悪役令嬢がは学校生活を始めるそうです


「エナ....シャル。行くのね。」


「うん。母さん行ってくる。」


「本当に行くのね。」


「...うん。」


 涙を浮かべながら、エンディーの肩を抑えなかなか行かせてくれないソリア。


「一体、いつまでやる気ですかぁ〜??スィーピアもうあきあきですよぉ〜なんでこうも人は別れを惜しむんですぅ???」


「そっそうよね。スィーピアに祝福を貰ってそろそろ行かなきゃよね。」


 スィーピアの言葉でようやく、感動の場面も終わり、スィーピアに祝福を貰うこととなった。


(一生終わらないかと思ったよ....)


 今日は学校の入学式。学校は全寮制の為、当分はこの家には帰れないのだった。


「さっこの間あげた御守り出して!!」


 私とエンディーは入試の朝に貰ったペンダントを服から取り出した。あの日以降、私もエンディーも肌身離さず、このペンダントを首から下げていた。


「この間は忙しくて、魔法式が途中だったのよ。スィーピア、仕上げるわよ!!」


「はーい」


 私達のペンダントを両手で包んだソリアの手に覆い被さるようにスィーピアが両手を包むと、その手と手の隙間からピンクの輝きが見えた。


「....はいっ終わり!!」


「すごいっ!!今のって真の精霊士だけが使えるっていう、あの精霊付与!!特にこの白に極限まで近い桃色、そして花が氷の中にあるようなこの宝石の中の線!!まさに上級の中の最上級の付与がなされている証拠!!」


 エンディーは興奮気味で、早口でペンダントの説明をしてくれた。すごいまでしかよく聞いていなかった私は、何やらすごい御守りな事がよく分かった。


「大事にするのよ?エト、シャル。私の愛しい娘.....。」


「「うん、大切にするよ。母さん...」」


 ゴーンゴーンゴーン


「三の鐘だっ!!行くよシャル!!」


「うんっ!!」


 取手に手をかけて扉を開けようとした瞬間、その声が部屋に響いた。


「「ちょっと待て!!」」


(今日はうるさいのは母さんだけだと思ったのに.....)


 声の主はもちろん、我が家の男2人、カリーとドムリだった。


「ふわぁ〜スィーピアはもう寝ますぅお休みなさぁい...」


 先程のようにスィーピアが静止してくれる筈もなく、スィーピアはどこかに消えてしった。


「今日はやたらと静かだと思ったら、どうしたの?2人揃って。」


 そろそろ学校に行きたいエンディーは答えを急かすように、目的を聞いた。


「そっその〜...カリー、お前が言えっ!!」


「はぁ!!なんでだよっ、父さんが考えたことだろ?!」


 先程に勢いはどこに行ったのか、2人は何やらごちゃごちゃしはじめた。


「もうっ!!さっさと渡しちゃいなさいよ短剣!!」


「「短剣??」」


 予想外のプレゼントに私もエンディーも首を傾げた。


「なっなんでソリアが知ってるんだ??」


「はぁ〜父さんバレバレだからだろ...ねぇちゃん達が鈍いからたまたまバレなかっただけだって...」


「そっそうなのか、流石ソリアだっ!!」


「もう〜ドムリったら〜♥」


(あーもう無理ー)


 何故かまた両親のラブラブ具合を見せられる私達。もちろん毎度お馴染み、エンディーは....


「早く要件言えやっ!!もう出る時間だっつってんだろ!?」


(はいっブチ切れ頂きました!!)


 私とカリーはそんなブチ切れエンディーとしょんぼりしている両親を見て、クスリと笑った。





「じゃあ、改めまして、」


「「行ってきます。」」


「「「行ってらっしゃい!!」」」


 そんなこんなで、ソリアからはなんかすごいペンダントを貰い。ドムリとカリーからは、なんかすごい素材を使った短剣を貰った。


 綺麗な、あの変な人カイル作ってくれた上質のワンピースを来て、私達はようやく学校を目指すのであった。


 _._._._._._._


「そう言えばシャル、その年の新入生の特待生が、入学式新入生代表挨拶をするらしいわよ?」


「えっ??」


 学校へもう着くという辺りで、私はそうエンディーに告げられた。


(.....えっ?そんな展開あった??)


 今まで新入生代表挨拶と言えばやっていたのはもちろん、あの光の巫女、リリアーネだった。

 私が新入生代表挨拶をするという展開は今まで無かったというのに....


(....えっ??何話す?私....)


「あっほらシャルっ見えてきた。やっぱり13区画うちから2区画学校までは遠いね〜」


 何の言葉もまとまらないまま、私は学校へと着いてしまったのだった。


「はぁ〜...」


「何ため息着いてんの?!こっからが始まりなんだからっ!!嘆いている暇なんてないよっ!!」


「ちょっ!!」


 私の腕を掴んだエンディーは全力ダッシュで校門へと向かい、エンディーに引きずられながら私はこの周期初の登校をするのだった。


(もうどうにでもなれぇえええ!!)


 _._._._._._._


「ふっふふ〜ん♪ふふっふんっふ〜♪♪」


 白を基調とした、清潔な部屋。綺麗な白銀の髪を女性神官に梳かして貰いながら、リリアーネは上機嫌に鼻歌を歌っていた。


 コンコン


柊風しゅうふうでございます。」


「入っていいわよ。」


 入ってきたのはいつもの東国トゥーリの衣装ではなく、王立学校の制服姿の柊風だった。


「どう?この制服、特注して貰ったの!!」


 リリアーネがくるりと回ると、スカートがふわりとうき、中にレースがふんだんに使われていることがよくわかった。その他にも、制服のあちこちにレースや刺繍がされており、元の制服とは大分雰囲気が変わっていた。


「....可愛い...思う。」


 いつものように、淡々と答える柊風だったが、何故かいつもより優しいように聞こえた。


「本当にっ?!やったー!!」


 柊風に褒められて嬉しくなったリリアーネが飛び跳ねて喜んでいた。その様子を見た柊風の口角が少し上がった。


 _._._._._._._


 おかしい....


 何かがおかしかった。神官達を含め、柊風までもが、彼女、リリアーネに好意を抱いている。

 光の巫女とはいえ、その横暴な振る舞いには、神官達も柊も嫌そうな目で見ていたというのに....


「これが、レダ様の言っていた光の巫女の運命への干渉.....」


 大神殿の執務室で、イアンツィーは神官長の仕事を放棄しながら、リリアーネのことを考えていた。


「神官長様!!」


「何事だ?」


 ノックもなしに、執務室に飛び込んできた神官によって考え事は一旦放棄された。




 神官に連れられ、訪れたのは礼拝室。そこには巨大な光の女神、レダ・アラクネの像があったはずだった。


「これは...」


 しかしそこにあったのは、砕かれて粉々になった姿だった。


「突然、ヒビが入り、あっという間にこのようなお姿に...」


 誰かの仕業ではない、この不吉な様子に、イアンツィーは嫌な予感がした。


「シャルさん....」


 そして、1人の少女の身を案じるのだった。

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