悪役令嬢は入試を受けるようです

いよいよ試験の日がやってきた。

 我が家は何かと騒がしい朝だった。主に一名が、


「あぁ〜どうしよう...シャル。大丈夫?大丈夫かな?大丈夫だよね!!」


 朝からずっとこれなのだ。


 私の両肩を掴んで揺さぶってくるエンディーの手を離して、私は大鏡を見る。

 ちなみにこの鏡はスィーピアが魔法で作ってくれているものだ。

 スィーピアの魔法によって抑えられていた私本来の姿に懐かしさを思いながら、おかしなところがないかチェックする。


(ワンピースは...よしっちゃんとリボンも結べてるね。前髪はっと....)


「シャル〜!!無視しないで!!」


「ちょっと!!せっかくいい感じにリボン結べたんだから引っ張らないで!!」


 私の腰に抱きついて来たエンディーを何とか離して、私は崩れたワンピースを整えた。


(全く....なんでこんなに情緒が不安定なんだか...)


 昨日までは切羽詰まってイライラ、逆ギレ状態のエンディーだったが、今はこのとおりわがまま娘状態なのだ。


 ガチャ


「二人とも騒がしいわよ....まぁ!!素敵よシャル!!....で、エナは何をしてるのかしら?」


「えっと...」


 ソリアの登場に我に返ったのか、自分がまだ何も支度をしていないことに慌てていた。


「もう、仕方のない子ね...スィーピア。」


「はぁいソリア様。どうされましたかぁ?」


 ソリアの声に、スィーピアはすぐさま出てきていつもの甘い声で話す。


「エナを手伝ってあげてちょうだい。」


「かしこまりましたぁ。ではエナ様行きますよぉ〜!!」


「えっちょっと、まっ....」


 エンディーは嫌な予感がし、逃げようとするが、すぐにスィーピアが操るリボンに捕まってしまった。そのまま、スィーピアから出てくる大量のリボンによってエンディーは包まれた。


(うわぁー...中どうなってんだろう...)


 呆然と状況を見ていると、終わったらしく、エンディーがワンピース姿で現れた。


「おぉ....」


「かわいいぃーーーー!!さすが私の娘たち!!」


 勉強続きで出来たクマややつれた顔が、無くなり、本当にお人形さんのような姿にエンディーはなった。


(スィーピアの力恐るべし...)


「すっごいフリフリなんだけどこれ....」


 少々嫌がりながらも、鏡を見て少し微笑む姿を見て、気に入った事がよくわかった。


「ささっもう時間よ!!」


「その前に渡すものあるんじゃあありませんでしたかぁ?」


「あっそうだった。」


 スィーピアにそう言われ、ソリアは何かを思い出したようにポケットを漁り出した。


「エナ、シャル。おいで、」


 私たちは何をされるのかと恐る恐る近づくと、首に何かが下げられた。


「これは..?」


 それはペンダントだった。薄ピンクの宝石がペンダントトップに付いていて、光を反射してキラリと輝いていた。


「御守りよ。大丈夫。あなたたちは、私のソリアの愛娘よ。」


 ソリアにそう言われて抱きしめられた。

 エンディーほどではないが、私の中にあった緊張がほぐれた気がした。


「「行ってきます!!」」


 元気に手降って私たちは家を出た。


  _._._._._._._


「あのっ!!やっぱり試験受けないとダメですかっ!!」


「ダメです...。」


 もう何回も、この質問をされているイアンツィーは面倒くさそうにそう答えた。


「でもでも!!どうせ、私入学するんですよね?なら受けなくても....」


 イアンツィーに面倒くさがられているのはお構い無しに、それでも目の前の少女は試験に行きたがらないでいた。

 もう答える気にもならないので、イアンツィーは馬車の小窓から外を見た。もうそろそろ学校へ着くことだろう。


(シャルさんは一体どんな姿で来るだろうか…)


 作戦通りに行けば、相当気合いを入れてくると考えられる。少しスィーピアさんの魔法が解けただけで、見とれてしまったあの姿に本気を出されたら、この国に叶う相手などいないだろう。


(たとえ目の前にいる光の巫女でさえね。)


 イアンツィーを説得するのは難しいと考えたのか、今度はリリアーネの護衛としてつけたこの国の騎士団副団長、柊風の腕にしがみ着いていた。


「はぁ....」


 柊風はあまり顔に出さないが、先程から耳がピクピクしているのを見ると相当嫌がっていることが伺えた。


(なんてはしたない人なんだ。)


 イアンツィーは父、クリアス顔負けの冷酷な顔でリリアーネを見た。さすがのリリアーネもすぐさま柊風から手を離して静かになった。


「着いたようですね。リリアーネ様。ご準備を。」


「わっ分かったわ...」


 緊張した趣で、リリアーネはイアンツィーの手を無視し、馬車を飛び降りた。


(.....もう何も考えないでおこう。)


 ここでリリアーネに礼儀作法などいっても仕方がないと諦め、リリアーネの後を着いていく。

 受付までは一応案内するつもりだからだ。


(柊風くんには申し訳ないけど、ずっと護衛を頼んだけどね...面倒くさくなったら薊ちゃんと交代してもいいって言ったし多分大丈夫...)


 正直、イアンツィーはリリアーネのことなどどうでもよかった。そんなことよりも...


 ザワザワ


(あっいた。)


 急に周りが騒ぎ出した視線の方向を見ると相当そこには、神々しいほどに美人な姉妹の姿があった。


  _._._._._._._


(何なのよもうっ!!全然面白くない。)


 リリアーネは光の巫女になれば、もっと周りからちやほやされるものだと思っていた。

 洗礼の儀で突然、光の巫女だと言われて、場が盛り上がり、リリアーネはすごく満足気だった。

 しかし、その後は思ったようには行かず。


(イケメン神官長にイケメンの騎士をつけてもらったのにっ!!なんでこんなに距離置かれんのよ!!)


 リリアーネは自分のことを過剰に愛していた。それ故に、こうも自分の可愛さでちやほやされないことに不満げだった。


(これなら花街で働いてた頃の方がマシよ!!)


 リリアーネは生まれも育ちも花街だった。親は居ず、花街の店の一つに引き取られその風貌から将来有望な禿として、周りからちやほやされていたのだった。


 ザワザワ


 急に周りがざわつき始めて、リリアーネのも不意にその方向を見てしまった。


(誰よあの子...なんか、ムカつくわね。)


 綺麗なワンピースを着て、姉妹仲良く歩く姿。リリアーネの癇に障ることばかりだった。


 不意に、その子の目がこちらを向き微笑まれた気がしてリリアーネは少し後ずさった。


  _._._._._._._


「あっいた...。」


 白銀の髪に、どこか不貞腐れている顔。リリアーネだ。


「誰がいたの?」


「ううん。なんでもない。」


「そう..?、」


(あっ、イアンさんもいる。)


 私は少し微笑んで、リリアーネ達から視線を外して前の行列を見た。


「もっと早くくるべきだったかもね...」


「そうだね。」


 少なく見積ってん前に50人以上はいるであろう状況を見て、私たちはため息を着いた。

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