第二幕 悪役令嬢と姉

悪役令嬢のいない世界だそうです

 

 また夢を見た。

 黒髪の少女と星空を見る夢。

 決まって最後は闇に包まれる夢。


「君は一体誰なんだ...」


 広い部屋彼の声は誰にも届かない。


 コンコン


「ジルベルトでございます。」


「入れ。」


 部屋に入ってきたのは、あの夢の少女と同じような黒髪の青年だった。


(確か、黒髪はヴァンビルゼ家の象徴だったな。)


「フッまさかな...」


「どうかされましたか?エリオット殿


「いや、なんでもない。」


(あの少女がヴァンビルゼのもののはずがないじゃないか...。)


「で、なんのようだ?ジルベルト。」


「次のパーティーでは必ず私たちは四家から婚約者を選んで頂くようお願いしますと皇后様から...」


「その話なら分かっている。はぁ〜」


「お気持ちは分からないでもないのですが…あと、私の妹は絶対に選んばないで下さいね。」


 そう言ってジルベルトはニコッと笑った。


「ジルの妹好きには呆れるな。しかし、ドレッディーン家もご息女を出すとは思わんぞ。」


「確かに。エリもサターニャ様が嫁ぐ時は大泣きだったじゃないか。」


「なっ泣いてなんかない!!誰があんなじゃじゃ馬な姉に......フッ」


 お互いを愛称で呼び、その場には次期国王と公爵家当主ではなく、ただの友人との会話が生まれた。


「そういえば、そのドレッディーン家だけど、事業を進めているそうじゃないか?」


「あぁ、あの家を出ていたイアンツィーが戻ってきたそうだな。そろそろ学校にも戻ってくるんじゃないか?」


「そうなのか?…クリアス様はよくお許しになったな。あの人は何を考えているか分かりにくくて、あの冷え切った目に見られるとゾクッとするよ。」


「そんな風に言うな。彼は本当はとても他人に気を使うタイプだぞ。イアンツィーが出て行ってからしばらく暗かったぞ。」


「そうなのか...勘違いされやすい人なんだな。」


「まぁイアンもイアンだがな。」


「確かに。」


(イアンと会ったのはもう二年前だな。確か、イアンが学校を中退して以来か...。)


「久しぶりに三人でお茶でもどうだ?」


「いいんじゃない?エリも最近詰め込み過ぎだし。」


「それはお互い様だろ。」


「そうだな...。」


 24歳になれば彼らは家を次ぐことになる。それまでもうあと5年、引き継ぎ作業にどちらも追われていた。


「それじゃ私はもう行きますね。」


「あぁまた招待状を飛ばす。」


 部屋から出るその後ろ姿がやはり、あの少女と重なって見えた。


「誰なんだ...あぁダメだ集中できない。」


 そう言ってエリオットは掛けていたマントを羽織り、窓から外へ出た。

 いつの間にかその髪と目の色も茶色に変わっており、平民によくある色になっていた。

 彼の黄金の髪とエメラルドの目は目立ちすぎるので、これでもう誰もが彼が皇太子だとは思わないだろう。


(確かこの辺だったな彼女を見たのは...)


 エリオットは路地で出会った黒髪の少女を探していた。黒髪はヴァンビルゼ家の象徴だ。平民にあの黒髪がいるとは思わなかった。


(それにあの目は...)


「あっ...」


 目的の少女を見つけたエリオットだが何故か屋根に上り隠れてしまった。


「はぁ〜」


(私は何がしたいんだか...)


 エリオットは黒髪の少女を上からの見下ろしていた。少女の隣には前回と同じように黒髪の少年がいた。


「ん?」


(あれは魔法か…)


 エリオットは違和感に気が付きよく見るとそれは彼と同じ光魔法で髪色を変えているものだった。


(不思議なこともあるな....)


 光の屈折を上手く利用したその魔法はとても高度なものだった。それをできるものがこんな街中にいる。その事がエリオットの目に面白く映った。


「さて、そろそろ帰って仕事をしなければな...ん??あれはイアン?!何故こんな所に...」


 帰ろうかと思っていたエリオットはイアンツィーの姿を見つけたあとを追うことにした。



(今回はなかなか面白いものが見れたな。)


 そこにいたのは先程の少女とイアンツィーの姿だった。

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