閑話 精霊王はボッチだそうです


「...はぁ。」


 誰もいない木の上、彼女はため息をつく。

 彼女の傍には誰もいなかった。

 いつの時も、彼女は一人でいた。

 今も街の中央に位置する大樹の上一人街を見ていた。

 彼女の美貌は畏怖ではなく、優しく包み込むようなものだったが、他のものはそれでも彼女と親密になるようなことはなかった。

 ただ一人を除いては。


「ノ〜ンちゃん。久しぶり!!元気にしてた?ノンちゃん人はいいけど、気使いすぎるとこあるから、心配なんだよねぇ。」


「レダ...いやエト、、何でここに?仕事大丈夫なの?」


 ノンことノームルは、唯一の友エトの登場に少々驚くも、冷静に質問した。


「はぁっ全くもう...」


 ガバッとエトはノームルに抱きつき、ノームルの頭を優しく撫でた。


「なっ何??」


「だ〜か〜ら〜。気を使いすぎのノンちゃんを私はよしよししています。」


「......。」


 ノームルは少し抵抗するものの、無理だと分かり大人しく撫でられた。

 こんなに近くに誰かがいるのはもう何年ぶりだろうか。

 もう何千年も生きているのにこんな事は恥ずかしいと思いつつも、ノームルは少し嬉しそうにもう少しこうしていようと思うのだった。



「ねぇノンちゃん。」


「どうしたの?エト。」


 二人並んで枝に座るとエトが話を切り出した。


「私、堕とされるかも。」


「うん...ん?...えっ?それってどういう..」


 流石のノームルもそんなことを言われると思ってはいなかったようで、食い気味で話を聞く。


「あはは。私以上に焦ってどうすんの?別に堕とされたからってどうこうする訳じゃないじゃん。」


「それわかって言っているの?あなたが神を辞めるってことはこの平和が続くとは限らないってことよ。私は戦争なんてもうこりごりよ。守るとしても、精霊うちの子達だけよ。あなたのとこまでは見きれないわ。」


「分かってるよ。そんなこと...。」


 普段の姿では考えられないような悲しい顔で俯くエトに、ノームルはもう何も言えなかった。


「......ねぇ。やっぱり、あの子なの?」


「ん?」


 沈黙が少し続いたあと、ノームルはそう聞いた。


「あの子。シャロルって子、あの子の運命をねじ曲げたせいなんでしょ。その姿だって。」


 エトの姿は大人の姿ではなく少女の姿だった。昔から無理をして力を使うとこうなることをノームルはよく知っていた。


「あの子のせいじゃない。あの子のなの。」


「えっ?」


「ずっと嫌だったんだよ。もう疲れたの。」


「エト...。」


 ノームルは知っていた。

 ずっとエトが苦しんでいることを。

 光の女神レダ・アラクネとして、神の役職をまっとうしてきた。上の指示のまま、反抗なんて一回もしたことが無かった。

 それは規約故かもしれないが、彼女なりの感謝でもあったのだろう。


「私は...というか私たちは神に助けられた。それには感謝してる。でも、ここ数百年辛いことばっかりだよ。上からの指示のまま仕事やってもその影響で人々が苦しんでいても救えない。もうこりごりなんだよ。目の前で人が死んで行くのは...。」


「エト...。」


 ノームルはエトを優しく抱き寄せ肩をさすった。それを助けるように、暖かい空気が二人を包んだ。


 二人はそれ以上言葉を交わすことはなかった。

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