叛逆の王様
青井 真
第0話 プロローグ
一八七七年。ボリビアで二千年以上前のものとされる遺跡が見つかった。
中でも目を引いたのは遺跡の壁に描かれた絵だ。摩訶不思議な力を使う人間と全身を黒く塗り潰された人型が争うもの。
研究者に曰く、これは人類の未来であると。いずれ人類は滅亡し、これはその過程を描いているのだと。
だが、あくまでも大昔の宗教的な観念から創作されたもので、いわゆる都市伝説に近い。到底、真に受けることもなく発見者も学者たちもこの遺跡の存在も壁画の意味を忘れていった。
遺跡発見から数十年後、東の島国で魔核なるものが密かに開発された。人に埋め込むことで超常の力を発揮出来る優れもの。人類の歩みを進める歴史的な開発だった。
さらに五十年と少し。遂に、完璧な超人類が生まれた。
俗に魔法と称される、一昔前なら摩訶不思議な力とされるものを操る人間だ。
この時すでに、遺跡発見から百年近く経っていた。遺跡の存在を知る者はいない。重要視すらされない壁画は、歴史の彼方に消え去った。
時代は、魔法誕生から百年。超常が日常になった世界。
魔法至上主義とも言える世の中。
彼らの頂点に立つ七人の王様と追随する力を持つ十人の魔法師。そして、魔法を生み出した始祖の末裔たち。
さまざまな勢力が蠢くこの星で、新たな火種が燻り始める。
誰にも見られないところで、しかし、全てを燃やし尽くしそうなその灼熱は徐々に広がっていく。
魔法が生まれた小さな国を中心に。世界は激動の時代を迎える。
◇◇◇
大西洋 海上
五万トン規模の貨物船。その甲板に十三人の男女が膝をついて並ばされていた。
彼らは後ろで手を縛られて、危機的状況の中を逃げ出すことは不可能。
結果、十二人が頭を撃ち抜かれて絶命。その前にも三十人以上が殺されている。
最後に残った赤毛の女に銃を向ける少年の手によって。
そして、少年を支えると誓った大人たちの手によって。数多くの旧友が葬られた。
大きな組織の内部分裂が起こって三ヶ月。ようやっと、最後の日を迎えた。
彼女の後頭部に銃を突きつける少年は、全くの無表情。
「こんな結果になって残念だよ。アレクシス」
「本当ですね。てっきり、若の子供を見てから死ぬと思っていたので。一緒にお酒も飲めずにお別れになるなんて、思ってませんでしたよ」
心臓が止まる最後の数分だというのに、アレクシスが見せる姿は余裕の一言に尽きた。
「俺も、お前とはずっと一緒に居たかったよ。ホント」
「若。最後は目を見て話してもいいですか?」
「……ああ、最後はちゃんと目を見て終わらせよう」
アレクシスは立って、微笑んだ。
「私から出来る最後の忠告です。敵にはもっと警戒してください。若が進む道は、一つのミスで命を落とします。若だけでなく仲間の命も危険に晒されます。ですから、敵に情けは無用です。こんな風に、敵の要望を聞き入れてはダメですよ」
彼女は縛られていた両手を顔の前でひらひら見せた。
驚きのあまり一人も動けない。反応が遅れた隙に、アレクシスは何もない手のひらに簡易ナイフを生成、少年を斬りつけた。
「——ッ‼︎」
「若‼︎」
左の上腕二頭筋を深く傷つけられた少年は、思わず片膝をついた。メンバーが惚けている間に、アレクシスは彼ら彼女らの隙間をすり抜けて甲板の端を目指した。
そのまま海に飛び込むつもりだと全員悟った。それでも、簡単に体は動かない。皆、迷ってしまった。ボスである少年と逃亡を図る元同僚。どちらを優先すべきか、ほんの一瞬だけ判断が遅れた。
たったそれのみで、赤毛の彼女は半分の距離を疾走していた。
「俺はいい! 殺せ!」
少年は拳銃をアレクシスの背中に向けた。
三回引き金を引いて、一発目が右肩を貫通し、二発目が頭部の横を通り抜けた。三発目は微調整して発射。太腿を掠めた。いずれも、足を止めるには至らない。
拳銃を持つ部下たちが各々抜いて、少年に続いた。魔法を撃とうにも、船を無闇に傷つけるわけにはいかなかった。
それに拳銃でも充分殺せる。
アレクシスの体には十七の穴が空いた。掠めたものを含めれば、その数、優に倍。
彼女はなんとか手すりに辿り着いたが、もうまともには動けそうにない。それでも最後の気力を振り絞って手すりを越える。
指一本動かせずに何十メートルも下の海へ落下した。
「どうしますか?」
「あの状態で落ちて助かるとは思えん。アレクシスは死んだ。次だ」
ヘリコプターのプロペラ音と小型船のエンジン音が彼らを刺激する。
今日、自らを襲わせるように計画していた。予定通りテロリストが大金と大量の武器を奪いに来た。
少年は変わらず冷酷に冷たく言い放つ。
「皆殺しにしろ。一人も生かして返すなよ」
悪党を呼び込み全滅させる。一人として証人は逃さない。
誰かに生きられて、証言されれば困るのだ。
「我々は、アレクシス・スチュワートを殺していない」
テロリストにそう言われると不都合。
アレクシスに弾を撃ち込んだ少年にとっては。
テロリスト襲撃の十二時間後。世界的に有名な日本の一族から声明が出された。
北条分家小笠原、その当主の名において、こう記された文書が公開される。
昨日、大西洋海上において小笠原家が所有する貨物船がテロリストに襲われた。
商団を任せていた長男の龍人が防衛時に死亡。その他、アレクシス・スチュワートを始め、数十余名の魔法師が激戦の末に命を落とした。
このことにより、団長代理・小笠原家次期当主として、次男の亮太を指名する。
さらに、亮太が成人、もしくは団長代理の任を解くまで、団長代理補佐として、ピーター・スペクターと周
以上
この文書は世間を震撼させる重大ニュース、とまではならない。
一般人からすれば有力一族の長男とその部下が死んだに過ぎないし、自分の生活にさしたる影響を受けないからだ。
ただ見方を変える者からすれば、一つの一族が滅亡に近づいたことを意味する出来事でもあった。
小笠原商団は、団長である小笠原龍人を失う三ヶ月前に副団長であり、龍人の妻であった菅原優梨をも失っている。
始祖の末裔、北条家を支える二つの家。小笠原と菅原。共に、世界トップレベルの魔法師を抱えながらも短期間のうちに失った代償はあまりにも大きかった。
たった二人の死が、一族の力を明らかに衰えさせた。
見方を変える者たちからすれば、彼らの意見は確実に一致していた。
両家に残されたのは十二歳の子供たちだけ。その子らが育たなければ、北条は滅亡する。育っても、北条の弱体化は免れない。
ただしそれは、あくまでも周囲の見方に過ぎない。
小笠原亮太。齢十二にして、苦楽を共にした家族とも呼べる仲間を躊躇なく殺せるこの少年。
父親でさえも少年の本質を見誤っている。
世界の多くが知らないうちに、世界を呑み込む力を付ける。
この世の頂点に君臨する魔法師の王にすら届き得る、怪物と成る。
————————————————————————————————————
【読者の皆様へ】
プロローグを読んで頂き誠にありがとうございます。
「面白い!」「面白くなりそう!」と思って頂けましたら、目次の下にありますレビューから★を付けて頂けますと大変嬉しく思います。
☆☆☆を★★★にして頂けるとこの上なく嬉しいです!
もちろん★★や★でも最高であります!
今後ともお付き合い頂けますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます