前説
亮太たちが控室で準備をしている頃、ネット中継では紹介VTRが終わり、実況と解説が開戦までの場繋ぎトークをしていた。
「さて、あと10分ほどで二回戦の第一戦が始まります。一戦目は東京A代表と福岡A代表が激突。今回の見どころはどこにあるのでしょう?」
解説からの問いかけに中年の男はさして興奮もせずにいつも通り答える。
「そうですね。やはり両グループのリーダーが始祖の分家ということが一つ面白いところですよね。福岡校の大友くんは昨年の選手権は不出場ですが、他の四人は九州各県を勝ち抜いて全国大会に出場している猛者たち。特に、大友くん、吉川くん、武井さんは九州三傑とも呼ばれ、黒田くんが抜けたあと、彼らがその穴埋めをしてくれることを期待している人も多いほどに力を持っています。そこへ、三人の武を支え、サポート出来る二人が加わることで攻撃に特化しながらもバランスの取れた良いチームが完成しました。しかも、サポートに回る二人も中学時代はエース級として活躍していたので、他のチームに比べると攻撃力は頭一つ二つ抜けていると言っていいでしょう」
「確かに! 初戦では黒田如永の後輩として見る人が納得するほどに圧倒的な力で相手チームを撃破しましたね! ただ、対する東京校もあの鈴山雅と館山桔梗を降しての二回戦進出となっています。そこはどのように見ますか?」
「唯我独尊や炎帝を使用した鈴山さんは、おそらく全員の度肝を抜いたことでしょう。かく言う私でさえも、彼女があそこまでの魔法師とは思っていませんでした。体が出来上がっていない分、反動によるダメージは大きいでしょうが、彼女の才能を高く評価したプロチームや組織は相応数いるはず。その鈴山さんを真正面から退けた小笠原くんは、軍事の小笠原という異名が落ちぶれていないことを世間に証明した。
しかしその代償は高く、左腕を失った。大方の予想では同じ学校に通い代表の一人でもある藤堂天音さんに治してもらうのでは、と思っていたでしょうが、当日になっても変わらず」
「アクシデントがあったということでしょうか?」
実況者からの問いかけに解説の中年男は頭を振る。
「というよりは、単純に藤堂さんの魔力量の問題でしょう。治癒魔法はかなり魔力の消耗が激しいと聞きますからね。東京B代表も初戦、二回戦と控えている中で彼を治す余力がなかったと考えるのが妥当ですね。
片腕落としの状態で三傑と戦うのは流石の彼でも厳しいでしょう。だからこそ、他の四人の動きが勝敗を分ける。私としては、この対抗戦でアタッカーとして頭角を表し始めた清水さんに注目したいです」
その後も無言の空気が流れないよう、実況者が上手く質問をしていき場を取り持っていった。
怒涛の時間を過ごしてから30分。入場ゲート前で待機し開門を待つ。
「亮くん、大丈夫?」
「うーん。なんとか? つか、今でも生の雨蛙味って謎なんだが……?」
「まあ、元々パーティー用のやつやしなぁ。大会終わったら、ロシアンルーレット的なやつでみんなで遊ぶか」
「マジの命懸けじゃんか」
「遥ちゃんはあれだよね。思いつきで人殺すよね。——イッタァ」
開戦直前にも関わらず、全く緊張感のない王子と遥。いつも通りと言えばいつも通りなので、それが雪彌や優衣にも良い感じに伝播して緊張をほぐしていた。
「さて、始まるぞ。二回戦だ」
「やったるかぁ!」「うっしゃー」「うっし」「よしっ」
腕を回しながら気合いを入れる遥や服を撫でる程度で済ませる優衣。各々、気持ちの入れ方は違えど、強豪福岡校と相対すに充分な心持ちだ。
そして、亮太の掛け声通り、開戦の合図と友に、ゲートが開かれた。
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