第31話 学内戦に向けて
全ての授業が終わってげんなりげっそりしている遥と王子を引き連れて、図書館へ足を進めた。図書室ではなく図書館なのは、どこかの棟に入っているのではなく、専用の建物があるからだ。地上三階、地下二階。高校生にはもったいないほどに立派なものだ。
五人は自動扉から入館して端末をゲートにかざす。
「PCってどこにあんだ?」
先頭を行くクールな少年はキョロキョロあたりを見回し進む方向に迷っていた。
「地下一階にあるよ。階段こっちにあるから行こ」
今までになくリーダーシップを発揮する王子に連れられて遥も亮太も無言で後ろに続いた。地下図書館は陽の光が届かず照明も強くないでの薄暗く、足元もおぼつかない。その中でも一際光の集まるスポットにPCが二十台近く並んでいた。
一番端のテーブルについて、王子が起動させる。その彼を取り囲むように遥と優衣がキャスター付きの椅子に座って後ろから画面を覗き込み、亮太とユキヤは立って王子の頭の上から画面を見下ろす。
「これが去年の映像だね。準決で負けてるからそこまでしかないけど、どれ見ようか? 準決かな? 負けた試合からだと対処法見えるかも?」
手際良く操作して目的の動画を探し出した王子は亮太に顔を向けた。大抵の方針を決定するのは遥だが、その彼女も一目置く、意識する少年がこのチームのリーダーだと無意識に思っていた。
「見るのは初戦のだけでいい。欲しいのはメンバーの得意魔法と実力だ。ちゃんと見てそれぞれ意見を出し合おう」
動画を再生して皆が注視する。
対戦相手は二年生のC組だ。決して格下などではない。それでも圧倒的な攻めで瞬く間に先輩チームを蹂躙する。
そこには、ルールのあるスポーツはなく、純粋な暴力だけが存在していた。
最後まで見終わって王子が固唾を飲んだ。
「やっぱり結構強そう。僕たちやばくない?」
「だよな……。どうすんだよ亮太。これフルボッコにされて恥晒すことになんぞ」
王子が亮太に視線と意見を求めるので雪彌も自然と彼に要求した。優衣も相手チームの実力に不安の色を隠せない。だが、それを遮るように関西少女があっけらかんと口を挟んだ。
「そうかぁ? うちは思ったより大したことないと思ったけど」
「あぁ? どこがだよ。お前と亮太の個の力じゃ良い勝負出来るかもだけど、チームとしては明らかに俺らが劣ってんだろ。まあ……俺らのせいだけどよ。亮太はどう思ってんだよ」
最初は勢いよく反論したが徐々に減じて、停止した画面をなおも見続ける少年へ再び考えを求めた。
亮太は顎に手を当て神妙な面持ちのまま、止まった映像に目をやる。
「遥よく解ってんじゃん。こいつらは俺らの敵じゃねぇよ」
「せよろ!」
「お前まで……」
双眸の奥がキラッと光る遥をさらに調子付かせる亮太に、クールな少年は冷めた瞳で恨めしそうにする。
「雪彌の言う通りチームとして戦えば俺らが不利だけど、そもそも一年と二年のチームじゃ組織力に差があって当然だ。こいつらの場合、たぶん高校以前からの仲間だろうから、ここまで上手く事を運べてるんだ。わざわざ相手の土俵で戦う必要はない」
「どういうこと?」
膝の上に置いた手を揉む優衣を、安心させるためにも少年はもう少し詳しく説明する。
「個々で勝てるんなら個人戦をすればいい」
「団体戦で個人戦?」
「そう。俺が二人、遥が一人、雪彌が一人、優衣と王子で一人を相手にする。雪彌と王子、優衣は勝つ必要はない。その場から動かないように引きつけておくのが三人の役目。俺か遥が敵を撃破してフラッグを獲りに行く。相手チームを再起不能にさせるか、敵陣地にあるフラッグを獲れば勝ちが決まるんだ。ならそのやり方で行けばいい」
「確かにそれなら勝機があるのかもな。だが勝ち抜くのは難しいだろう。遥が目指してんのは対抗戦と国私戦だろ。足を引っ張ってる奴が言うことじゃねえが」
ずっとネガティブ思考な雪彌にちょっとだけ苛立ちを感じて関西少女は機嫌が悪くなった。
「対抗戦までにチーム力上げればいいだけやん! 学内戦の決勝は六月末やし時間はある。いつまでもウジウジせんで亮に鍛えてもらえばええやんか!」
「……そう、だな。やるしかねえよな。もうトーナメントも出ちまったし。……やるしかねえ。やるしかねえよ」
遥の圧に屈したというよりも無理矢理自らを追い込んでいく雪彌。顔つきも男の子から男に変わりつつあった。鼻から吸った息を口から盛大に出した。その強さが少年の覚悟の強さを示しているかのようだ。
「ええ顔になったやん。それでええんよ。どのみち崖っぷちどころか崖から落ちてる途中の身分や。割り切るしかないやろ」
「遥ちゃんは割り切り過ぎだけどね。てゆか、考えなし? アイタァ」
余計なことを言う王子を容赦無く遥の鉄拳が襲った。拳を握りしめて遥は王子を睨みつける。
「次余計なこと言うたら腹にワンパン喰らわす」
「ワンパン? 僕のお腹はたったそれだけでダメージを負うほど甘くないよ」
ちょっとキレ気味の少女をキメ顔で挑発する王子。当の本人に挑発している意識があるかは不明だが、彼女の血管が軽く浮き出そうなところを見るとちゃんと刺激は与えられているようだ。
だが、静かな図書館で王子が一方的に殴られるのはまずいので話の方向性を無理くり変える。
「とりあえずアリーナ行こうぜ。チーム力高めるのはひとまず置いといて三人の実力伸ばさねぇと話になんね」
「よしっ。亮太、相手してくれ」
クールな少年は手のひらに拳を当て闘志を漲らせる。
そして、遥は自身の標的に敵意を向ける。
「ほな、王子の相手はうちやな」
「えっ? いや、僕は優衣ちゃんと一緒に訓練するから。遥ちゃんは亮太くんと雪彌くんの方に混ざりなよ。うん。そっちの方がいいよ」
実際に殴られる危険性が最高潮に達して王子は脂汗を滲ませていた。どうしようもないほどに挙動が不審だ。
殴られるのが嫌なら最初から大人しくしておけばいいものを。
その日の小アリーナでは、王子が殴られる鈍い音と嘆き声が永遠と響いた。
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