悪役令嬢は準備をするようです(3)

 ー?周期のことー


「うっ....ひっく...うぅ...」


 黒髪の少女が泣いていた。どうやら転んでしまったらしく、いかにも高級そうなワンピースも土で汚れていた。


「どうしたっ!!何故俺の園庭で泣いているのだ。」


 突然声をかけてきた、黄金の髪の少年の質問に答えることも無く、少女は泣き続ける。


「おいっ!!」


 何も言わない少女に痺れを切らした少年は少女の前にしゃがみ込み、そのまま少女の両頬を持って少年の顔を見させた。

 少女の月のように輝く目と、少年のエメラルドの目が向き合った。


「っ!?大丈夫なのか、君の目から血が...仕方ない。ちょっと失礼するぞ。」


 そう言って、少女の目に少年の手が覆われた。少年の手は暖かく、段々と痛みも無くなって来たのか、少女の涙は少年が手を離す頃には止まっていた。


「....どう、だ?...」


「っ!?!?」


 力を使ったせいか、少年は疲れたようで、その場に倒れ込んだ。


  _._._._._._._


「....うっ..??、ここは..」


 少しして目を覚ました少年の頭は地面ではなかった。柔らかく、暖かい、こんな枕は初めてだと思い目を開けると、先程の少女がこちらを向いて笑っていた。


「すっすまない。」


 まさかと思いすぐさま起き上がった少年は、やはり少女に膝枕をされていたようだった。


「いえ、あなたのしてくれたことに比べればこのくらい、なんてことないわ。それより、あれはなんだったの?」


「あぁ...あれは、神聖術って言うんだ。」


「神聖術...」


「そう、でもこれを使えるのは秘密だ。神聖術は俺の先祖、神聖族が使っていた魔法なんだ。でも今は失われたとされている。だから秘密だ。分かったか?」


「えぇ分かったわ。約束ね。」


 そう言って、少女は少年に小指を差し出した。しかし、少年はそれが何を意味するのか分からなかったようで、それを無視して少女の隣に座り込んだ。


「ちょっとっ!?約束っほら、小指貸して!!」


「えっちょっ...」


 少年は少女に無理やり小指を取られた。

 一方で、少女は指切りが出来たようで満足気だった。


「君...少々強引じゃないか?小指を絡ませるのが約束の合図と教えてくれればいいものの...」


「いいじゃない。これで約束できたんだから。」


 そう言って少女は少年に笑いかけた。少年もその笑顔につられつい笑みがこぼれた。


「そうだな。」


  _._._._._._._


「シャルっぼっとしてないで!!ほら次これとこれ!!」


「はぁ....」


 現在私は完全にソリアの着せ替え人形であった。

 訪れていたのは、ソリアが勤務しているという洋服屋だった。そこそこの人気店らしく、人混みを抜けて来た店内も人が多くいた。


「もう無理...。」


 私はまだ令嬢時代にメイド達の着せ替え人形を経験しているので少し疲れるくらいだが、隣のエンディーはげっそりとしていた。


(顔色悪いから外出ようっていうていで連れて来たはずなのに....さらに悪くなってる気が..)


 私は苦笑いをエンディーに向け、肩に手をぽんと置いた。

 こうして、エンディーも諦めの表情を浮かべた。


  _._._._._._._


 ソリアによって数枚のワンピースを買うことになった。


(もうエナねえちゃんも私もワンピース選ぶ気力もなかったかからね。)


「それにしても、なんで急に服買ったの?」


 帰り際、私はそんな疑問をソリアにぶつけてみた。


「そんなの決まっているじゃない。舐められたら困るからよ。」


(あぁ...なるほど。)


 私はよく分かったが、エンディーはよく分かっていないようだった。


「だからね、一応は平民も受け入れている学校なのよ王立学校は、でもね、貴族が皆あなたたちを受け入れてくれるわけじゃないでしょ?」


「あっ...」


 エンディーもようやく理解出来たようだ。

 王立学校の入試は平民と貴族が交わる初めての場となる者がほとんどだ。平民は貴族の上から目線に、貴族は平民がいるという空気感に慣れない。そのため毎年何かしら事件が起こるのだ。


「だから見た目じゃあ平民だとは分からないように繕わなきゃ、あの学校平民も受け入れてくれるけど、決して匿ってくれる訳じゃない。自分の実力を示して、貴族すらも超える力を見せつける。それくらいじゃないと、貴族と平民は同じ土俵には立てないのよ。」


「「....。」」


 そう改めてソリアに言われて、私もエンディーも息を呑んだ。


(そうだった。昔と同じような立場ではいられない。それに今回は、私が皆を守るって誓いもあるんだ。)


「まっ秘密だけど、一応貴族の血は流れているし、二人ならそんな場所でもやっていけると判断したから私はあなたたちが学校に行くことを許可したのよ!!さっ帰りましょ。今日は我が家の男たちに食事用意してもらってるから。」


 一気に暗い表情になった私たちをソリアは繋いだ手を引っ張って走り出した。


「えっ!!」


「うあっ!!」


 転ばないように何とか足を動かして家に着く頃には、私もエンディーも笑顔で家へ入った。


「「「ただいま!!」」」

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