第34話 開戦
ゲートが開いて最初に脳裏に浮かんだのは、数年前の中東だ。戦争で崩壊した街を想起させる廃墟ステージ。あくまでもステージなので崩れることはないが、半壊の状態で建てられたそれらは十二分に少年の脳を刺激した。
思い出を頭の端にやって周辺の建物を確認する。視界に入る中で一番高いビルを選んで亮太は全員が分かるように指をさした。
「あそこにしよう」
二つのチームにはフラッグが支給される。まず両チームがやらなければならないのは、フラッグの定位置を決めること。そのあと攻勢に出るか守りに徹するかはチームによりけりだ。
亮太を先頭にして五人は一気に駆け上がった。
「どこに置く?」
最上階の四階で旗を持つ王子が辺りを見回す。
「場所はどこでもいい。そこら辺に捨てておけ」
「あーい」
王子はポイ捨てするようにチームの命とも言える旗を放り投げた。
「優衣」
「うん」
事前に打ち合わせをしていた通りに最も高い位置に移動したのち、優衣が探知魔法を使用する。
彼女は五月初旬。亮太の部屋で行った魔法の訓練を思い出した。
「じゃあ始めっか」
「はい!」
寡黙な少女は正座でピシッと背筋を伸ばし珍しく凛とした返事をした。
気合いが入りすぎているように見える。
「もうちょっと気抜いていいぞ。てか、力入りすぎ」
「そ、そおかな?」
「ああ。探知魔法の練習だ。リラックスしてやろうぜ」
「わ、わかった……」
いい具合に肩の力が抜け表情もいつもの気弱な優衣に戻りつつあった。
「まず、探知魔法を使う上でのイメージな」
優衣は深く頷く。
「水面を想像してみて」
彼女は目を瞑り、水面を頭の中に浮かべた。
「で、そこに雫を一滴落とす。すると当然水面には波紋が広がるよな?」
優衣は静かに頷いた。上手くイメージ出来ているようだ。
「重要なのはその波紋のイメージだ。探知魔法は波紋の中心点に自分を置き、広がる輪をセンサーとして扱うんだ。まずは俺を探知出来るか試してみよう。範囲は半径一メートルくらいでいいから」
「うん……」
出来ないかもしれないという不安が彼女の顔にありありと出ている。
それでも恐る恐る寡黙な少女は自分を中心に波紋を広げる。その過程で生物の反応を一つ捉えた。
「あ……出来たかも……」
「え? まじで?」
まさかの初回成功で割と冷静な亮太であっても驚かずにはいられない。いくら無意識のうちに魔法操作が得意になっていても、初めて使用する魔法を成功させるとは微塵も思っていなかった。
彼はイレギュラーな存在をまじまじと見た。
「たぶんだけど、生命反応? みたいのは感じ取った気がする」
「すげー」
心から出た称賛だった。優衣は過剰に反応し赤面しながら「いやいやいやっ」と顔の前で手を振った。
「正直予想以上だよ。修得するまでに二週間くらいかかると思っていたからな」
「あ、ありがとう」
真正面からの賛辞を寡黙な少女は受け入れた。
「あとは人の見分けと探知範囲の拡大を出来るようになれば完璧だな。とりあえず学内戦初戦までに俺、遥、雪彌、王子の特性を掴んでおいてくれ。範囲は可能な限りで構わん。優衣のペースで進めていいから」
「わかった」
思い出から意識を引き戻し少女は探知魔法を使った。
「北に二キロ。まだ五人一緒だね。流石にどの反応が誰かまでは判らないけど」
「よし。優衣と王子は一キロ進んで狙撃ポイントを探してくれ。遥は東から、雪彌は西から進んで挟撃な。優衣、敵が分散したら連絡くれ」
「オーケー」「わかった」「任せとき」「了解」
「ちゃんとイヤホンつけとけよ」
四人ともに了承して行動を開始した。
四人は上った階段を降って、亮太は四階から飛び降りた。
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