第18話 クールな少年とキメ顔王子

 二日目。教室に入ると遥も優衣もすでに来ていたので挨拶を交わし、自然と会話に入る。

 ホームルームを終えてから更衣室に移動し体操服に着替えた。


 この日は朝から男女合同の体力測定。と言っても普通の測定ではなく自身が得意とする魔法を使用しての測定だ。

 例えば亮太なら、加速魔法を得意としているのでそれを五十メートル走で使用、と言った具合である。

 ただ残念な事実もある。A組であれば好記録も期待出来るのだろうが、F組ではただの測定とあまり変わらない。


 亮太は手を抜いて五十メートルを約四秒。だが遥も優衣も約七秒と九秒といった感じで驚くほどの結果は出ない。優衣に至っては魔法を使わない学生と同じだ。遥も魔法を使う素振りは見せないが元々の身体能力が高いのだろう。F組女子の中ではトップの成績で種目によっては男子とも張り合えるくらいだ。


 その中で目立っていた生徒は二人。遠坂とおさか雪彌ゆきや大江おおえ王子おうじという生徒だ。

 自己紹介時の印象では遠坂がクールなイケメンで大江の方は、なんか変、という感じだった。

 遠坂は肉体強化系の魔法を得意としているらしく殆どの種目で組内一位。大江の方は成績自体目立つほど良いわけではないのだが、自己紹介の「王子って呼んで!」とかなり特徴的な挨拶だったので注目を集めていた。

 まあ本名が王子なので紹介としては普通とも思えるのだけれど、自己陶酔型の人というのが全面に出ていたのでそれが原因だろう。実際この測定中も何故かキメ顔で行っている。


 それぞれの特徴が出たり出なかったりした体力測定も終わりを迎え、男子同士少しだけ仲良くなれた気がした。

 特に遠坂は亮太の加速魔法が気になったようで測定中一緒に行動しお互いに魔法使用時のコツなどを教え合った。大江と言えば贅肉をふんだんに揺らして全ての競技で最下位を取った。

 午前中は体力測定が大幅を占め、その他の時間は講義や実技授業が行われたが、これらの授業も一年間のスケジュールなどオリエンテーションだけで終了した。




 入学から一週間と少し。その頃になればクラス内も幾つかのグループに分かれていた。

 亮太は最初に仲良くなった遥と優衣、体力測定で親しくなった雪彌、それに加えて不思議なことに王子も一緒だった。席順からして亮太の前で左隣が優衣なので自然な流れとも言えるが。


 魔法科専門の高校と言っても現文や数学などの授業は通常通りあり、今日の午前も四限全て魔法とは無関係の授業ばかりだった。

 それが遥にとっては苦痛だったのか、見て分かるほどに気力がなくなっていた。


「はあ〜。しんどいわ。この学校で古典する羽目になるやなんて……」


 担当教諭が退室するなり腕を上に伸ばし固まった体をほぐす。そこへ雪彌が近づきながら「最初から分かっていたことだろう」と冷たくあしらった。


「いや、そら雪ちゃんは万能型やからな。そうやろうけど……」


 関西少女は不満気に雪彌を見たが、彼はその程度のことはどうでもいいみたいで遥以上の不満を返した。


「雪ちゃん言うな」

「ええやん雪ちゃん。キュートやで?」

「キュートさはいらねえよ」


 この二人のやり取りは毎日のように繰り返され、雪彌の威圧的な眼に遥が怯まないので最早雪彌が引かない限り終わらない気がする。優衣も当初は仲裁に入ろうと試みながら諦める、の繰り返しだった。それでもこの二日は微笑ましい光景を見るかのような眼をしている。


「俺も良いと思うけどな、雪ちゃん」

「せやろ!」


 亮太が遥の肩を持つ発言をしたことで雪彌は切れ長の双眸を広げ友を見た。その眼からは、この野郎、とでも言いたげな思いが読み取れた。

 遥はそんな雪彌の感情に気づかず続けた。


「雪ちゃんに足りへんのは愛嬌やからな。雪ちゃん呼びで愛嬌は付くと思うで」


 それが決定打だった。雪彌の顔から見る見る反抗心が消え去っていく。

 そして更なる問題を平気な顔して放り込んでくる。

 日課のように昼は学内のコンビニで弁当を買って教室で食べるというのがF組の実状だ。肩身の狭いF組の連中はコンビニで買い、教室か敷地内のどこかで食べていた。だが、遥のとんでもない一言で穏やかな昼休みは明日以降にお預けになりそうだ。


「今日はラウンジで食べよ」


 たったそれだけで亮太以外の三人の動きが止まった。


「……あそこは上位クラス専用だったはずだけど」

「そんな校則ないやろ、王子」


 最初に呪縛が解けた王子が関西少女に提言するも一蹴された。


「確かに俺らが利用出来ないって校則はないけど余計な諍いを生むだけじゃないか?」

「そうかもやけど、A組の顔色窺って五年間生活するつもりなん? 間違ってるのはうちらやなくて周りやろ? 亮も言うてたやん。肩書きなんてただのゴミやて」

「まあ、言ったけど」

「せやろ!」

「は? これ行く流れ?」

「行くで〜!」

「マジかよ」


 雪彌の最後の呟きは虚しく宙に霧散した。

 方針が決まり、あまり乗り気ではない雪彌、王子、優衣を引き連れて関西少女は意気揚々と目的地へ向かった。

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