた。


「しっしょうがないだろ!!」


ドムリはフイっと顔を背けてしまった。


「ごめんごめんって機嫌直して」


「わかった...」


(いや私たち何見せられてんの...)


兄弟三人は、自分の親ながら呆れて二人を見守った。


「まぁとにかく、ここに逃げ込んで、母さんに精霊を通して、連絡してもらって、今に至るってわけだ。」


カリーのまとめに、皆が納得した。


「じゃあ帰りましょうか。」


ソリアの案内の元、森の出口へと向かおうとした。


「待って。シャルねぇちゃん、いやシャル。お前の記憶の問題がまだだ。というかこの約二日間の始まりはお前の記憶を取り戻すことだろ。」


(いやそういえばそうじゃーん)


さっきから突っ込んでばかりで忘れていたがこのピクニックは私の記憶を辿ることが、始まりだったのだ。


皆が、カリーの方を向き心配そうな顔をした。自分を守るために失った記憶を思い出すというのは、それだけ危険なことなのだろう。


「私思い出したい。」


「わかった...」


意を決して、私はカリーの顔を見た。

するとカリーは何やら、ポケットをあさりだした。


「シャル、これがお前の記憶を辿る鍵だ。」


ポケットから出てきたのは、樹液飴だった。

家族はなぜそれが鍵になるのかわかっているようで、私の様子をじっと伺っている。


「これは樹液飴、別名。黄金こがね宝石だ。」


「こがね...。、、、うっ」


聞き覚えのある名前その名前に、頭が痛くなる。


「シャルっ」


ソリアが私を抱きしめると、家族皆が私に寄り添ってくれた。


(ゆっくりでいい...思い出す。)


あの日、なぜピクニックに行くことにしたのか。なぜ森へ二人で入ったのか。なぜあんな道のりが悪い場所に行ったのか。


「そう...だ。」


あの日、始まりは、この樹液飴。黄金こがね宝石だった。


「やっぱり、おにぃちゃんが死んだのは、私のせい...。」


いつの間にか、目には涙が溢れていた。


「あの日...私がっ、、樹液..飴。自分で....取り行くって、、、」


「お前のせいじゃねーよ!俺がちょっと運悪かっただけだ。でも、今俺はここにいる。運がいいんだか悪いんだかわかんねぇーな!!」


私より背の低いカリーに頭を撫でられるのは変な感じだったが、その優しい手つきが、思い出したおにぃちゃんそのものだった。


「帰ろ。俺たちの家へ。」


「うんっ」


あの日離してしまった手は、時が流れてまた繋がった。

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