第7話 胎動(7)
集合時間よりも前に食堂に商団のメンバーが勢揃いした。少年は食堂に繋がる廊下を特に急ぎもせずに歩いていた。でもそれは部下を待たせることを当たり前だと思っているわけではなく、まだ揃っていないと考えていたから。
だから扉の前にクレア、ルドミラ、セギョン、ピーター、ウィリアムの五人が控えていたことに驚いた。クレア、セギョン、ピーターは優梨の最側近。ルドミラとウィリアムは少年が集めた中で一番古いメンバー。つまり、この五人が少年の側近で商団の幹部とも言えるメンバーたちだ。
その彼らが待機しているのは中に全メンバーがすでに揃っていることを意味していた。
「結構待たせた?」
「先程集まったばかりです」
代表してクレアが答えて、ウィリアムとセギョンが両開きの扉を開けた。
少年を先頭に六人が人垣の中心を進む。百人近い部下たちが頭を下げ、ボスを出迎えた。
皆を視界に収めた少年は軽く息を吸う。
「今日、北条本家から連絡が来た。俺は今年中にこの商団を離れ、日本に帰国する」
離団を聞いてもメンバーの顔に驚きはない。クレアが予想していたように誰もがこうなる未来を予測していたから。けれど、このあと少年が部下たちをどう遇するか想像出来る者はいない。
「俺たちはいよいよ第二段階に入るということだ。これまでも〈光の導き手〉を始めとした敵対組織との争いで、兄妹や友を亡くした者もいる。辛い時期を迎えながら、良く支えてくれた。俺が日本で高校生をやっている五年、お前たちがどうするかは自由だ。時期団長となるであろう叔父の下で働くも良し、ゆっくりするのもいいだろう。おそらく、これからの五年が唯一の休息になる」
話の途中で部下の一人が手を挙げた。少年が目線だけで質問することを許可する。
「若と一緒に日本へ行くのはありですか?」
「ありだけど給料は出ないよ? 仕事ないし」
「一緒に行って良いんですかっ⁉︎」
「うん。いいよ」
誰よりも早く反応したのはクレアだった。彼女たちの顔を見るに共に過ごすのはしばらくお預けだと思っていたらしい。
てっきりクレアやルドミラは勝手についてくると思い込んでいたので彼女の反応は意外だった。
「じゃあ私は若と一緒に日本に行きます!」
「了解。じゃあ他にも一緒に行く奴、手挙げて」
……全員かよ。
「日本に来たら休めなくなるかもよ?」
日本は魔法技術が最も進んだ国。大戦で敗北したにも関わらず、今となっては小国ながら世界最強の国として通っている。ゆえに敵も多い。特に大中華李王朝とは開戦間近とも噂されるほどに関係が悪化している。その時期に日本に来れば、目的とは関わりのない争いに巻き込まれるかもしれない。
そこまで分かっていながら団員たちの口元は緩み、双眸には光が灯っていた。言葉にせずとも彼らの態度が雄弁に物語っていた。
上等だ、と。
「みんな、物好きだね」
ぽりぽり頭を掻く少年は明らかに照れていた。彼が思うよりも皆は慕っていた。お金や慣れた仕事ではなく、仕えると決めた主人に全てを捧げると迷いなく選択した。
少年はそれがどうしようもなく嬉しくて、でもその感情を素直に全部出せるほど、子供でも大人でもなかった。
その姿を見たメンバーはもれなくはにかんで、暖かい空気に包まれる。
「じゃあ、これからもよろしくな!」
「「「「「はい!」」」」」
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