悪役令嬢は作戦会議をするようです(3)
「つまりは、シャル関わった人物でなくともリリアーネに影響しないものもいたのね。そして、共通してその人物たちには愛する者がいたと...」
私が覚えていることを詳しくエトに話すと、エトはどこか楽しそうに腕を組みながらそうまとめた。
「そうそう...って、私そんな話してなけど??愛する者がいたのあの人たち。」
「そうよ?ほらっ」
パチン
エトが指を鳴らすと共に、人形たちの何体かは新たな運命の糸が結ばれた。
そしていくつかの人形は新たに現れた運命の糸によってあの禍々しいリリアーネとの糸が切れていた。
パンッ
「「あっ」」
いつの間にか、イアンツィーと私の糸も切れており、新しい運命の糸が輝いていた。
「この糸、綺麗。」
「それに暖かいです。」
「そうでしょ。でもね、これが本来あるべき姿なの。暖かく結ばれている。それが運命のはずなの。」
イアンツィーの腕にも運命の糸が輝いて結ばれている。その先にはイアンツィーに似た私と同じくらいの女の子がいた。きっとあれが大事な妹なのだろう。
そして私の糸の先には、
「えっ!?...エリオット殿下?」
「あら?これは面白いことが起きるものね。」
「どっどういうことなの?」
「さぁ?私にもこの先のことは分からないわ。いいじゃない。今回は敵ではないのかもしれないわよ。あっ私そろそろお暇しなきゃ!!じゃね〜。」
「えっ!?ちょっ」
パチン
「行ってしまいましたね...」
こうして今回の作戦会議は、エトが急に姿を消したことで強制終了。
図書館を出る時は、日は図書館に入った時とさほど変わっておらず、私は安心してイアンツィーと別れた。そして、口裏を合わせて置いた通りに、カリーとボシキで待ち合わせた。
「カリー!!」
「シャルねぇちゃん。大丈夫だったか?」
未だにイアンツィーのことを警戒しているカリーは、今日イアンツィーと会うことを反対していた。しかし結局最後には、協力をしてくれ無事にソリアの目を欺き家を出ることができた。
(エリオットとのことは気になるけど…それは話せないしね、)
「うん。大丈夫だよ。カリー、それよりカリーの方はどうだったの?」
「今日は鳥捕まえた。」
そう言って、カリーは結構大きな鳥を袋から取り出した。
(うわ〜...だいぶグロテスク。)
「すっすごいね。」
「あっシャルねぇちゃんこういうの苦手だったな。ごめん。」
カリーはすぐさま鳥を、袋に戻してくれた。
苦手は苦手だが、死体は娼婦時代に街にごろごろいたので、そこまででは無い。
(まっなれることなんてないんだけどね!!)
私はカリーが鳥をしまってくれたことに感謝した。
「よしっ帰ろ。今日はこれ使って豪華にしようぜ。」
「うんっ。」
カリーの出した手を握り締め、私たちは家への帰路を歩いた。その道中、私はやはり、エリオットとの運命が気になってる仕方なかった。
(それにしても、なぜエリオットと私が運命で結ばれているのだろうか?)
私は家に帰ってからもずっとそれが気にかかっていた。
一周目、二周目あたりの私だったら、嬉しがっただろうが、今は別だ。
「シャル?ちょっと手伝ってくれない?」
「.....。」
今の私にとってエリオットは危険人物でしかない。今までの周回が上手くいかなかったのはエリオットとの仲違いが第一の原因で、時にはエリオット自ら私を殺したこともあった。
「シャルっ聞こえてるの?」
「........。」
(エトは敵じゃないかもとか言ったけどさ...)
例えリリアーネとの運命のせいでこれまで幾度となく苦しめられて来たのだとして、私はエリオットを許せるのだろうか。
「シャルっ!!!」
「はいっ!!」
急に耳元で大きな声を出されて、私は座っていた椅子から立ち上がった。
「全く、私は何度も声かけたのにシャル気づかなかいから。」
「母さん...なんか手伝うことあった?」
「何ってシャルそろそろ洗礼の儀じゃない。ほらっさっさと採寸するわよ!!」
そういえばそうだったと今更に思い出し、私はそのままソリアに言われるがまま採寸された。
「私の裁縫能力で誰よりも可愛くしてあげるんだから!!」
「ソリア様、それは違いますぅ。九割ぐらいこのスィーピアが力を貸していますぅ。」
「うっ....」
珍しくソリアはスィーピアの言葉に言い返せないらしく押し黙ってしまった。
「まぁ付与魔法は得意ですけどね。」
「そっそうよ!!シャル。大丈夫よ、裁縫はできないけど、付与魔法でなんかこうキラッキラッにさせるから!!」
(いや、キラキラさせなくてもいいよ...)
「....頑張ってねっ母さん!!」
目立ちたくないなどとは言える訳もなく、私は諦めの笑みと共にソリアを応援した。
_._._._._._._
洗礼の儀への準備は思ったよりも忙しく、おかげでエリオット殿下のことは考えずに済んだ。私は散々スィーピアにどんなドレスにするのかを聞かれ、ソリアはずっと紙に暗号を書いていた。
正直に言おう。
「しんどい...。」
「何か言いましたか?シャル様。」
「いっいえ!!」
これなのだ。スィーピアがすごい形相で、ドレスを作っているのだ。
(変なとこ、母さんに似てるんだね...)
私はそんな、スィーピアと今も隣で暗号を書きながら唸るソリアを見比べた。
ここ一週間、ソリアは仕事には行っていない。なんでも洗礼の儀の衣装作りの為に仕事を休む人は少なくないそうだ。
(ほんっとそんなに悩むんならやんなくていいのに...)
一応公爵令嬢だった私だが、はっきりいってドレス等女性の興味の向くところに私は興味がなかった。公爵令嬢として最低限度な服装、話は仕入れてはいたが、メイドたちに任せていたものだった。
「母さん...そんなに無理に作らなくても...」
私は、さすがにやつれているソリアにそう声をかけた。しかし、その声は届いてはいないようで、顔を覗き込むとその顔は笑っていた。
(そうか...楽しいんだ。)
楽しいならやってもらおうと、私はもうほっておくことにした。
(明日はイアンツィーさんとも会えるよね...最近連絡が取れてないし、作戦会議の続きしたいな〜)
そんな呑気なことを考えながら、ドレスの状況を確認することもなく眠りのついた。
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