VS 大阪A代表
V I Pの楽観的な第三者とは対照的に重鈍な空気に置かれたのは一部の観客席。東京校のAクラスが陣取る場所だ。
「ねぇ、怜。リョータくんのあれ、手抜いてるだけだよね? 私たちの時みたいに……」
アイドル少女の綺麗な瞳に映るのは、絶対的な強さを持つと思っていた亮太が関西の少女に押されている景色。少年の攻撃は全て防がれるか躱されるか。一方、雅の攻撃はその悉くが命中していた。
顔には血が滲んで体の内側にもダメージが蓄積されている。
不安げな天音に天才少女は透き通った声音で答える。その声は周りの喧騒を突き抜けて高木たち男子三人にも自然と届いた。
「残念だけど全力だよ。単純に相手が強い」
(まあ全力って言っても制約があっての全力だけど)
「それにしても“唯我独尊”を使える高校生が柚葉ちゃん以外にいるなんてね」
「負けるのかな? リョータくん」
「どうだろう。……あいつが負けるところなんて想像出来ないけど」
形勢は不利。それでも怜には、亮太が膝を折る姿は微塵も想像出来なかった。彼女の知る幼馴染みはいつだって余裕な態度を取る強者だった。
大好きで誰よりも才能を持った姉が認めた天才。
それが小笠原亮太だ。
徐々に彼の力が世間に明かされつつも、その悪魔的な戦いの才能は未だ認知されていない。
今日、それが明かされずともその片鱗は目の当たりにするはずだ。誰が、どこまで、察知出来るのか分からないけれど、必ず見えるはずだ。
悪魔の一端が。
◇◇◇
やべー。超つよ。全然捉えられん。
「ケホッ」
口の中に溜まった血を吐き出す。一定時間、一方的にやられ続けたが、それがここでピタリと止んだ。
理由は一目瞭然だ。殴られた亮太が血を吐くのは当然。しかし、一度も攻撃を受けていない雅の口からも血が垂れていた。
「大丈夫か?」
「……ジブンの心配しときいや。負けそうな自覚ある?」
「そうか? 追い詰められてるのは鈴山さんの方に見えるけど?」
雅のは強がりでも亮太のは強がりではない。
唯我独尊は完成された育成方法を基にしてまともに使える魔法だ。その基礎を会得していない少女が使えば、辿る過程は一つしかない。
内側から壊れていく。
急激に増えた魔力に体が追いつかない。それ用に特訓でもしておけばある程度耐えられるだろうが、彼女はその準備を怠っていた。いや、そこまで手が回っていなかった。
だから少し動いただけで体が悲鳴を上げ出したのだ。
ここで叩く。これ以上長引かせれば、例え命が残ったとしても日常生活に支障をきたす後遺症が付いてくるかもしれない。
そうはさせない。
必ず、止める。
「しッ。やるか」
気合いを入れた刹那、雅の十メートル前から亮太が消えた。
一秒にも満たない直後、眼前に少年の顔が。
亮太は手加減なく腕を振り抜いた。いつもであればこれだけで勝敗が決していたであろう。それほどの速さと威力を兼ね備えていた。
だが、亮太の拳に残った感触は人間の柔肉ではなく鋼のような硬さだった。
その感触は紛れもなく、魔装で完璧に防がれた時のそれだ。
「チッ」
舌打ちをしながらも上空へ飛ばした雅を追って加速。追いつくと躊躇いなく踵落としをお見舞いする。雅はかろうじて両腕を顔の前で交差させ、防御に成功。
だが威力までは殺せずに大音を立てて地面へ激突した。
一気に攻め手が変わったことで観客席は大盛り上がり。テンションが上がって席から立つ者も出始める。
対照的に当事者二人の表情は険しい。限界突破した雅は圧倒出来ずに苦しみ。亮太は決め手に欠けて攻めきれない。
冷静になってこの状況を見れば、世界十傑が操る魔法を相手に身体強化などの単純な魔法で拮抗している亮太は異常。けれど、あくまでも子供同士のスポーツという前提意識があるからか、そこに気付く者は少ない。
……やっぱ、強い奴壊さずに倒すのってむずいなぁ。天音に治してもわらねえとダメかな。魔法師として死なれたら流石の天音でも無理だろうし、体だけ粉砕するか。
上空から落下した雅を見下ろした亮太は浮遊を解いて、重力に従う。ついでに落下速度をつけて雅の右足を狙う。体重およそ六十の男子に数十メートル上から激突されれば、ひとたまりもない。
「——ッッッ‼︎」
魔装が充分でなかった右足は、膝から下の骨が粉々に砕け散った。にも関わらず、声を上げないのは意地か。
何にしても、まだ倒れない。
今度は腹部へ拳を減り込ませようとする。
骨を砕かれても腹部の魔装は完璧だった。おそらく頭部も守っているはずだ。この後に及んでも冷静に防御出来ている彼女は、やはり世代トップクラスの戦闘スキルを習得している。
亮太は雅の魔装が砕けるまで何発でも打ち込むつもりだった。
だが、腕を引いたところを狙って、体を捻った雅はその勢いを利用して健全な左足で少年へ反撃に転じた。
ダメージ自体は軽微。されど防御に回されたおかげで攻撃のリズムが崩れる。
雅は手から火炎を出して少年を後退させた。
距離が空いたところで一息お互いについて見合った。
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