悪役令嬢は記憶と向き合うようです
シャロル(6歳)
「シャル?準備はできた?」
「うん!!もういけるよっおにぃちゃん!」
黒髪の少女はリュックを背負いながら、後ろを振り向きニコッと笑った。
そこには同じく黒髪の少年がいた。
すると、ザザーという音と共に場面が変わった。
「おにぃちゃん!!はやくはやく〜」
「分かったからそんな急ぐなって。」
ザザー
「キャッ!!」
「シャルっっ!!!」
足が滑った少女を少年は庇うようにして、2人は崖から転がり落ちてしまった。
ザザー
「うっううっおにぃ...ちゃん...ひっく...ねぇ、おきてよ~...」
そこには血だらけで横たわる少年を揺らす少女がいた。鬱蒼と生い茂る森の中、少年を助ける手立てはなく、それでなくとも少年はもう手遅れだった。
少女の方も、少年に庇われたとはいえ、泥だらけで擦り傷も多くあった。
「...おにぃちゃ...ん...ごめ...な..さい...。」
やがて泣き疲れたのか、少女もまた少年の隣りに横たわった。
ザザー
「はっ...!!」
気がつくとそこは洗礼式のパレードに戻っていて、少女も少年の姿も見当たらなかった。
『おっかえりー!どうだった??』
(今のは...この子の過去?でも、記憶にはなかったけど...)
『その体のシャロルにとって、トラウマだからね…忘れるっていうのが、その子にとって自分を壊さない方法だったんじゃないかな?』
(そっか...この子はこんな辛い過去を持ってたんだ。)
あの酷い夢遊病もきっとこの過去が原因なのだろう。強い後悔がこの子を動かしているのだ。
(ねぇエト...この夢遊病、この子の後悔は無くせないのかな?)
『う〜...』
エトのこの反応、無いわけでは無さそうだ。
(お願い!!教えて!)
『えー..........も〜わかったよっ教える!でもヒントだけね、あと危険だから絶対一人で解決しようとしちゃダメよっ!!』
エトは諦め、渋々だがヒントをくれた。
(分かった!!ありがとう!)
この子がどんな辛い過去を持っていても、私から見たらこの子は今たくさんの幸せに囲まれているんだ。でも、きっとこの子はそれに気づいていない。いや、気づいていても心の
中のトラウマで、どこかその幸せを消して閉まっているのだろう。
「『答えは記憶の中にある』っか...母さん...」
「ん?どうしたの?」
「ピクニックに行きたいの...」
「ピクニック......いいわ、行きましょピクニック!家族みんなで。」
ソリアは少し悩んでいるようだったが、私の提案を結局のんでくれた。
_._._._._._._
『答えは記憶の中にある』そうエトは言った。つまり、答えはあの現場。お兄ちゃんの亡くなった場所。あの日転げ落ちた場所だ。
これは私の予想だが、夢遊病でこの子が行こうとしている場所もまたその現場なのではないかと思う。
「シャルねぇちゃん手止まってんぞ!!働く者は食うべからずって言うだろっ」
「...っ!あぁごめんごめん、ちょっと考え事してた。あははー」
カリーの声にハッとして、私は作業を続ける。今は焚き火の準備をしている。
貴族の頃にやっていたピクニックとは違うようで、それはほぼ学校の時にやった野外授業のようだった。
「はぁー」
「こ〜ら〜ため息は禁止だよ!!楽しく手動かす。ほらっ薪拾って来たからくべよ。」
永遠と石を重ねているのにも飽き、ため息を着いたところにエンディーが薪拾いから帰ってきた。
「はぁーい。」
飽きているのはカリーも同じようで、エンディーの指示にやる気のないような声で返事をした。
「まったく...しょうがないなーじゃあ1番薪くべた人にはこの子樹液飴あげまーす!!」
「えっ!!」
カリーがすぐ食いつくのに対し、私はポカンとしていた。
「どうしたんだ?嬉しくないのか樹液飴だぜ!!」
「えっと樹液飴って何?」
「ほんっとシャルねぇちゃんなんも知らないのな。いいか樹液飴って言うのは別名...」
「ストップ!!!シャル、樹液飴は樹液飴よ!!とにかく甘いんだから。ささ薪どんどんくべて〜」
エンディーはどこか焦った様子で、カリーの口を塞ぐと、薪をくべ始めた。
「あっエナねぇちゃんずりぃーぞっ!!シャルねぇちゃん俺らも急いでくべるぞ!」
「あっうっうん!!」
エンディーが口止めした樹液飴の別名も気になるものの、私はカリーに腕を取られ、薪をくべていった。
_._._._._._._
「ふ〜...」
薪をくべ終わった私たちは、一緒に樹液飴を舐めていた。エンディーはよく競走をさせるが、大抵の場合で、その景品は全員分あるという落ちが多い。
(それにしても、樹液飴...結構甘くておいしぃ!!)
平民となった今、そう簡単に甘味には出会えない。だから一層美味しく感じた。
「俺もっと探して来る〜!!」
急にカリーはそう言って、森へと駆け出してしまった。
「えっちょっとカリー!!」
私は少し焦って、カリーを呼んだが、聞こえていないのか無視されたのか、こちらを振り向くことはなかった。
「ねぇ...シャル、。」
(あぁ...そういう事か。)
エンディーらしくない神妙な顔に私は納得がいった。
『危険だから絶対に一人で抱え込むなって言ったでしょ!!しっかりエンディーの話聞いてあげて〜』
(りょーかいっ!!)
どうやら気が付かないうちにまた一人で悩んでいたようだ。
「あのね、エナねぇちゃん。私...」
それから私は、断片的に思い出した兄との記憶をしっかり思い出したい事を伝えた。
どこか暖かい風が、私を包んでいる気がした。
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