悪役令嬢は愛の重さを知るようです


「ただいま〜」


 さすがに遅くなるとカリーも心配すると思ったので、イアンツィーとはまた会う約束をして私は帰ってきた。


「...え?どうしたの?」


 目の前にいたのは、干からびた両親だった。


「あっシャルねぇちゃんおかえりなさい。大丈夫だったか?」


「うん!!大丈夫。それよりこれどうしたの?」


「それが...」


「はっシャル〜愛しの我が娘!!お願いよ、母さんのこと嫌いにならないでぇ〜」


「父さんのこともだぁ〜」


 私の存在に気がついた両親は両サイドから私を挟む。


「えっ??」


(ほんとに何があった??)


 取り敢えずカリーに助けを求めると、目を晒された。


「裏切り者ー!!」


  _._._._._._._


 コトッ...


 ようやく正気を戻した?両親は私からは離れてくれ、席へ着いた。そこへカリーは用意していたコップを置いた。


「さて...カリー何があったの?」


「それが...」



「ただいま...」


 シャロルに帰れとあんな目で言われれば帰るしかないと思い渋々帰ってきたカリー。しかし、彼を待ち受けたのはそんなことを考える余裕もない状況だった。


「だからっ!!そういうんがうっさいんだよ!!こんくそババアァーー!!」


「ばっババァ...」


 その言葉にソリアは倒れ込みそれをドムリが支えた。


「そっそんな言い方しなくてもいいんじゃないか?な、なぁ母さんも悪気があっ」


「ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねーぞ!くそジジィ!!」


「じっジジィ...」


 ソリアを抱きながら二人ともその場に倒れ込んだ。


「ちっ...ちょっと出かけて来るから。」


 二人にそう告げ、カリーの方へ近寄って来た。


「じゃま。どけっ」


「ごっごめ」


 カリーはすぐさま道を空けた。


 バタン...


 ドアの閉まる音と共にそこには沈黙が生まれた。


(だっ誰だ今の...)


 カリーは分かっていた。今の荒ぶった女を分かってはいた。だがしかし、受け入れられずにいた。


「エナねぇちゃん...どうしちゃったんだよ。」


  _._._._._._._


「っで、さっきのシャルねぇちゃんみたいにされてって事までしか俺はしらねぇ」


(エナねぇちゃんが...)


「まぁあれだけ言われれば、逆ギレするのも分かりますぅ。」


「「すっスィーピア!?」」


 突然後ろから声を掛けてきたのはソリアの使役精霊のスィーピアだった。


「は〜い。スィーピアですぅ。アリ...いえソリア様が動けなさそうなのでぇ、スィーピアが代わりに教えて差し上げますぅ。事の発端はあなた達がいない二年前に遡りますぅ。」


 そう言うとスィーピアは大鏡をどこからか現させた。そこにはソリアとドムリの姿があった。


『私はエナには才能があると思うのよ...』


『俺もそう思っている。しかし危険じゃないか?学校があるのは2区画じゃないか。貴族街の真横だ。それにエナはお前によく似ているし…。』


『だけどね!!それでエナの可能性を無くすのは違うと思うのよ!!』


『そうだなぁ...』


『それにスィーピアもいるし…。』


『そうだな、1度エナの意見を聞こうじゃないか!』


『そうねそれが一番だわ!!』


(やっぱり二人はエナねぇちゃんを王立学校へ行かせようとしてたんだ...)


 エンディーは確かに賢い子だった。参考書を与え勉強させれば特待生になるのは容易そうだ。

 その一方でソリアによく似ており、つまりそれはノームル家にバレるのではないかという懸念もあるのだろう。


 ザザっ


 鏡に映る場面が変わった。


『行きたくない。』


『えっ?どうして?学力の心配をしているなら』


『違う...』


『金の心配なら大丈夫だ。知っているだろ?俺らが本当は金持ちだって』


『そうじゃない!!私がいなくなったら、誰が昼間シャルの面倒みるのよ!!』


 エンディーはどこか悲しそうに叫んで、家を飛び出してしまった。


 ザザっ


『そうじゃないんだよ...バカ。』


 エンディー自身分かっていた。シャロルを先程の話に出すのは違っていた。


『そうやっていいお姉ちゃんぶんなよ!!なんでいつでもニコニコ笑ってんだよ。いい子ぶんなよ!!分かってんだろ!!本当はっ!!本当は...もっと愛されたいだけなんだよ...』


 エンディーの叫び声はだんだん弱々しくなり、ついに道にしゃがみこむ。


『分かってんだよ。学校行きたくねぇ理由は...親と離れんのが寂しくて...才能が本当にあんのかが怖くて...ただそんだけだろ...』


(そんなこと思ってたんだ...てか口悪くない??えっ?なんで?そこの方が気になるんですけど…)


 ザザっ


 そんな私の疑問には誰も答えてはくれず、またまた場面は変わった。


 ガチャ...


『エナ!!よかった..。』


『ごっ』


『ごめんなさいねエナ...』


『えっ??』


『私たちエナの気持ち考えてあげられなかったわ。そうね、エナもとしてシャルのことは心配だもの...』


『ちがっ....はぁ、うん。そうなのだからこの話はお終い。』


 エンディーは少し諦めたような顔で、またお姉ちゃんの顔に戻って笑った。

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