上空にて
日本の上空を飛ぶ飛行機の中で少女四人の視線を集める。怜からお菓子を貰った念意少女は遥同様に座席の頭から顔を出していた。
意識を現在に戻した亮太は遥の質問をはぐらかす。天音の気持ちを知られずに説明するのが面倒になった。
「色々あったんだよ。遥こそいつの間に怜と仲良くなってんだ?」
「学内戦の後、四人でご飯食べたんや」
ざっくりとした情報。それでも怜から誘ったのだとすぐにわかった。優衣も天音も自ら接近するタイプではないし、遥はプライドが邪魔して自身から仲良くすることもない。
天音を差し向けた怜が動いたと推測するのが妥当。ずっと同世代の中心にいただけあって纏める力は優れている。
少なくとも友の力を見限ろうと考えていた少年よりもずっと世代のリーダーとして相応しい。
そうと分かっていても少年の取捨選択の念は変わらない。それは偏に、友となった彼、もしくは彼女の命が無駄に失われないために。今はまだ、子供同士の喧嘩であってもいずれ引き込む大戦の波に巻き込まないため。
それは怜も十二分に理解しているはず。それでも遥と親しくなったのは手の届かない位置に居られるより、傍に居てくれた方が制御しやすいと考えたからだろう。勇猛果敢、悪く言えば猪突猛進な遥を御するためにはそれが最善であるのも事実。
「そんなことよりや。なんやテンション低くないか?」
「あーそれ私も思った。ピリついてる感じ?」
感情の赴くまま話題を転換させる遥に上手く乗る天音。二人の感性は意外にも近いのかもしれない。
全員の目が向けられる中、答えないわけにもいかない。怜はおそらく理由に見当をつけているのだろうが助け舟はなし。
ここは本音と嘘を交えるしかなさそうだ。
「会場が旭家の管区、北海道だからな」
遥、優衣、天音は核心を掴めずにいる。
「この前、Sナイトの襲撃があったばかりだもんね。いつまた旭家を狙うか。それにこの対抗戦は次代の魔法師が集結する日本中が注目するビッグイベント。テログループにはこれ以上ない宣伝所ってわけね」
「そういうことだ」
期待通りに怜が上手く補足と誘導をしてくれて、皆が納得する場所に落ち着いた。
「大丈夫なのかな? そんな中、北海道で開催して」
不安そうに優衣が口を開く。彼女だけではない、Sナイトが亮太を攻撃することはないと知っている怜ですら不安の色は隠せていない。
「さあな」
「さあなって……」
匙を投げるような言い回しをする少年に半ば呆れるように怜が漏らした。
確かに言い方が悪かったかもしれないと思い、言葉を付け足す。
「会場が襲われるかは分かんないけど、旭家の威信に懸けて俺らや観客から犠牲者が出るようなことはまずないだろう。例年よりも警備は厳重らしいし、その中を襲撃するグループはそれこそ裏社会でもトップレベルの組織だ。
そして、そんな組織の動向のチェックを始祖一族が怠るとは思えん。旭家の監視を掻い潜って攻撃出来るグループがSナイト以外にいてもらっても困るしな。
正直、あれは別格だ」
「Sナイトってそんなにやばいんか?」
Sナイト。遥たちのような一般人の知識では旭家をも相手に過激な行動を取るテロ組織の一つであって、そのリーダーが魔王の一人に数えられるカミラ・ダルクだということ。
世界には一般社会にも名を知らしめる犯罪組織がいくつかあるものの魔王に直接攻撃出来るのはSナイトのみ。
その事実はとても重要かつかの組織が危険であると証明しているのだが、これもまた戦争、紛争、抗争とは無縁の社会で生きている彼女たちには分かりづらい、認識しづらい最悪の脅威と言える。
「そもそも旭家を襲えるってこと事態が異常なんだ。まあ攻撃しているのは彼らの研究施設であって魔王本人ではないけどな。
それに世界中見渡したって魔王の領域に自ら入って対抗しようとした奴なんて片手あれば充分数えられるくらい。今も自由に生きていられるのはそれこそSナイトだけだ」
「そう聞くとほんとに危険じゃん」
天音の本心に優衣は強く頷いた。
「一つ気になってるんだけどSナイトって反魔法主義組織なの? それとも人間至上主義組織?」
亮太の真上からぴょこんと顔を出す王子。これまでの会話を聞いていた上での参入。王子の隣席に座っていた雪彌も立って静観している。
「反魔法主義だろうな。今までの行動を推測したらだけど」
「今までの?」
「そう。Sナイトが今までに敵対して来たのはどれもこの魔法界で重鎮の位置に置かれる組織や国、人だ。古くはアメリカ。今は旭のようにな」
「なあ、そもそも反魔法主義と人間至上主義の違いがよく分かんねえんだけど」
「あーそれうちも」
雪彌の疑問に遥が便乗。皆の注目を集める亮太が答えようとするとより早く王子が反応した。
「反魔法主義っていうのは魔法が全てを決する社会ではなく、魔法を使えない人間も魔法師と同等の権利を持てるようにするって信念を掲げるもの。対して人間至上主義っていうのは魔法師ではなく、異能を使わない元来の人間が世界を統べるべきとする考え。って感じかな」
正解不正解を求めて亮太に視線が集まった。
「よく知ってたな。Fランク魔法すら知らなかったのに」
見上げた少年は嫌らしく友を攻めた。基礎の基礎を知らずして思想主義には詳しい歪さを分かりやすく提示して。
「勉強したんだよ……」
まさかそこを突かれるとは思っていなかったのだろう。動揺を完璧には隠せず引き攣った笑顔で王子は返す。
二人の問答、王子の正体を怪しんでいる怜を除いては意味を成さないものだった。
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