VS 大阪A代表

 片腕を失った亮太がもう一つの戦場に辿り着くと意外にも館山桔梗の見た目はボロボロだった。もちろん前衛を務める雪彌も血に塗れていて、遥も弓を引く右手から鮮血が滴り落ちていた。相当苦労したようだ。


 加勢するつもりで来たが、ここで手を出せば二人の成長を妨げるのは明らか。

 優衣も優衣で魔銃でサポートを続けていたせいか、かなり消耗しているように見える。肩で息をするほどに疲れているところを推察するに、彼女のサポートあってこその奮戦。


 三人プラス館山に対して、王子は開戦前と変化を探す方が難しい。参戦したのか? と問い詰めたくなるほどに疲れを感じさせていない。

 その不気味さは館山桔梗の精神を追い詰めている要因の一つかもしれない。王子がちゃんと参戦していたらの話だが。


「……亮太……お前、それ大丈夫か?」

「ああ。俺のことは気にせず続けてくれ」


 接近して来た亮太に気づいた雪彌は友の姿を見て目を見張ったが、一瞬で冷静さを取り戻した。偏に余裕がないのもあるが、どんな状態でも亮太の強さを信じているゆえの反応だろう。


「てっきり参戦するんやと思った」


 満身創痍の関西少女は意外感を顔に出していた。


「そのつもりだったけどな。四人で頑張ってくれ。心配せんでも、もしもの時の後始末はやってやる」

「それだと随分気が楽だね〜」


 亮太のアフターフォロー付きの戦闘と知った王子はのびのびとそう口にする。気楽になれると言いながらも、終始気楽にやってそうなので逆にその台詞に違和感を抱いてしまうのは亮太だけだろうか?


「ほな、再開するか、桔梗。きっちりケリつけようや」

「……色々、計算外やな。四対一で小笠原を倒せなかったのも。雅が負けたのも。俺が、お前ら四人にここまで手こずったのも、全て計算外や」


 遥の言葉に神妙な面持ちで応える桔梗。だが、そんな幼馴染みを関西少女は鼻で笑った。


「計算外? ただ単に、うちらを舐めてただけやろ。二人の敗因は亮の力を見誤ったことと、うちの魔法を見くびってたこと。ほんで、心の底ではF組を下に見てたことや」

「そういうわけだ、館山。俺ら個人の強さはお前ら一人に及ばなくても、四対一で負けるほど弱いつもりはない。

 潔く、散れ」


 熱のこもった雪彌は、未だ桔梗のレベルに達しない部位魔法で身体を強化する。遥は血だらけの右手で光の矢をつがえる。


 無言ながらも、優衣は息を整えて銃に魔力を溜め始める。王子は相変わらず飄々としていて何を考えているのか不明だ。


 四者それぞれが戦闘態勢を整えて、最後の敵を迎え撃った。



 先手は桔梗。最速で駆けて、視線の先、狙ったのは優衣だった。傍で見ていた亮太にしてみれば意外な一手。どうやら、桔梗を最も苦しめたのは念意少女のサポートらしい。


 少年の見解では、優衣にはそこまでの力は付いていなかったはずだが。……この短い時間で何かを得たか。

 実践で育った亮太の経験では、千の練習よりも濃密な一の実践。爆発的な成長にはそれが一番欠かせない。


 念意少女がどう動くか俄然興味が湧く。


 桔梗と優衣の間には距離がある上、雪彌、遥が前に立ち塞がる。ただ関西の少年はそんなものは関係ないとばかりに速度を緩めない。


 桔梗と同じ身体強化で構える雪彌は、自ら敵に近寄り近接戦に入ろうとする。

 二人の距離が一メートルに狭まり激突するかと思われたが、桔梗には無駄な戦闘をする気はなかったようで跳躍により雪彌を飛び越えて回避。


 空中にいる数秒だけの隙。遥は迷わずに矢を射るが、部位魔装で弾かれてダメージを与えるには至らない。弾かれたのはただの偶然だが、思いもよらぬ結果に少女は動きが鈍る。


 結果、傷を負わずに雪彌を突破。遥の真横に着地した。すぐさまその場で背後に土の壁を生成。高さ横幅ともに五メートル弱ほどの土壁だが、雪彌が桔梗を追撃するには数秒の時間を要する。つまり、優衣を潰すまでの時間、クールな少年は消えたも同然となる。


「悪くない手だ」


 続けて遥を攻撃と思われたが桔梗はこれを無視。距離を取るよりゼロ距離で居た方が脅威が落ちるとの判断だろう。


 まさに英断。矢をつがえるか近接戦に切り替えるのかの僅かな思考の時間は桔梗に味方する。


 あと、十五歩程度で念意少女に辿り着く。身体強化を施す彼にしてみればあってないような距離だ。


 そこまで来てようやく、桔梗が優衣を狙った動機が判然とする。


 少女が構えた魔銃の引き金を軽く引く。


 今までは怜の雷帝装を破壊出来る威力を備えた単発の魔弾。

 今回、銃口から出たのは威力は劣りながらも連続して発射される機関銃に似た性能を発揮する弾丸。


 遥に当たらないように調整されているが雪彌を気にしなくて良い分、遠慮しているようには見えない。


 一分間で数百発とまではいかなくても、百発近い魔弾が飛ぶ。

 確かにこれは厄介だ。


 優衣に近づこうにも殺傷能力を持つ上、体全体に被弾する連続魔弾を防ぐには、頭頂からつま先まで正面全体に魔装を施さなければならない。正面は急所だけをカバーし、背後からの攻撃に備えることも出来るが、死なない程度の重傷は覚悟しないといけない。

 すでにかなりのダメージを背負う桔梗にその手を使う覚悟はなく、関西の少年は前者を選び、念意少女にもそれは見破られている。殺す心配をする必要のない優衣は容赦なく引き金を引き続けられる。


 継続して発射される魔弾から逃れるべく、優衣を中心に円を描くように右へ駆けて行く少年。


 だが。


 これは判断ミス。正面に魔装を施したのであれば被弾覚悟で突き進むべきだ。例え薄い箇所に被弾したとしてもそれは致し方ないというもの。薄い箇所に当たったところで、そこは元々警戒心が最大にない箇所なのだ。更なる傷を負えない状況だろうが、そんな場所であれば動きに大した差はでない。


 右に旋回したせいで壁で遮った先にいる雪彌に合流する時間を与えてしまった。

 描く円の中心には優衣と万が一に備える王子。二人の左には弓を構えて狙いを定める遥がいて、壁を越えてきた雪彌は桔梗を追う姿勢を見せる。


 関西の少年は念意少女の銃弾を避けながら次手の構想を練る。遥の矢が進路の先を通り過ぎたりと、内心ぞっとするような展開も起こったが、雪彌が迫っているのもあり、桔梗は強行に出た。

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