悪役令嬢は準備をするようです(2)


(やっぱり、仲良くなるには女子だよね...でも、同じクラスで仲良くなれそうな子いたっけな…)


 元公爵令嬢の力をお見せしますっと張り切ったことを言ったものの、私はあまり友人がいなかったことに気がつき、頭を悩ませていた。


(分家の子達は付きまとって嫌だったけどな…それ以外は、、、)


「シャルっ!!手止まってる!!もう試験まで日ないんだからね!!」


 私はエンディーが読んでいた分厚い本を頭にとんっと置かれた。


「いたっ...」


 少し置かれただけでも衝撃がくるその本をどけ、私は机から目を離しエンディーを見た。

 ここ最近、容赦なくソリア達に本をねだり、エンディーの周りには本が溢れていた。


(もう平民とは思えないね。)


 新しく出来た本棚にも本がズラリと並んでいるのを見て、私はそう思った。


「私でさえ試験近ずいてきてドキドキしてるのに、なんかぼーっとしちゃって。大丈夫?」


 そう、王立学校の編入、入学試験までもう二日を切っていた。外を見れば、雪解けを祝うように日が差してよい狩り日和なのだが、ここまでほぼ試験勉強をしていない私を心配してか、ここ最近はずっと部屋に篭ってエンディーと勉強をしていた。


「大丈夫だよもちろん。ほら、過去問もほとんど解けてるじゃんっ!!」


「見せてみ......えぇ!!うそっ.....ほんとだ。あってる...。」


 エンディーが唖然とするのも当たり前のことで、傍から見れば私は一昨日程から試験勉強を始めたようなものだったからだ。


「すごいよシャル!!よしっこの調子で、一緒に首席通過しよ!!」


「うんっ!!もちろん。」


(まぁ、本番の試験では満点取れるんだけどね...)


 前回の周回だけは10歳で死んでしまったが、それ以外の周回ではもう10回も試験を受けていることになっている。


(今までは記憶までは戻ってなかったから、同じとこ間違えるの繰り返していたけど、今周期は記憶が残ってるからね。もう問題解くって言うか暗記物だよ。)


 しかし、王立学校の試験はほぼ一日中試験をやらされる。しかも、その間ずっと席に座りっぱなしなのだ。


「はぁ...」


「ため息禁止って言ったじゃん。もうっ!!」


「.....はい。」


 私は目を擦りながら、シバシバしてくる目を開ける。

 隣を見れば、エンディーは目を輝かせながら、先程とは違う分厚い本を読んでいた。


(あぁ...なんて楽しそうなんだ、)


 最近になって知ったが、エンディーは確かに才能というか、知識欲が凄かった。確かにソリアの言う通り、これは学校に行くべきだと思った。


 ガチャ


「はぁー....あなたたち、ちょっとは外出なさい。もうなんだか顔色が悪いわ....」


 そう言って入って来たのは、ソリアだった。


(母さんナイス!!)


「そうだよねっ!!ほらエナねえちゃん外、行こっ!!!」


 勉強に飽き飽きしていた私はソリアという逃げ口を見つけて、エンディーを引っ張った。


「わかった、わかったから引っ張んな!!」


 これも最近わかったことだが、エンディーは怒ると口が悪くなる。私が強引に引っ張った服を整え、エンディーも立ち上がった。


「ふふっじゃあ行きましょうか。」


  _._._._._._._


 ソリアに連れられ向かったのは、ボシキがある通りだった。

 私とエンディーはソリアに手を繋がれて歩いていた。ソリアは意気揚々として、何か目的があるようだった。


(それにしても...人が多い。)


 令嬢時代は、馬車でここら辺は来ていたし、娼婦時代はそもそも、花街から出られなかったので、未だに人混みを歩くのはなれない。

 いつも、カリーがしっかりと手を繋いでくれているように、今日はソリアが手を繋いでくれている。


「今日はいつもに増して、人が多いわ...エナ、シャル。はぐれないでよ?」


「わかった!!」


「....うん。」


 私はソリアの手をしっかりと握り返した。対して、エンディーはもう既に帰りたそうになっていた。


(大丈夫かな?エナねえちゃん...)


 そんな私の心配は的中してしまい。私とエンディーは今、先程の人通りの多い大通りから外れ、ひっそりとした路地に入ってた。


「あぁ〜もうっ!!なんでこうなっかなぁ...だぁから外なんて出たくなかったのにっ...」


 そして、絶賛エンディーはイライラしていた。


(怖いんだけど...迷子ってことよりこのエナねえちゃんが、、)


 ー数分前ー


「あっ!!」


「エナねえちゃん!!」


 大柄の男とぶつかった衝撃で、エンディーがソリアとの手を話してしまったのを見て、咄嗟に私もソリアから手を離し、エンディーに駆け寄った。

 そのままソリアは人混みに流されていき、私は倒れていたエンディーに手を貸して、とりあえず人混みから離れた。


「エナねえちゃん...」


「いたっ!!」


 エンディーにソリアとどう合流するか話そうと思った瞬間、前を歩いていたエンディーが急にしゃがみ込んだ。


「どうし...っ!怪我してるじゃん!!」


 エンディーの右膝は擦りむけていて、血も出ていた。それだけじゃない、咄嗟についた右手も捻ったようで痛がっていた。


「だいじょう...」


「ぶじゃないよねっ!!えっととりあえず...ララ、水で傷口を洗って!!」


『しょーがないわね!!やってあげるわ』


「ナナとノノでその後を少し乾燥させて!!」


『了解ですっ!!』


『分かったぜ!!』


 そんなこんなで、エンディーの傷を応急処置し、現在はエンディーを歩かせる訳にも行かず、この路地に座ってソリアの迎えを待っていた。


「てかっ寒い!!もうっ!!やっぱ外嫌い。」


 雪が溶け始めたとはいえまだまだ季節は冬、こんな日当たりの悪い路地にいればたしかに寒いのは必然だった。

 ここは逆ギレ状態であるエンディーのためにも、私はまたララとノノに暖かい空気を吹かせて貰った。


「....暑い。」


 エンディーの事でもう一つ知ったことがある。結構なわがまま娘だということだ。今まで隠せて、いいお姉ちゃんぶりであったことに驚きを隠せない。

 私は仕方なく、ノノに温度を調整してもらい、心地いい温度を保って貰った。


 心地よい風に、ここ最近の勉強の疲れもあってか、いつの間にか、エンディーは私に寄りかかって寝てしまった。


(えぇ....)


 コツ...コツ....


 私がますます身動きが取れなくなっているところに何者かの足音が聞こえた。私はエンディーを起こさないようにその足音の方に目をやった。

 そこには謎のローブの男がいた。


(えっ?なんかヤバくない?)


「っえ、うぐっ...」


 私は咄嗟にエンディーを起こそうと肩を叩こうとしたが、いつの間にかローブの男は私の手と口を塞いでいた。


「ううぅ!!うっ!!」


「少し静かにしてくれないか。別に悪いことはしない。」


 ジタバタしようとする私の顔を除き込み、私とそのローブの男は見つめあってしまった。

 私はなぜだか、そのローブの男は危険ではないと思ってしまい、抵抗をやめた。


「....よしっ。いい子だ。」


 まるで幼い子どもを扱うようにそういうと、私の口と手を塞いだ手を退けてくれた。


(何なのこの人...)


「これは...酷い傷だな。しかし、よく手当できている。これは君が?」


 いつの間にか隣のエンディーの膝をその男は見ていた。


(エナねえちゃんが危ない...でも、傷を見ている?この人は医者か何かなの?)


「....はぁ。警戒されているのか。仕方がない。見ていろ。この傷を癒してやる。」


 私がどう答えるか悩んでいるうちに、その男は勝手に話を進め、エンディーの膝に手をついた。


「何をっ!?」


 ピカッ


 その男が傷に触れた瞬間その部分が光出した。


「....まぁこんなものか。」


 エンディーに膝にあった傷はいつの間にか消えていた。


(今の光は......)


「神聖術....」


「君は物知りなようだな。」


 ようやくローブのフードを外したその顔は、茶髪に茶色の瞳と平民ならどこにでも居そうな顔だった。


「あなたは何者ですか。」


 神聖術は神聖族が使っていたとされる魔法のようなものだと昔、教えてもらった事があった。そして、既に失われた魔法だということも。


「俺の名前はウィルだ。君は?」


「....シャロル。」


 少し躊躇われたが、相手に名乗られたのに自分が名乗らないのはどうかと思い、名乗った。


「エナ!!!!シャル!!!!!!」


 ソリアの声が聞こえて不意に上を向くと、上からソリアは降ってきた。


「大丈夫?二人とも!!本当にごめんなさいね。」


 いつの間にか、ウィルと名乗った男は消えていた。


「ん...何?うっさいなぁ〜。」


 何も知らないエンディーは、自分の足が怪我をしていたことも何故か忘れていた。


(一体誰だったの....)


 ソリアに大通りへと引っ張られながら、私は誰もいなくなった、薄暗い路地を見つめるのだった。

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