第30話 トーナメントの公表と初戦の相手

 学内戦のトーナメント表は生徒全員が閲覧できるスクールサイトと職員室前にある電子掲示板に表示される。

 ゴールデンウィーク明けのこの日、午前七時に公示されるとの予告があったためか、職員室の前には授業開始までおおよそ二時間はあるというのに多くの生徒が待機していた。


「端末でも見れるのになんでこんなに人いんねん」


 人の多さにすっかり嫌気がさした遥は、不愉快そうな表情を見せた。


「そういう俺たちも集まってるけどな」


 言わなくてもいい一言を雪彌が付け加えて、関西少女に睨まれる。


「どうしよう。教室に行って端末で見るかい? ここじゃ先輩たちがいて僕らが見れるようになるまでかなり時間かかると思うけど」


 王子は亮太に意見を求める視線を送る。が、ここでの行動指針を決めるのは彼ではなく、彼女だ。少年は関西少女へ、自身に送られる視線を流した。


「せやな。ぶっちゃけみんなで見られたら場所はどこでもええし」


 奔放な言葉で友人四人の行動が決まった。

 学内戦に関係ないと言っても過言ではないF組は、他のクラスと違って無人だった。

 隣のクラスからは話し声が聞こえるがここは本当に寂しい。


「誰もいねえな」

「このクラスで参加してんのうちらくらいやろ」


 力のない表情でクールな少年が呟くと、遥は、最初から分かっていたと言いたげに教室内を一瞥してそっけなく対応した。


「みんな、もうトーナメント発表されてる」


 浮かない顔で優衣が自身の端末画面を全員に向けた。四人ともにその画面を注視する。そしてすぐに寡黙な少女の心配事が何なのか判別した。


「マジか」「これは、流石にどうだろうか」「おもろいやん」「ま、どうせやる相手だ」


 雪彌、王子、遥、亮太は思い思いに発した。そこには未来への絶望と熱望があった。

一,二年生トーナメントの参加は全五十八チーム。それだけのチームがいて、亮太たちの初戦の相手は二年生の主席チームだった。

 トーナメントを見る限り、怜のチームは反対側の櫓。当たるとしたら決勝か。チームメンバーは藤堂天音に萩野、倉本、高木の男子三人。顔は知らないがラウンジで会った時にいた中の三人だろう。どのような魔法師であっても単体では眼中にないが、怜が纏めればどう化けるのか楽しみなところだ。


 それよりもまずは初戦の相手。全くデータを持っていない相手とどうやって戦うか。雪彌たち他の四人をどうやって使うか。全ては采配にかかっている。


「これやばくない? 初戦が先輩で首席なのに、僕たち……開幕戦なんだけど」

「一番注目集まるやん。最高やんか」


 楽天家なのか目立ちたがり屋なのか。関西少女の場合は両方なのかもしれないが、表情の固い三人とは明らかに違って朗らかだ。文字通り一点の曇りもない。


「負けたらマジで恥晒すぞ」


 割とネガティブな雪彌は僅かに青白くなった顔を遥に向けた。


「雪ちゃんはほんまマイナス思考やな。とりあえず相手の研究やってからやろ。データとかないんか?」

「図書館のアーカイブにここ三年の映像があるはずだけど」

「王子、色んなこと知ってんな」

「みんなが知らなさ過ぎだよ」


 弟たちの世話を焼く兄のように王子は肩をすくめた。


「じゃあ放課後、みんなで図書館に行く? 対策は早い方がいいよね?」


 寡黙な少女は大人しく全員に提案しつつも亮太の顔色を窺っていた。


「だな。全員予定空いてんだろ?」


 特に否定の声もなく、放課後の予定が決定した。そして優衣だけが微笑んでいた。

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